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陛下への恩義

陛下への恩義01 「不可避であった、日米戦争」

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 よくある議論に日米戦で、日本が勝てたか?というモノがある。
 まぁ、お爺ぃの意見としては、「昭和16年の状況のままで、20年状況を維持できれば、アメリカに勝てたが、16年の時点では勝ち目は無い」である。

 正面戦力を数字だけ見れば、昭和16年時点では、日米は互角の戦闘力を有している。
 アメリカは平時の国家体制で戦力を整えていたが、大日本帝国は国家を総動員することで、国力を富国強兵に注ぎ込んでいた。アメリカが、戦時体制を整えて、国家総動員で日米戦争を実行する事は、大日本帝国の敗北を意味していた。

 広大な中国戦線を抱えながら、アメリカと会戦であれば勝利可能な正面戦闘能力を有していたのは、大日本帝国だけである。しかしながら、アメリカの後方支援体制、工業生産能力、動員可能な人員数は、圧倒的にアメリカが有利であり、日本は貧弱な状態であった。

 昭和16年時点で、日米開戦が起きたら、日本の敗北は確実であった。
 猪瀬直樹著の「昭和16年夏の敗戦」という本は、昭和16年当時の日本政府が、日米戦の模擬戦を行って、敗北したという結果が提出されている。戦闘が長期化するにつれて、次々と戦力を強化して前線へ投入するアメリカ軍に対して、勝てば勝つほど、大日本帝国の経済状態が破綻し、戦略的に追い詰められていく日本軍という構図が描かれている。



 つまり昭和16年夏の状況としては、アメリカは、日米戦争が開始されれば、戦争を継続すれば、日本に勝てる戦争だったのである。




 第二次世界大戦では、アメリカと戦わず、ABCD包囲網を個別に叩けば、勝てたという意見である。

 一例としては、まず、オランダに宣戦布告して、南方の石油資源を抑える。その過程の中でイギリスに宣戦布告をおこなって、東南アジアを抑える。アメリカが非戦状態にあれば、日本は東南アジアまで、シーレーンを確保しつつ、イギリス、オランダの東アジア戦力を粉砕して、石油資源の確保を含めた戦争には、勝利できた可能性が高い。

 お爺ぃは、「アメリカが非戦を維持する」という点について、懐疑的である。なぜなら、この意見には、日本の成長速度について、なにも言及されていないからだ。



 日本が、焼け野原になった第二次世界大戦後、20年後の1965年には高度経済成長を実現を目指していたのである。つまり、日本の重工業生産能力は、戦争で焼け野原になったにも関わらず、復興していたのである。



 お爺ぃが言いたいのは、第二次世界大戦で、日本が戦っていなかったら、10年後の昭和26年には、日米国力差は縮まり、日本は継戦能力という点でも強化されてしまうこととなる。昭和26年に日米が開戦した場合は、互角の戦力となっている可能性があり、昭和36年に日米開戦した場合は、日本が国力でも上回っている可能性があった。
 つまり、アメリカから日本を見た場合、昭和16年時点でなければ、日本に勝てず、昭和16年に日米相互不可侵条約を結び、昭和36年を迎えたら、戦争そのものができなくなるくらいに、日本が強化されている可能性があったのである。



 正直に言って、アメリカは、大日本帝国に怯えていたハズであり、昭和16年に戦争しない限り、勝てない戦争を仕掛けることになるのは、アメリカ側であった可能性も高かったのである。



 お爺ぃは、アメリカは昭和16年時点で、日本と世界中で最も戦争がしたかった国だと予測している。欧州の列強諸国が、戦争で疲弊していく中で、日本が満州事変から始まった日中戦争に、昭和16年から20年にかけて干渉するほどの余力は、欧州諸国に無い。日中戦争で日本が勝利し、中国全土まで大日本帝国の支配下に入った場合、アメリカは二度と日本に圧倒的な国力差で勝つ機会を失うことになる。

 新興国でありながら、欧州から極めて遠く、距離の防波堤によって、欧州大戦の影響を受けない大国は、アメリカと大日本帝国の二大国だけであり、欧州が植民地支配による搾取が難しくなるにつれて、経済力を向上させていくのは、アメリカと大日本帝国だけなのである。

 ウィルソン大統領による、「民族自決」という大義名分は、欧州の植民地を独立させるには、アメリカにとっては有効な介入戦争を仕掛ける口実になり、欧州の植民地を解放して、アメリカによる経済侵略によって実効支配することが可能となる。
 大日本帝国もまた、「大東亜共栄圏」「八紘一宇」といった大義名分によって、東南アジアの植民地を独立させて、経済侵略による実効支配することが可能となる。まして、大日本帝国が構築していた体制からすれば、アメリカは南米アフリカに対してはともかく、中国アジア地域に対しては、完全に出遅れていたのである。

 アメリカにとって、このまま何もせずに、大日本帝国を成長させることは、アメリカ国益を損なうことは明白であった。



 お爺ぃは、昭和16年から昭和20年における日米戦争は、アメリカ側からすれば、「歴史の必然であった」と考えている。アメリカ側からすれば、何時、日本を戦争に引き込むかであった。タイムリミットはアメリカ側にあり、遅れれば遅れる程、アメリカは対日戦争に勝利する時期を逸するのである。
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