ショタな未亡狐のツンデレ綺談

Ittoh

文字の大きさ
上 下
35 / 41
綱の庵

頼光が思惑

しおりを挟む
  渡辺党として、一家を建てるにあたって、土地が摂津国となるため、渡辺党の主人となるのは、源頼光様である。
  金時は、頼光様からつけられた寄騎であった。
  検非違使庁舎で、頼光様に、太極殿での件、杜屋での件を報告した。
  頼光様は、難しい顔をされて、
「葛葉殿が件は、葛葉殿が良ければ、よかろう。だが、金時は許さぬ」
  よ、頼光様っ。
  頼光様に詰め寄って、
  惚れている男と女おのことおなごなれば、何卒っ。
「綱。金時は、そなたの監視でもあるのじゃ。今のそなたは、あやかしひとならざるものにより過ぎておる」
  わたしは、そんなことは、
「わかっておるが。それは、この頼光だけのことじゃ、清和源氏が流れ、多田一党からみれば、渡辺党は、一族に連なるが、嵯峨源氏が流れじゃ」
  源氏が頭領としては、清和源氏の流れを組む、多田源氏一党からすれば、嵯峨源氏は分家クラスでしかない。その分家クラスが、主家に対抗する家門となるのは、問題であった。
「綱。一度、金時を儂に預けろ。我が猶子として、保昌の娘御に婿となれば良い」
  つまりは、金時は、頼光が猶子となると。
「綱。儂は、そなたの初陣を葛城としたのを後悔しておる」
  頼光様。
「颯の父は、この儂じゃ」
  なっ。頼光様っ
「つまりは颯のつまであるそなたは、儂の婿でもある」
  頼光様、、、
  居住まいを糺して、頼光に向かい会う。
「どうした、綱。そんな、かしこまって」
  何故に、葛城征伐を引き受けられたのですか。
  あの隠れ里は、滅びの里であった。
「頼まれたのよ、葛城が長しなどにな」
   頼まれた。
「確かに葛城は、滅びの里じゃ。おそらくは、ほっておいても、二百年もすれば里は残るまい」
   頼光が言葉は、事実であったのだろう。土蜘蛛は、長生きする方とは行っても、百歳を超えることはほとんどない。
  しかし、それならば、待って居ても、
「それでは、葛城一族のことを誰からも忘れられてしまうとな」
  それは、
「滅びを待って、忘れ去れては、里を離れた葛城は、あやかしひとならざるものとしての衆を喪い、個々に滅びを迎えることとなる。それを避けたいとな」
  里が滅びなければ、新たな里を拓くことができない。
「そなたの庵にせよ、桂川のカワラモノにしても、葛城を名乗っておるであろう」
  は、はい。颯を若長として、葛城の土蜘蛛が流れと、
「それで良い。葛城はな、綱よ。かつて主上に従いて、上人の教えに従って薬樹を拓いた一族でもあった」
  ならば、征伐とするはおかしいのではありませんか、
「権を巡る戦で敗れ、逆賊とされ、まつろわぬ民となったのだ」
   それが、カワラモノなのですか
「はっはっは、綱。権に敗れ滅びた一族が、葛城だけと思うか」
  いえ、
「カワラモノすべてが、葛城ではないが、桂川の者たちは、自分達を葛城と名乗ることで、颯が下へ集った」
  頼光様、それは“まつろわぬもの”を民にするということですか、
「渡辺党が家人なれば、“まつろわぬもの”ではあるまい」
  渡辺党は、嵯峨源氏が流れ綱が率いる一家です。主上に逆らうことはありません。
  日本という国は、非常に多くの民が生きる国であり、戦に敗れ亡命した百済王を始めとして、彼の国を追われた人やあやかしひとならざるものが住まう国でもあった。
「のぉ、綱。儂は、かつて、一人のあやかしひとならざるものが姫に救われた」
  救われた、、、
「そうじゃ。祟り神タタリガミに襲われた太極殿で、主上を護れなんだ。主上を守ったのは、一人のあやかしひとならざるものであった」
  それが、鷺姫。
  五位を主上から賜り、女御となった。
「主上を愛し、死して尚、愛し抜いた姫であった」
  延喜の格式に、追補が生まれたは、その後。鷺姫の菩提へ捧げた格式。
「人を母とすれば人、あやかしひとならざるものを母とすれば、あやかしひとならざるもの
  頼光様、、、
  頼光様から少し、涙上が溢れていた。
あやかしひとならざるものはな、そなたに夢を見ておる」
  夢ですか、、、
あやかしひとならざるものが追われることなく暮らせる現世うつつの夢じゃ」
  それは、夢じゃありません。この綱と渡辺が血族、必ずや成し遂げましょう。
「綱。渡辺が血族、すべてを捧げる夢か」
  はい、頼光様。一代でなせねば、二代、血が繋がり、夢を追い求める限りに、夢は現世うつつとなりましょう。
「晴明は、表立って動けなかろうが、彼の子等もまた追い求めることとなろう」
  頼光様。この綱は、権を求めません。それは、道長殿や頼光様にお任せします。ただ、好きになった女と一家一門と共に暮らせることを望みます。
「そうか、、、ところで、綱。颯には、文を送ってある」
  突然、頼光様が、話を変えた。
  へっ、なんでしょうか、
「綱が、頼りにならねば、いつでも多田へ参れ。颯が子に一家を持たせるとな」
  そ、それは、
「精進せぃッ、綱。今は、颯が婿は、その方じゃ」
  は、はいッ
  居住まいを、さらに糺すように、かしこまった、俺に、頼光様は、
「綱が、自分を見失うようなことがあれば、この頼光が斬って捨てるッ、良いな」
  は、ははぁッ
  平伏して、頼光様の命を受けた。
「明日は、秋の耳目じゃ。心して受けるが良い」
  はッ。



  講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実があっての嘘であります。
  秋の耳目にて、渡辺綱は、坂田金時と共に、正八位の検非違使大志と共に、武家の名誉職である、主上が住まう内裏の警護を担当する、滝口の武士もののふとなったのでありました。
  源頼光は、従五位の蔵人の検非違使すけとなり、晴れて貴族の中の貴族である殿上人となったのでありました。碓井貞光は、頼光の跡として、検非違使従六位蔵人大尉となった。玉藻様と結ばれた、卜部季武は、検非違使を外れ、伏見差配の斎宮寮いつきのみやりょう従八位大属として伏見に入った。
 
しおりを挟む

処理中です...