平安バストイレ事情

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宵闇背景綺談

堆肥と肥溜め、そして寝殿造り

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 人糞を堆肥にするための設備が、昔あった肥溜めと呼ばれる土に埋めた木桶だったりします。日本国内では、もう見かけることがほとんどありませんが、昔はかなり多かったと思われます。
<肥溜め>

 人糞という肥料は、寄生虫等の危険があったという意見があります。これは、人糞をそのまま畑に撒いた場合、根が実際には腐ったりするため、実際にはほとんど役には立ちません。人糞を肥料として使おうとすると、木屑や藁なんかと一緒に溜めておくことで、人糞を発酵させます。この発酵では、かなり大きな熱(摂氏数十度)を持ちますから、この状態の時には、凄まじい悪臭と共に、虻蠅といった虫を発生させていたりします。
 まぁ、昔はこういった情景が風物詩のように稲刈りが終わったあとに行われていたように記憶しています。藁を束にして集めて、土の上に撒いて、糞尿をその上に撒いていきます。そしてその上を藁で覆って、糞尿を撒いてという行為を繰り返していきます。そして、土を起こすように、糞尿や藁を土と一緒に切り返して混ぜていきます。
 肥溜めは、この作業を行っていた田畑の側に、撒きやすいように溜めておく場所として使われていました。
 堆肥が、有機肥料として有効と判ってきた、平安時代後期から、徐々にこういった光景が全国に広がっていき、鎌倉時代には、材料となる人糞を集めるために、汲み取り式のトイレが、建物として造られていったこととなります。
 貨幣経済が、大きく浸透した江戸時代は、この人糞という材料が価値を持ったため、かなり高額で取引されるようになったようです。つまりは、糞尿に価値があったので、汲み取り式トイレが、建物の設計として、日本国内に浸透したということになります。



 そういった汲み取り式に意味がない、平安京の時代には、野糞やたちションが当たり前の町であり、京洛建設当時に都大路が、八十四メートルの道幅があったはずですが、現在の千本通に当時の面影はありません。これは、御所が火災で焼けたりして、東側へと移動していって、廃墟となった御所跡や大路が、糞通りのようになってしまって、徐々に疫病溢れる京洛の都を形成していったように思います。
 インターネットで検索すると出てくる、史実の「伺便餓鬼」(wikiでは餓鬼草子と記述されています)に描かれる餓鬼は、ボロ布を纏い、女性の野糞を見ている変態のようにも描かれています。もしかすると、食い物が無くて・・・という状況であったのかもしれません。

 こういった平安トイレ事情から、平安時代に貴族が住んでいた寝殿造りという建物には、困ったことにトイレがありません。寝殿造りでは、主屋である寝殿を中心として、東西の対屋が廊下で連結されていて、行き来できるように造られています。また、行事やイベントによって、部屋の形状を変更することもあり、それぞれの建物は、間仕切りがきちんとあるわけでは無く、だだっ広い板間を、屏風や衝立、几帳を並べて、御簾を吊ることで仕切りを入れて、間仕切りを構成していたようです。

 つまりは、まぁ、この中で平安貴族が煌びやかな源氏物語絵巻のようなことをしていると、周囲に筒抜けであったとも言えます。
 物語絵巻が、流れるように場面が変わっていく描き方ができるのも、もともと何も無い建物にその場その場で仕切りを構成して、御簾を吊ってという構造そのものから生まれた構成であったのかも知れません。
<寝殿造り>

 この寝殿造りには、トイレがありませんから、トイレの状況については、疑問でもあったようで、有職故実に明るい伊勢貞丈(1717-1784)が記述した「安斎随筆」によると、「古には、雪隠(トイレ)というモノが無く、用便をする一間を”樋殿”として設けて、用便に使う、樋箱(オマルだ)、壺を置いていたようだ」と記述されているそうである。
 でもって、平安当時の樋殿を記述として探すと、「師記」大宰権師の1080年頃の日から、北渡殿に湯殿と樋殿を設置したと描かれていました。ただ、寝殿造りという構造からすると、どこかの対屋近くに、こういった場所が設けられていたものと推定できます。
 湯殿と樋殿が側に設置されたのは、現在のユニットバスのような感覚で在ったのかも知れません。
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