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日本の怖さ
日ノ本の恐さ 「不偸盗戒」窃盗はいけない、所有権の確立へ
しおりを挟む窃盗はいけないというのは、前提条件として、モノを所有する概念が必要です。
16世紀の太平洋に点在する島嶼地域では、現地の住民にとって、身に着けているモノは、私有という概念があるが、身に着けていないモノは、所有権が無いという法を持っていた。机の上に置かれているインクやペンは、置かれているだけなので、所有権が存在しないことになり、現地の人間が、ペンを持ち去っても、現地の法律上は無罪なのです。
現在の日本に住んでいると、理解し難いことであるが、日本でモノを所有することを概念とするのには、非常に長い時間がかかっていて、天平期あたりまではかなり曖昧であったと推定される。
参考資料:石井良助「日本法制史概要」(1952年)
日本では、602年の法令整備の中で、遺失物の規定がなされている。「所有者が明らかなモノは、所有者に戻すが良い」という形で、遺失物への対応が始まった。地面に落としたものを、警察に届けるのは、現行法の遺失物に関する法律であるが、始まりは推古天皇10年のことであり、聖徳太子による法整備のひとつとされている。
南北アメリカ大陸で、欧州からの移住者が好き勝手できたのは、現地の人に土地を所有する権利というモノを、個人が私有する概念が無かったためでもあった。
縄文期が、同様の時代であったとすれば、土地は誰のモノでもなく、公共財産の扱いとなっていたことになります。畿内によって、「祀ろわぬ民」から「祀ろう民」へと変革が進む中、土地の所有の明確化が図られ、虐殺者と同じことをしていたと推定されます。つまりは、すべての土地の国有化です。明文化されたのは、律令期の話ですが、土地の国有化こそが、日本国の始まりを決定づけたのです。
崇神陛下より始まり、神功陛下の御代に全国制覇が達成され、仁徳帝の御代に国府が設置されたことで、国の所有権が日本国にあると、明確化されたことになります。薩摩が南ですが、南西諸島の島嶼地域についても国府が置かれていない日本国でありました。陸奥が北限ですが、津軽海峡から先の島嶼地域もまた日本国でありました。陸奥より北、薩摩より南については、どこまでが日本国の国土であるかについては、時代によって変化しますから、明確な国境がありません。西は任那ですから、これもまた国境が明確化し難い地域でもありました。東の常陸は、日立とされ、海の向こうが遥か彼方であることから、明確な国境が太平洋となります。
国の所有権は、行基式地図という形でいえば、陸奥から薩摩までの地域ですが、国ではない島嶼は記載されていないので、国力によって決まるということになります。
土地そのものを公地公民として、国司の許認可を受けて、新たな墾田を開拓することで、開拓した場所の私有を認めるというのが、墾田永年私財法天平15年5月27日に規定された記述になります。養老74月17日の三世一身の法、百万町歩開墾計画が養老6年の流れは、墾田拡大に限界が来ていたことを意味しています。
正直に言えば、律令体制が確立する、近江令天智天皇元年から飛鳥浄御原令天武10年の時期には、限界に来ていた。
余剰労働力を集めて、土木治水工事を遂行し、墾田を開拓して口分田として民に分け与えて、増加する余剰労働力でさらなる、大規模土木治水工事を遂行する。畿内の全国制覇を支えたのは、余剰労働力であり、大規模治水工事による、墾田開発であった。
崇神陛下より始まり、拡大するスパイラル期間中であれば、戦力は常に上昇し、国土は常に拡大していく結果となる。最大の版図なったのが、神功陛下の御代で三韓征伐達成期ということになる。平和となった、応仁陛下から仁徳陛下の御代には、最大級の土木治水工事が遂行され、墾田開発もピークに達したと推定される。
問題となるのは、都合の良いコストパフォーマンスは、そんなに長く維持できないということである。
墾田開発と班田収授は、崇神陛下の頃は四道将軍の勝手であり、それほど明確な規定はなかったが、班田収授の不平不満は戦力低下になることから、公平な墾田開発と班田収授を行うために、様々な整備が為される中で、隋や唐の律令を転用したのが、畿内の律令制度である。
墾田と収授は、セットであるが、個人の財産制度でなく、公的な財産制度であり、西欧でいえば小作農や農奴に近い制度であった。人口が増加し、次から次へと拡大していく場合は、効率よく国力が拡大していくが、時間が経過し、世代が代わり、どの土地を誰が収受するかについての土地問題は、非常に多くの裁可を必要としていた。
労役や軍役は、国境が拡大する時代であり、より多くのモノが得られるとなれば、労役や軍役の負担は重くはない。しかしながら、国境が拡大しすぎて、得られるモノより、怪我や武器の破損等で失うモノが多くなれば、労役や軍役の負担は、非常に重いものとなる。
結果として、口分田を耕す者達が消えて、勝手に墾田を開いて耕す者が増える。つまり、律令体制を必要とした時には、拡大する時代から縮小再生産の時代に変化し、公地公民が限界を迎えていたことを意味するのである。
私有財産を認める形で、墾田永年私財法を国司の許認可で制定されたことは、所有権の確立でもあった。
盗みを「悪」とするためには、所有権を認めなければならず、私有財産があって初めて「窃盗」は成立するのである。
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