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エンディングは勝利に始まる

屍の上に勝利を載せて

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 戦場を歩いていると、凄まじいまでの殲滅戦になっていたことがわかる。今も、息が在るローマ兵を生き残った戦士達が止めを刺して回っていた。ケルトの兵達つわものたちも六割を超える損害を出しており、壊滅に近い損害となっていた。
 確か、史実では、23万の殆どが戦死して、ローマ軍にはほとんど損害が無かったはず。
「ケータ、母様が呼んでいる。一緒に来い」
「わかった。レヴィア様」
「もぅ、レヴィアで良いって」
「いや、やっぱりケジメだから」
「わかったわよ、行こっ」
すっと手を伸ばして、俺の手を取ると腕を絡めて、引っ張るように歩き出した。俺が愛する女王様だ。まぁ、女王様というには、若いというか幼い感じである。でも、まだまだ育ちそうな豊かな胸乳おっぱいが腕に押し付けられているのが嬉しかったりもして、そのままレヴィアに連れられて義母様の下へと向かっていった。



 母様の天幕を囲っている周囲は、イケニの者達ばかりだざっと見回すと三千ほどといったところだ。他の者達は、コリニィウムの掠奪へ向かっていたようだ。他の部族は見かけなかった。
天幕に入ると、義母様の愛人だった、ドゥルカが死んでいて、義母様が死化粧を施していた。
居住まいを糺すように、レヴィアは離れて、
「母様。遅れて申し訳ありませんでした」
「仕方ないわ、レヴィア。なんとか、勝てたのだし」
「他の者達は、どうしたのです。母様」
「コリニィウムの掠奪に向かったわ、そこで騒ぐのでしょう」
そう言ってドゥルカの死化粧を施した。義母様の姿は、瘴気に纏わり憑かれた魔性の姿から、昔の落ち着いた感じになっていた。
 そう、彼女の夫プラスタグス国王が生きていた頃のように。



 化粧を終えた、義母が、俺の方を向いて、
「あなたは、ケータだったかしら」
「はい、女王ボーディカ。ケータ・カツラギと言います」
すぅっと、目を細めるようにすると、
「娘レヴィアを主として、使えてくれますか、ローマ商人」
「えっ、ちょっと母、」
慌てるレヴィアを手で制して、
「レヴィアをロンドニゥムの長としたのは私ですよ、女王ボーディカ」
「えぇ、でもそれは、ロンドニゥムを掠奪から護るためですよね。ケータ」
凄まじいまでの威圧が、女王ボーディカより発せられて、その場に膝をついた。



そして、義母ではなく、女王ボーディカに向かって、俺は答える。
「いえ、ロンドニゥムとイケニの明日を築くためです」
「ロンドニゥムですか」
「はい。ローマではなく、ロンドニゥムの民とイケニの民を纏めたいと思っています」
「イケニに従うのか」
「いいえ。ロンドニゥムの長に従うのです。そして、長はレヴィアです」
「良いのですか、ケータ」
「はい。私は商人ですから、王になりたいとは思いません」
俺は、はっきりと宣告した。そしてレヴィアを見て訊ねた。
「レヴィアは良いのですか」
「ケータに、力を欲したのは、私自身です、母様」
そうだね、幼き頃の選択。レヴィア貴女は、剣を選んだ。にっこりと微笑うレヴィアの姿は、女神のように美しかった。



 そして、女王ボーディカが宣言す。
「明日、死者の弔いをすませて、我等はイケニに帰ります」
 こうして、ブリタニアンとローマ軍の戦は、一応の集結をみた。



 戦場の屍を出来る限り集め、集められるだけの薪を集めて火をかけていった。
 総勢16万の屍である。すべてを集めることは難しかった。ま、はっきり言って、無理。
 木組みの祭壇には、女王ボーディカの愛人ドゥルカが寝かされて、女王自らが炎にかけていった。
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