弓張月異聞 リアルチートは大海原を往く

Ittoh

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南洋紀行

南洋紀行 12. 南海の民との軋轢

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 毎朝、明るくなると、ミヅチ口が開かれ、八幡衆は銛漁へ出て、獲物を潮口に上げて、女御衆や塩飽衆とが捌き加工を始める。船の許容量もあるので、現在のところは、その日に食べる分だけが多く、加工する量は多く無かった。
 イツキの記憶には、太平洋を周回した時の島々と星の動きが記憶されていて、先祖たちが記憶した島や航路を含めて、太平洋の島嶼をかなりの範囲で把握していた。今も、斎は、硫黄島、南硫黄島、マリアナと島から島へ百里から二百里を航路として渡っていた。島で降りるのは、「庚寅かのえとら」に入っている為朝、紀平治、張節が、案内のウルと一緒に先行して上陸していた。



 数隻のカヌーが押し寄せようとするところから、凄まじいまでの爆音が響いた。海面が奔流のように上昇していった。



かなり離れた、「武雷タケミカヅチ」に届くくらいの凄まじい爆音に、斎が玲にしがみつくようにして言った。
「あれって、爆発だよね」
「カグラであろうな。鉄を溶かして海に投げ込んだのであろう」
「水蒸気爆発って奴」
「そうじゃな、船に近寄せたく無いのであろうな」
「近寄せたく無いの」
「どうも、南洋の民は、所有することを知らぬようじゃな」
「あぁ」
ウルの弟達が、塩漬けで保管している樽を開けて食べてしまうことを、イツキは何故駄目なのか、理解できなかった。とりあえず、食事として用意するモノ以外、倉庫のモノを食べてはダメ、高楼は神の領域だからダメ、ダメということは理解しても理由を理解できなかった。
「そうだね、船が皆のモノ。中にあるものも、机に有っても、彼らにとっては、誰のモノでも無い」
にあれば、皆のモノ」
 所有権という概念が無い。彼らのとの共棲は、非常に難しい側面があった。ミヅチに乗って、彼らの島へ行くことと、身に着けているモノに関しては所有している概念を持っていたためである。ただ、モノを何処かに置いてしまうと、彼らにとっては所有権が消失したことになる。
 為朝達には、徹底してモノを手放さないようにし、火耶かやが試しに造った、運搬用の双胴白漆喰船は、ミヅチ衆が交代で蜷局を巻くように乗っていることで、身につけていることとしていた。
「しかし、あれでは、島を占拠せねば、彼らとの交流は難しいの」
「そうだねぇ」
「斎の住んでいた島は、島は多いのか」
「珊瑚環礁の内側に島嶼が広がっているから、人の住んでない島も多いよ」
「ならば、斎。島へ社を建てて、島そのものを神域とするほかはないな」
「住む者は、島守ということになるの。玲」
「そうじゃな。それで上手く行けば良いがな」
玲は、かなり不安な雰囲気があった。イツキが顔を出して訊ねた。
「モノを皆が自由にしては、ダメか、玲」
「餓えれば、人は死ぬ、イツキ」
「うん」
「今日食べず、明日のために、食べ物を残す」
「明日、獲るではダメか」
「獲れるとは限らぬ。しかし、獲り過ぎてもいかぬ」
「それが、あたしたちを追う理由」
「それと、人のモノを奪ってはならぬ」
「この船には、船に住まう者一年分の食料を保存している。故に、船を湊に着けられぬ」
「食い物がれば、それを食う。食べれる間は働かない」
南方の民が特徴として、「足るを知る」ということがある。必要以上を求めず、勤勉な生き方ではなく、その日その日を過ごせれば良いという。これが、南方嵯峨を含め、南に住まう者達にとって、非常に厄介な課題であった。
 南方では、さほど手をかけなくても、ある程度は収穫ができる。そして、自生する作物や漁による収穫を含めれば、一定数の人口を養うことができる。島の面積からある程度の人口を維持が可能というのが、南方諸島の特徴であった。
 ただ、この方法では、一定数以上に人口が増えれば、飢えることとなって、必要以上に島を荒らし、滅びることとなる。史実におけるモアイ像で有名な、イースター島で起きた出来事は、その典型的な結果であった。
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