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南海覇王為朝
神を殺す神、その名は蚩尤
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講談師、見て来たように嘘を吐く。されど、真実混ざってこその嘘であります。
夜遅くはなったが、為朝は、玲の傍へと戻って来ていた。
「玲。起きているか」
寝ることもできず、傍らで眠る将の髪を手串で撫でていた。
「為朝か、今宵は、来ぬかと思ったが」
玲の褥の傍に座り込んで、為朝は考え込んでいた。
「玲。お前は、俺に何をさせたいのだ」
「為朝、この地であれば、あやかしがあやかしであることを隠さず、人と生きて行くことができる」
「確かに、この南の地であれば、あやかしであっても生きていけるだろう」
「そのために、八幡衆が祖霊となってもらいたい」
「何ッ」
「そなたにとって、八幡の社は、八幡太郎義家が社かも知れぬが、八幡衆にとっては、自らの一族が社」
「八幡衆の社」
「そうじゃ、それは人にとっても、あやかしにとってもじゃ」
「それが、八幡衆か」
「琉威の子、凱琉が生まれ、八幡衆にとっては、あやかしの長を得た。この身に宿す子もそうじゃ」
「この島で、八幡衆の長は、このままであれば凱琉となる」
「かつての綱のような家が生まれるのだな」
「そうじゃ、この南洋の海では、あやかしは神が一族でもある」
「では、蚩尤とは」
「彼の国で、神を殺す定めを背負った神。神を狩る神、その名を蚩尤と言う」
蚩尤に連なる、赤き鬼。あやかしでありながら、あやかしを殺す鋼を造り鍛えた一族。日ノ本では赤鬼と呼ばれている。そんな説明を玲は、為朝にしていった。
「では、玲。カグラは、蚩尤と同じなのか」
カグラの祖先は、かつて神を殺す道具を造り、ヤマトに仕えた、大丹波の一族その血を引く娘だ。あやかしをマガツ神として滅ぼし、封じ従えて使役するそれが、大丹波一族で合った。走狗は獲物が消えれば、己の意義を失って滅ぼされる。大丹波の一族は、まつろわぬ国として滅ぼされた。
「司ハルトゥは少し、紅き肌をしていたが、カグラに力では及ばぬ。だが、蚩尤としての使命は、魂魄に刻み込まれているようであった」
「蚩尤の使命が、神殺しか」
「鋼の刃が、彼の国のあやかしを滅ぼした。人だけの世を築くために」
「何故だ、玲」
「何故かは知らぬ、伝えらてもおらぬ。だが、蚩尤にとって、あやかしは滅ぼすべき民なのだ、為朝」
「それが、司ハルトゥか、海に飛び込んだようだが、死んだのではないか」
「さて、わからぬが蚩尤とは、剣舞の一族というのは間違いなさそうじゃ」
「剣舞、あの動きか、舞いなのか。玲」
「前に、妾と立ち合った時に、妾の動きが、剣舞の一つ。蚩尤が為した動きもまた、剣舞の一つじゃ」
「舞があれほどに強いのか」
「闘いにあって、極限の動きは、舞うが如くと称されたもの。為朝とて、一緒に舞いながら妾に追いついたでは無いか」
「玲やカグラの動きは、綺麗に見えたが、司ハルトゥの動きには、禍々しい気配を感じたぞ」
「蚩尤は、人の瘴気を力として、戦う者。人の闇が深ければ、力を増す者じゃ」
「魔物なのか」
「それも、わかってはおらぬ。蚩尤は伝承に語られるが、出合ったのは初めてじゃ」
「蚩尤が敵となるのか、玲」
「蚩尤は、人の敵にはならぬよ、為朝。人の瘴気を喰らう者故な」
「玲。俺は、お前達を護りたい、そのために八幡衆の長となったのだ。すでに仲間じゃ」
「ならば、為朝。蚩尤を敵としてくれるか」
「あやかしを一家一門に迎えて為した八幡衆ならば、玲。八幡衆の敵は俺の敵だ」
「八幡衆を一家一門として、為朝を長に迎えた。ありがとう、為朝、、、」
万感の思いを込めて、玲は為朝へ告げる。あやかしからすれば、人を長に迎えるのは、人に仕えるを示すため。だが、あやかしを長とするは、綱以来の一家一門となる。この南方嵯峨の島に、凱琉を長として、ミヅチが社を築ければ、周辺の島々を含めれば、万のミヅチ衆を養うことすらできよう。
海を駆けて戦うミヅチ衆が、千を超えれば周辺の島々に対して、征覇することもできる。
ゆっくりと、玲は、為朝へと声をかける。
「為朝」
「玲」
「戦いにあって、為朝を長とすると共に、為朝が子を、次代の長として育てても良いか、例え、それがあやかしであってもじゃ」
「それが望みか、玲」
「そうじゃ、この南方の島ならば、あやかしであることも隠さず、八幡衆が子として島長ともなれる世界を築きたい」
「了承じゃ、玲。俺は、琉威の子凱琉をこの島が主とするぞ、良いな」
「確かに」
滂沱の如く流れる涙は、為朝が心意気を受けて、玲の頬を流れ落ちていった。
「玲」
「心配いらぬ、為朝、嬉しいのじゃ。あやかしの明日が広がる」
