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序章
第五話
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どれくらいの間眠っていたのか、セイランは一際重い瞼を半ばこじ開けるようにして目を開く。いつの間にか横にされていたらしく、目の前には大地と、森が広がっていた。服か何かで作られた簡易的な枕に乗せられていた頭を少し傾けて、空を見上げてみると、セイランの眼前にはオレンジ色の焼けた空が広がった。日が落ちかけて冷たくなった風が、空にかかる木葉を揺らしていく。
自分が長いこと眠ってしまっていたと悟るには、十分すぎる情報だった。慌てて飛び起きようとした体に、主に頭と腰に鈍い痛みが走る。その痛みは、セイランに眠る前に何をされていたかを思い出させていく。あの全身を覆っていた酷い熱はきれいさっぱり消えていた。残っていた方が困るのでそれはそれで良かったのだけど。熱と一緒に記憶も消えて欲しかった。ほんの数分前に出会ったばかりの、見ず知らずの男に対して晒した痴態。それはセイランの記憶にしっかりこびりついていた。
もう一度眠って今度こそ忘れてやりたいところだが、そうも言ってはいられない。魔物は夜行性が多い。先ほどの狼型の魔物のように、この森にはそこまで強い種の魔物は存在しないが、視界が悪い夜はそう言ってもいられない。こんな森のど真ん中で寝るなんて、自らを餌にする行為と同じだ。
動くだけでズキズキとする痛みを堪えながら、セイランは何とか身を起こす。どうやら場所を動かされてはいないらしく、気を失った時と同じ木の根元で眠っていたようだった。背負っていた大剣は側に置かれている。枕にしていたのは、あの青年が羽織っていた黒いローブだった。手触りが滑らかで、柔らかい。詳しくは分からないが、物の良し悪しの区別があまりつかないセイランにでも、それは上質な素材のものだと分かるほどのものだった。
セイランは痛む腰に手を当てながら自分の身体を確認してみるが、半端に脱がされていたはずの下半身は元通りで、濡れていたり汚れていたりもなく、不快感もどこにもなかった。まるで夢でも見ていたかと思わされるが、残念なことに腰と頭の痛みは本物だ。そして起きた瞬間から感じている気配。あの青年は夢ではない。
「あ、やっと起きた。平気?」
背後から聞こえたその声に、セイランは振り向くことはしなかった。黙って身を丸め、警戒をはっきりと表に出す。青年は軽くため息をつき肩を竦めると、セイランの正面へ歩み出て、膝を折り視線の高さを合わせる。セイランは拗ねた子どものように青年からぷいと視線を逸らしていた。
「……なんで、あんなこと」
「なんでって、言ったでしょ? ボクお兄さんみたいな人を犯すのが好きなんだって。趣味みたいなものかな?」
「悪趣味、って言われたことないか?」
「今ので通算二十回目だ。おめでとー」
青年は悪びれる様子もなく、相変わらず心底の読めない表情でへらへらと笑って見せた。笑っているけれど、笑っていない。その表情の奥底にあるものが分からず、セイランは黙って目を細める。
自分が長いこと眠ってしまっていたと悟るには、十分すぎる情報だった。慌てて飛び起きようとした体に、主に頭と腰に鈍い痛みが走る。その痛みは、セイランに眠る前に何をされていたかを思い出させていく。あの全身を覆っていた酷い熱はきれいさっぱり消えていた。残っていた方が困るのでそれはそれで良かったのだけど。熱と一緒に記憶も消えて欲しかった。ほんの数分前に出会ったばかりの、見ず知らずの男に対して晒した痴態。それはセイランの記憶にしっかりこびりついていた。
もう一度眠って今度こそ忘れてやりたいところだが、そうも言ってはいられない。魔物は夜行性が多い。先ほどの狼型の魔物のように、この森にはそこまで強い種の魔物は存在しないが、視界が悪い夜はそう言ってもいられない。こんな森のど真ん中で寝るなんて、自らを餌にする行為と同じだ。
動くだけでズキズキとする痛みを堪えながら、セイランは何とか身を起こす。どうやら場所を動かされてはいないらしく、気を失った時と同じ木の根元で眠っていたようだった。背負っていた大剣は側に置かれている。枕にしていたのは、あの青年が羽織っていた黒いローブだった。手触りが滑らかで、柔らかい。詳しくは分からないが、物の良し悪しの区別があまりつかないセイランにでも、それは上質な素材のものだと分かるほどのものだった。
セイランは痛む腰に手を当てながら自分の身体を確認してみるが、半端に脱がされていたはずの下半身は元通りで、濡れていたり汚れていたりもなく、不快感もどこにもなかった。まるで夢でも見ていたかと思わされるが、残念なことに腰と頭の痛みは本物だ。そして起きた瞬間から感じている気配。あの青年は夢ではない。
「あ、やっと起きた。平気?」
背後から聞こえたその声に、セイランは振り向くことはしなかった。黙って身を丸め、警戒をはっきりと表に出す。青年は軽くため息をつき肩を竦めると、セイランの正面へ歩み出て、膝を折り視線の高さを合わせる。セイランは拗ねた子どものように青年からぷいと視線を逸らしていた。
「……なんで、あんなこと」
「なんでって、言ったでしょ? ボクお兄さんみたいな人を犯すのが好きなんだって。趣味みたいなものかな?」
「悪趣味、って言われたことないか?」
「今ので通算二十回目だ。おめでとー」
青年は悪びれる様子もなく、相変わらず心底の読めない表情でへらへらと笑って見せた。笑っているけれど、笑っていない。その表情の奥底にあるものが分からず、セイランは黙って目を細める。
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