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第9話 Side:M

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 一回で終わらないなら何回ヤらせればいいんだ。そんなことも分からず、ただひたすら二人に輪姦されて、時間はすぎていった。もう声すら枯れ果てようとする頃、ようやく体は解放された。といっても、もう体はどこも自力で動かせる力はなくて、ただ荒い呼吸を肩で継ぎながら、熱でぼやけた視界で虚ろにどこかを見つめるだけだった。やっと満足してくれた男がベッドから降りていく揺れを感じながら、意識はただ遠くにあった。そんな俺に、服を着た男が片方近付いてくる。

「城の中で不穏な動きがある。どうやら城内の誰かが王子を狙っているらしい。ついでに、王子の弱みになるお前を狙っているとか。……今日の礼だ。楽しませてもらった」

 それだけ耳打ちして、二人は部屋から出ていく。今のが、最初に言っていた話だというのか。もし、今の話が本当なら、城内に謀反を企てる者がいるということである。そんな話、フィンからは一言も聞いていない。それが真実かは分からない。でもフィンが俺に話さない理由はなんとなくわかった。

 考えることはたくさんあるというのに、意識はだんだん遠退いていく。瞼が重くて、頭も重い。気づかぬ内にそのまま意識は途切れてしまっていた。

 目が覚めた時、そこはいつもと変わらないフィンの部屋だった。ただいつもと違うのは、酷い倦怠感と体の重み。両手の拘束は解いていってくれたらしく手はちゃんと動かせた。でもそれ以外の後処理は何もしてくれなかったらしい。全身にこびりついている感触が気持ち悪い。どうせなら何事もなかったかのように綺麗にしていってくれたら、まだ夢だと思えたのに。部屋の外から軽い足音がする。これはアイハの足音。俺を起こしにきたのだろう。隠すのも、この体では無理だ。見られるしかない。

「失礼します。隊長起きて……、え、え? これ、なにが……!」

「アイハ」

 部屋に入ってきたアイハが案の定驚いた声をあげている。それも仕方ないだろう。誰がどう見てもレイプされましたという格好である。絶句するアイハの名前を静かに呼ぶと、アイハは青ざめた顔で俺を見た。なんで俺より傷ついた顔をしているのか。それはアイハが優しいやつだから。その優しさを、俺はこれから利用するのだけど。

「フィンたちには、絶対に言うな」

「……え? で、でも!」

 こんな有様では、確実に帰ってきたフィンたちに報告される。そしたら何があったか問い詰められるだろう。より一層部屋の警備が強化されてしまう。俺では抜け出せなくなってしまう。それは困るから。あんな話を聞いてここにいるわけにはいかないから。

「な、アイハ。……頼むよ」

「っ……、……拭くもの、持ってきます」

 そう呟いて笑って見せると、アイハは悔しそうな、悲しそうな、そんな辛そうな顔をした。俺が歩けないと知った時と同じ顔だ。お前を悲しませるつもりじゃなかったのに。せめて綺麗にしてくれていたら、アイハを巻き込むこともなかったのに。アイハは走って部屋を出て行く。ああ言えば、きっとアイハは誰にも言わない。

「……ごめんな」

 もし、アイツらが言ったことが本当なら、俺は、ここにいちゃいけない。今でさえフィンの足枷になっているのに、もう重荷になんてなりたくない。ここまで散々手間をかけておいて、何も言わずに出て行ったりなんかしたら一生恨まれるかもしれないけど、俺のせいでフィンやみんなを危険な目に遭わせるよりはマシだ。

 夕方ごろ、フィンたちが城に帰ってくる頃にはベッドも俺もいつもと変わらない状態に戻っていた。汚れたシーツも取り替えてもらい、体も綺麗に拭いてもらった。「ただいま」と笑って部屋に帰ってきたフィンに対して、いつものように笑顔を返して「おかえり」と告げる。アイハはずっと浮かない表情をしていたが、以降何も言わなくなっていた。誰がやったとか、聞きたいことはたくさんあっただろうけど、それも全部飲み込んでただ何度か「ごめんなさい」と呟いていた。アイハは何一つ悪くない。だけどアイハは、自分が任されていたのにちゃんと見ていなかったせいでこうなったと思ってしまったのだろう。抵抗ができないこの体。いつそんなことが起きてもおかしくなかった。誰もいない場所で悪意を向けられたら何もできない。殺されなかっただけ、まだマシだ。実際にそんなことされたら、多分フィンが意地でも犯人探しをしてくれると思うから。そこまでのことは起こらないだろうと思うけど。

「どうした?」

「ううん、なんでもないよ」

 執務机に荷物を置いたフィンが、ふと辺りを見渡した。そして少し目を細める。何か隠し忘れたものでもあったかとヒヤッとするが、フィンは俺を見てまた笑顔を向けた。上着も脱いで身軽になったフィンは真っ直ぐベッドに来て、飛びつくようにベッドに上がって来た。首に手を回してしがみつきながら頰に顔を触れさせてくる。

「あぁ~、久しぶりのミューだ~」

「久しぶりって、たった二日ぶりだろ」

「たかが二日、されど二日だよ?」

 人を堪能するように頬をスリスリと擦りつけられる。柔らかくて暖かい肌の感触が伝わってくる。それだけだというのに、心が満たされていく。浮ついていたものが落ち着いていく。やっぱり、フィンと一緒にいるときが一番安心する。でもだからこそ。猫のように嬉しそうに笑うフィンを横目に見る。

 俺はここにいちゃいけない。ここにいる限り、俺は生きる意味をフィンに求めてしまう。そのせいでフィンの立場を危険に晒してしまったら。逃した死に場所、それを探しにいかないと。
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