大婆様、また一つ、あやかしの世界が広がりますよ。
ここに、八幡衆の島があやかしを長として築かれることが決まったのでありました。
夜遅くはなったが、為朝は、玲の傍へと戻って来ていた。
「玲。起きているか」
寝ることもできず、傍らで眠る将の髪を手串で撫でていた。
「為朝か、今宵は、来ぬかと思ったが」
玲の褥の傍に座り込んで、為朝は考え込んでいた。
「玲。お前は、俺に何をさせたいのだ」
「為朝、この地であれば、あやかしがあやかしであることを隠さず、人と生きて行くことができる」
「確かに、この南の地であれば、あやかしであっても生きていけるだろう」
「そのために、八幡衆が祖霊となってもらいたい」
「何ッ」
「そなたにとって、八幡の社は、八幡太郎義家が社かも知れぬが、八幡衆にとっては、自らの一族が社」
「八幡衆の社」
「そうじゃ、それは人にとっても、あやかしにとってもじゃ」
「それが、八幡衆か」
「琉威の子、凱琉が生まれ、八幡衆にとっては、あやかしの長を得た。この身に宿す子もそうじゃ」
「この島で、八幡衆の長は、このままであれば凱琉となる」
「かつての綱のような家が生まれるのだな」
「そうじゃ、この南洋の海では、あやかしは神が一族でもある」
「では、蚩尤とは」
「彼の国で、神を殺す定めを背負った神。神を狩る神、その名を蚩尤と言う」
蚩尤に連なる、赤き鬼。あやかしでありながら、あやかしを殺す鋼を造り鍛えた一族。日ノ本では赤鬼と呼ばれている。そんな説明を玲は、為朝にしていった。
「では、玲。カグラは、蚩尤と同じなのか」
カグラの祖先は、かつて神を殺す道具を造り、ヤマトに仕えた、大丹波の一族その血を引く娘だ。あやかしをマガツ神として滅ぼし、封じ従えて使役するそれが、大丹波一族で合った。走狗は獲物が消えれば、己の意義を失って滅ぼされる。大丹波の一族は、まつろわぬ国として滅ぼされた。
「司ハルトゥは少し、紅き肌をしていたが、カグラに力では及ばぬ。だが、蚩尤としての使命は、魂魄に刻み込まれているようであった」
「蚩尤の使命が、神殺しか」
「鋼の刃が、彼の国のあやかしを滅ぼした。人だけの世を築くために」
「何故だ、玲」
「何故かは知らぬ、伝えらてもおらぬ。だが、蚩尤にとって、あやかしは滅ぼすべき民なのだ、為朝」
「それが、司ハルトゥか、海に飛び込んだようだが、死んだのではないか」
「さて、わからぬが蚩尤とは、剣舞の一族というのは間違いなさそうじゃ」
「剣舞、あの動きか、舞いなのか。玲」
「前に、妾と立ち合った時に、妾の動きが、剣舞の一つ。蚩尤が為した動きもまた、剣舞の一つじゃ」
「舞があれほどに強いのか」
「闘いにあって、極限の動きは、舞うが如くと称されたもの。為朝とて、一緒に舞いながら妾に追いついたでは無いか」
「玲やカグラの動きは、綺麗に見えたが、司ハルトゥの動きには、禍々しい気配を感じたぞ」
「蚩尤は、人の瘴気を力として、戦う者。人の闇が深ければ、力を増す者じゃ」
「魔物なのか」
「それも、わかってはおらぬ。蚩尤は伝承に語られるが、出合ったのは初めてじゃ」
「蚩尤が敵となるのか、玲」
「蚩尤は、人の敵にはならぬよ、為朝。人の瘴気を喰らう者故な」
「玲。俺は、お前達を護りたい、そのために八幡衆の長となったのだ。すでに仲間じゃ」
「ならば、為朝。蚩尤を敵としてくれるか」
「あやかしを一家一門に迎えて為した八幡衆ならば、玲。八幡衆の敵は俺の敵だ」
「八幡衆を一家一門として、為朝を長に迎えた。ありがとう、為朝、、、」
万感の思いを込めて、玲は為朝へ告げる。あやかしからすれば、人を長に迎えるのは、人に仕えるを示すため。だが、あやかしを長とするは、綱以来の一家一門となる。この南方嵯峨の島に、凱琉を長として、ミヅチが社を築ければ、周辺の島々を含めれば、万のミヅチ衆を養うことすらできよう。
海を駆けて戦うミヅチ衆が、千を超えれば周辺の島々に対して、征覇することもできる。
ゆっくりと、玲は、為朝へと声をかける。
「為朝」
「玲」
「戦いにあって、為朝を長とすると共に、為朝が子を、次代の長として育てても良いか、例え、それがあやかしであってもじゃ」
「それが望みか、玲」
「そうじゃ、この南方の島ならば、あやかしであることも隠さず、八幡衆が子として島長ともなれる世界を築きたい」
「了承じゃ、玲。俺は、琉威の子凱琉をこの島が主とするぞ、良いな」
「確かに」
滂沱の如く流れる涙は、為朝が心意気を受けて、玲の頬を流れ落ちていった。
「玲」
「心配いらぬ、為朝、嬉しいのじゃ。あやかしの明日が広がる」
大婆様、また一つ、あやかしの世界が広がりますよ。
ここに、八幡衆の島があやかしを長として築かれることが決まったのでありました。
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