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南洋紀行
南洋紀行 11. 女の闇、男の闇
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斎が、玲を抱いていて、頭を撫でていた。
「ねぇ、玲」
「なにか、、、」
身をゆだねる様に、斎へ寄りかかっている玲へ、
「ぼくは、玲が好き。蒼い肌も綺麗だし、愛しいよ」
「ほんに、嬉しいのぉ」
しばらく玲の髪を撫でながら、斎は考えていて、確かめる様に
「ねぇ、あやかしが行った、穢れ多き仕事って、動物や人間の死体を片づけ、焼き祓うこと、獣の肉や皮革を扱ったりすることかな」
「そうじゃ。鬼火で瘴気と共に焼き祓い、疫病の蔓延を防ぐ。血の穢れを嫌う故、皮革を扱うのカワラモノには、あやかしが多いの」
綱の言ってた、千年って、穢れ多き者への差別が、ある程度は解消されるまでの期間として考えたんだ。あやかしをあやかしとして差別するのではなく、穢れ多き仕事として差別したのであれば、一方で、眷属が宿す力を利用して湯屋を造り、風呂の在る生活を行う。ミヅチ口で、大盥に湯を注いでいたが、湯を造っていたのは、赤銅色の肌を持つ者達だった。訊ねると、普段は女御狐が焚いていると言っていた。鬼火は、鉄を熔かし、ガラスを造るに使われている。
力そのものは、神の使いとして利用しつつ、穢れ多き仕事をも行わせることで、蔑みや侮蔑を受けることで、人が上に有ることを示す、、、悪魔のような呪いだ。
もうひとつ、玲の子が居るとは思えない、目立たない絞られた身体に、斎は気になっていた。
斎は、玲にキスをして、
「へんなことを訊くけど、子の父親は、為朝なの将なの」
「妾の子じゃ、斎」
えっとぉ、それって、斎は為朝が気になっていた。
「妾は、貞淑というにはほど遠いからの、お腹の子は為朝の種とは思うが、将の子矢も知れぬ。琉威の子凱琉の方が、よほど為朝の子とはっきりしてような」
「それは、大丈夫なの」
この時代じゃ、遺伝子鑑定とかできないし
「延喜格式例で、母親が基準となったのは、父親の特定ができぬからじゃ。母御の家が、基本的には家の基準となる。「武雷」では妾となって、「庚寅」は虎正となる」
「虎正って、もう一隻の船長でしょ、夫は他にいないの」
「虎正は、女が惚れる女なのかの、ミヅチの凛が妻じゃし、千代という妻もおる。為朝以外の男は、虎正には近づけぬな」
「それって、わざと。玲」
「選んだ理由は、そうじゃな。虎正の船は、ほとんどを女とし、男はミズチ衆くらいじゃ」
虎正の船「庚寅」には、趙香雲や岳安娘を含めて、女が集められていた。半面、「武雷」には男が多い。為朝がウルを連れて、紀平治や張節と「庚寅」に行くと、三日は帰ってこない。虎正が離さないというより、「庚寅」の女衆にとって、夫は為朝と紀平治、張節の三人とミヅチ衆だけなのだろう。三人以外だと、虎正はともかく、千代の機嫌が悪くなるので、「庚寅」との連絡や増援は、為朝、紀平治、張節の三人でおこなわれていた。
「それに、斎。ミヅチは、夫とした相手、妻とした相手以外は、あまり相手をせぬからの。海の上では、離してくれぬよ」
斎の弟達は、相手がおらぬミヅチ達に押し倒されるように抱かれていた。女達を見ていると、自分の愛した相手以外は、見向きもしていなかった。
これは、成長したミヅチの女達は、百貫を超えるので持てる男が居ないという現実がああった。このために為朝が、ミヅチの女達が男を抱上げた場合も夫として良いということとしていた。
講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実があってこその嘘であります。
男が、家の長たる場合、女に貞淑を求めるは、子の父親として、自分を確保するためであります。生まれた子は、女の実家が力となりますが、男親にとって、自分の子に疑いが起きることが一番の問題なのであります。貞淑とかが貴ばれる背景は、子供の父親が不安を払拭するためということになります。女が、家の長たる場合、貞淑さは必要ありません。誰の子種であっても、女にとっては自分の子です。自己の器量に自信がある女当主であれば、夫を幾人持っても問題はありません。
