6 / 62
序章
第六話
しおりを挟む
こんな奴に付き合っている時間はない。そう判断したセイランは、重い体を持ち上げ、その場に立ち上がる。それから落ちていた青年のローブを拾い上げ、砂を払い落としてから青年の頭にかける。ローブで視界を覆われ、「わぁ」と声をあげる青年に背を向けると、セイランは自分の大剣と荷物を拾い、空を見上げる。現在の時間から鑑みると太陽のある方向が西のはず。地図を広げシーズの町の方角を確認し、青年のことは視界にも入れず足を踏み出す。
「あれ? どこ行くの?」
「…………」
再び背後から青年の声が聞こえるが、セイランは今度も振り返らず無視をして歩みを進めていく。
「怒ってる?」
「……当たり前だろ」
青年が続けた無神経な一言に、セイランは思わず足を止めてしまう。魔物に襲われていたから助けてやったというのに、その相手を「趣味だから」なんて理由で強姦しておいて、よく言えたものだと呆れを通り越して感動するほどだ。明らかに青年の方に非があるはずだというのに、それでも青年の声音は余裕を崩さず、隙を見せない。立ち止まってしまったセイランの背中に向けて、刺さるような言葉が投げられる。
「嫌とも止めろとも言わなかったくせに?」
「っ、……」
「あんなに悦んでたのに? 欲しいって言ったのに? ボクのせいなの?」
「…………」
「そんな顔しないでよ、いじめてるみたいじゃん」
青年の言葉に、セイランは反論することが出来なかった。言葉で拒絶を示さなかったのは事実だ。触れられて反応していたのも、求めたのも、事実。最後には、彼に、この男に犯されたいということしか、考えていなかった。考えられなかった。青年の目を見ていると、彼の桃色に光る虹彩を見ていると、いつの間にかそんなことしか考えられなくなっていた。
「どうして、言い返さないの? あるでしょ、言いたいこと」
黙り込んでしまったセイランに対して、青年は少しだけ柔らかい口調になる。セイランの横をすり抜け正面に回った青年が覗き込んだセイランの瞳は、苦しそうに震えていた。そんなセイランの赤紫を見て、青年は静かに視線を下げる。
「ほら、言って」
「……っ、だって、拒絶されるのは、嫌われるのは、誰だって怖いだろ。おれが我慢すればいいだけだから、それであんたの気が済むのなら、好きにすればいいって、そう思ったから……ぁ、れ……?」
「……そう」
堪えていたものを吐き出してから、セイランはその自分の言葉に困惑していた。そんなことを言うつもりはなかったから。誰にも言ったことがない胸の内を、無意識に吐露してしまっていたことに驚かずにはいられなかった。
――どうして。なんで、よりにもよって、こんなやつに、言えたんだ?
セイランは少しだけ下にある青年の白髪を見下ろす。真剣な顔をしている彼は、自分よりも少しだけ幼いながら端正な顔立ちをしていた。
――どこかで、あったことがある? いや、でもそんな記憶は……。
「って、そーれーよーりーもー、魔法が苦手って言ったのは本当だよ? まさかとは思うけど、こーんなか弱い少年を夜の森に置いていくなんて言わないよね?」
「か弱い少年……!? どこだ? ほかに誰かいるのか?」
「……せめて『どこがか弱いんだ』って突っ込んで欲しかったな」
素直に『少年』を探して辺りをきょろきょろと見渡し始めるセイランに対して、青年はため息交じりに呟く。セイランのその行動は嫌味などではなく、本気で勘違いしているのは一目瞭然だった。どれだけ辺りを見ても、ここにはセイラン自身と青年の二人しかいないというのに。それでも青年の言葉を真に受けて誰もいないことに首を傾げるセイランがじれったく、青年はセイランの首元のマフラーを握り、自分の方に顔を引き寄せた。
「わっ、」
「……連れてってくれるよね?」
「え、あ……」
セイランの視線が逃げていく。言葉にはしていないが、それは拒絶の意思表示だった。誰だってついさっき自分を強姦してきた人間なんかと行動を共になんてしたくはないだろう。だが、もし青年の言葉が本当で、魔法が苦手で戦う力がないのだとしたら。ここで自分が置いて行って、もし魔物に殺されでもしたら、それは自分が見殺しにしたのと同じことではないか。その考えがセイランの思考を鈍らせた。青年はその隙を狙って言葉を詰める。
「ねぇ、身をもって知ったでしょ? ボクの先天術、人をいやらしい気分にする魔法なの。今ここでまたお兄さんのこと動けなくして、二人で森に残ることも出来るんだよ?」