まぁ、どちらにしても、嫉妬というものは、何時の時代で在れ、難しいものなれば、嫉妬の闇には、老若男女の区別はありません。悲劇も喜劇もまた、心の闇が生み出すモノにございます。
「ねぇ、玲」
「なにか、、、」
身をゆだねる様に、斎へ寄りかかっている玲へ、
「ぼくは、玲が好き。蒼い肌も綺麗だし、愛しいよ」
「ほんに、嬉しいのぉ」
しばらく玲の髪を撫でながら、斎は考えていて、確かめる様に
「ねぇ、あやかしが行った、穢れ多き仕事って、動物や人間の死体を片づけ、焼き祓うこと、獣の肉や皮革を扱ったりすることかな」
「そうじゃ。鬼火で瘴気と共に焼き祓い、疫病の蔓延を防ぐ。血の穢れを嫌う故、皮革を扱うのカワラモノには、あやかしが多いの」
綱の言ってた、千年って、穢れ多き者への差別が、ある程度は解消されるまでの期間として考えたんだ。あやかしをあやかしとして差別するのではなく、穢れ多き仕事として差別したのであれば、一方で、眷属が宿す力を利用して湯屋を造り、風呂の在る生活を行う。ミヅチ口で、大盥に湯を注いでいたが、湯を造っていたのは、赤銅色の肌を持つ者達だった。訊ねると、普段は女御狐が焚いていると言っていた。鬼火は、鉄を熔かし、ガラスを造るに使われている。
力そのものは、神の使いとして利用しつつ、穢れ多き仕事をも行わせることで、蔑みや侮蔑を受けることで、人が上に有ることを示す、、、悪魔のような呪いだ。
もうひとつ、玲の子が居るとは思えない、目立たない絞られた身体に、斎は気になっていた。
斎は、玲にキスをして、
「へんなことを訊くけど、子の父親は、為朝なの将なの」
「妾の子じゃ、斎」
えっとぉ、それって、斎は為朝が気になっていた。
「妾は、貞淑というにはほど遠いからの、お腹の子は為朝の種とは思うが、将の子矢も知れぬ。琉威の子凱琉の方が、よほど為朝の子とはっきりしてような」
「それは、大丈夫なの」
この時代じゃ、遺伝子鑑定とかできないし
「延喜格式例で、母親が基準となったのは、父親の特定ができぬからじゃ。母御の家が、基本的には家の基準となる。「武雷」では妾となって、「庚寅」は虎正となる」
「虎正って、もう一隻の船長でしょ、夫は他にいないの」
「虎正は、女が惚れる女なのかの、ミヅチの凛が妻じゃし、千代という妻もおる。為朝以外の男は、虎正には近づけぬな」
「それって、わざと。玲」
「選んだ理由は、そうじゃな。虎正の船は、ほとんどを女とし、男はミズチ衆くらいじゃ」
虎正の船「庚寅」には、趙香雲や岳安娘を含めて、女が集められていた。半面、「武雷」には男が多い。為朝がウルを連れて、紀平治や張節と「庚寅」に行くと、三日は帰ってこない。虎正が離さないというより、「庚寅」の女衆にとって、夫は為朝と紀平治、張節の三人とミヅチ衆だけなのだろう。三人以外だと、虎正はともかく、千代の機嫌が悪くなるので、「庚寅」との連絡や増援は、為朝、紀平治、張節の三人でおこなわれていた。
「それに、斎。ミヅチは、夫とした相手、妻とした相手以外は、あまり相手をせぬからの。海の上では、離してくれぬよ」
斎の弟達は、相手がおらぬミヅチ達に押し倒されるように抱かれていた。女達を見ていると、自分の愛した相手以外は、見向きもしていなかった。
これは、成長したミヅチの女達は、百貫を超えるので持てる男が居ないという現実がああった。このために為朝が、ミヅチの女達が男を抱上げた場合も夫として良いということとしていた。
講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実があってこその嘘であります。
男が、家の長たる場合、女に貞淑を求めるは、子の父親として、自分を確保するためであります。生まれた子は、女の実家が力となりますが、男親にとって、自分の子に疑いが起きることが一番の問題なのであります。貞淑とかが貴ばれる背景は、子供の父親が不安を払拭するためということになります。女が、家の長たる場合、貞淑さは必要ありません。誰の子種であっても、女にとっては自分の子です。自己の器量に自信がある女当主であれば、夫を幾人持っても問題はありません。
まぁ、どちらにしても、嫉妬というものは、何時の時代で在れ、難しいものなれば、嫉妬の闇には、老若男女の区別はありません。悲劇も喜劇もまた、心の闇が生み出すモノにございます。
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