「な……、っ!」
思わず青年に視線を戻してしまう。刹那、先ほどのものと同じ、全身を覆うような熱が再びこみ上げる。その熱が足の力を奪う前に、咄嗟にセイランは目を逸らす。
「あれ? どこ行くの?」
「…………」
再び背後から青年の声が聞こえるが、セイランは今度も振り返らず無視をして歩みを進めていく。
「怒ってる?」
「……当たり前だろ」
青年が続けた無神経な一言に、セイランは思わず足を止めてしまう。魔物に襲われていたから助けてやったというのに、その相手を「趣味だから」なんて理由で強姦しておいて、よく言えたものだと呆れを通り越して感動するほどだ。明らかに青年の方に非があるはずだというのに、それでも青年の声音は余裕を崩さず、隙を見せない。立ち止まってしまったセイランの背中に向けて、刺さるような言葉が投げられる。
「嫌とも止めろとも言わなかったくせに?」
「っ、……」
「あんなに悦んでたのに? 欲しいって言ったのに? ボクのせいなの?」
「…………」
「そんな顔しないでよ、いじめてるみたいじゃん」
青年の言葉に、セイランは反論することが出来なかった。言葉で拒絶を示さなかったのは事実だ。触れられて反応していたのも、求めたのも、事実。最後には、彼に、この男に犯されたいということしか、考えていなかった。考えられなかった。青年の目を見ていると、彼の桃色に光る虹彩を見ていると、いつの間にかそんなことしか考えられなくなっていた。
「どうして、言い返さないの? あるでしょ、言いたいこと」
黙り込んでしまったセイランに対して、青年は少しだけ柔らかい口調になる。セイランの横をすり抜け正面に回った青年が覗き込んだセイランの瞳は、苦しそうに震えていた。そんなセイランの赤紫を見て、青年は静かに視線を下げる。
「ほら、言って」
「……っ、だって、拒絶されるのは、嫌われるのは、誰だって怖いだろ。おれが我慢すればいいだけだから、それであんたの気が済むのなら、好きにすればいいって、そう思ったから……ぁ、れ……?」
「……そう」
堪えていたものを吐き出してから、セイランはその自分の言葉に困惑していた。そんなことを言うつもりはなかったから。誰にも言ったことがない胸の内を、無意識に吐露してしまっていたことに驚かずにはいられなかった。
――どうして。なんで、よりにもよって、こんなやつに、言えたんだ?
セイランは少しだけ下にある青年の白髪を見下ろす。真剣な顔をしている彼は、自分よりも少しだけ幼いながら端正な顔立ちをしていた。
――どこかで、あったことがある? いや、でもそんな記憶は……。
「って、そーれーよーりーもー、魔法が苦手って言ったのは本当だよ? まさかとは思うけど、こーんなか弱い少年を夜の森に置いていくなんて言わないよね?」
「か弱い少年……!? どこだ? ほかに誰かいるのか?」
「……せめて『どこがか弱いんだ』って突っ込んで欲しかったな」
素直に『少年』を探して辺りをきょろきょろと見渡し始めるセイランに対して、青年はため息交じりに呟く。セイランのその行動は嫌味などではなく、本気で勘違いしているのは一目瞭然だった。どれだけ辺りを見ても、ここにはセイラン自身と青年の二人しかいないというのに。それでも青年の言葉を真に受けて誰もいないことに首を傾げるセイランがじれったく、青年はセイランの首元のマフラーを握り、自分の方に顔を引き寄せた。
「わっ、」
「……連れてってくれるよね?」
「え、あ……」
セイランの視線が逃げていく。言葉にはしていないが、それは拒絶の意思表示だった。誰だってついさっき自分を強姦してきた人間なんかと行動を共になんてしたくはないだろう。だが、もし青年の言葉が本当で、魔法が苦手で戦う力がないのだとしたら。ここで自分が置いて行って、もし魔物に殺されでもしたら、それは自分が見殺しにしたのと同じことではないか。その考えがセイランの思考を鈍らせた。青年はその隙を狙って言葉を詰める。
「ねぇ、身をもって知ったでしょ? ボクの先天術、人をいやらしい気分にする魔法なの。今ここでまたお兄さんのこと動けなくして、二人で森に残ることも出来るんだよ?」
「な……、っ!」
思わず青年に視線を戻してしまう。刹那、先ほどのものと同じ、全身を覆うような熱が再びこみ上げる。その熱が足の力を奪う前に、咄嗟にセイランは目を逸らす。
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる