ある魔法使いのヒメゴト

月宮くるは

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第四章

第四十二話

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 三人は地下道を進みながらシャムロックで買い足した食べ物を晩飯とする。買ったリンゴを水の魔法で洗って、風の魔法で皮を剝き切り分ける。強力な魔法もさることながら、二人はそんな繊細な魔法も器用にこなしていた。

「はいセイラン、あーんしてー」

「ん……、……甘い、ハチミツかけてる……」

「ボク甘いのが好きなんだもん」

 ルピナスが自分の持っていた分をつまんで差し出してくるのをセイランは素直に口を開けて迎え入れる。するとリンゴ本来の甘さ以上のものが舌を包み、つい眉間に皺を寄せる。このリンゴはもともと十分甘いのに、それ以上に甘くしている。ルピナスの持つ木皿のリンゴはすべてハチミツがかかっていた。特にハチミツが嫌いなわけではないが、さすがに見ているだけで胃がもたれそうになる。当のルピナスはそんなことないようで、幸せそうに甘そうなリンゴを口に運んでいる。本人が幸せなら、それでいいか、と、セイランは何も言わずにおいた。

 そうして他にもパンをちぎり合って食べたりと軽い食事を進みながら済ませる。地下だと地上の様子が分からないが、それなりにもう遅い時間だろう。そろそろ休みたいと考え始めたところ、三人は開けた場所に到着する。

 そこは先ほどの建物のような腰を落ち着けるためのベンチや椅子の他、しっかり休むためのベッドがあった。もちろん、柔らかい布団があるわけではないが、文句は言えない。

「やったー、ボクたくさん歩いて疲れたからここで休もう?」

「そうですね。夜通し歩くよりも休息を取るべきですし。……セイランくん、ここで眠れますか?」

「え? おれは全然平気です。むしろ、二人の方がツラいんじゃ……」

 セイランが言いかける間に、ルピナスは纏っていたローブを枠だけのベッドに敷いて早速横になる。あんなに質の良い布を躊躇なくベッドシーツ代わりにするものだから、セイランは思わず固まってしまう。

「これ布地が柔らかいからとっても寝心地いいんだよ」

「へ、ぇ……」

「これは魔法使いが作った特殊な繊維なので、我々魔法使いにとっては変幻自在の布なのです。風を魔法を宿せば、ふわふわのクッションに早変わり」

「セイランはボクの隣においでよ、ボクが代わりにするからさ」

 確かに、特殊なローブだとは思っていたけれど。魔法使いというのはそんなことも出来るものなのか。そんな特別な道具はこれまでセイランも見たことはなかった。恐らく、そんなに容易く手に入る代物ではない。

 どんなに賢くないと言っても、さすがにセイランでもなんとなく察している。この二人がただの学者ではないことくらい。二人もどうやらそれを隠すつもりはもうほとんどないように見える。かといって、直接「何者なんだ」と聞くことも出来なかった。

 セイランは纏っていたローブを脱いで、ルピナスの隣の寝台を押し、ルピナスの手が届く範囲に近づける。最初は少し隙間を残していたが、結局ルピナスが隙間が埋まるまで「もっと」と言い続けるものだからくっつける羽目になる。

「え、私めちゃくちゃ寂しいんですが。私もセイランくんにくっつけても」

「ダメだよ」

「そんな……」

「……ルピナス」

 あまりにもあからさまにミハネが肩を落とすものだから、申し訳なさが勝り、セイランは静かにルピナスを諭す。そもそも、ミハネにはセイラン自身のことは話したがルピナスとの関係は話していない。あまりに露骨すぎたら、疑われる。ルピナスはそれでいいのかもしれないが、セイランは気が気ではやかった。

「んー、なら、一個挟んでよ。セイランの隣の寝台には魔物避けの炎を焚いといて」

「やったー! 喜んで焚きます」

 ミハネは嬉々としてセイランの反対隣に寝台を付け、そこに周囲から集めた木片で作った焚き火を設置し、もう一つ隣にミハネは寝台をおいた。魔物を避けるための炎。護衛対象なのだから、普通ならミハネとルピナスが近くにいるべきなのだが、あれだけ強力な魔法を見せられた手前何も言えなかった。戦いにだけはそれなりに自信があったはずなのに、どう頑張っても剣じゃ魔法には敵わない以上自信を失わざるを得ない。

「ほら、セイラン。寝てごらん」

「……、わ……っ! なんか、不思議な感じだ」

 ローブをベッドに敷くと、ルピナスがその端に触れる。すると、柔らかい風が巻き起こり、寝転がる体をふんわりと包んでいった。普通のベッドとは少し違った感覚。例えるなら、雲の上で寝たらこんな感じだろうなぁというもの。

 ふわふわした感覚を楽しんでいたセイランは、そのまま穏やかに眠りについた。すぐそばにルピナスの寝息を感じる。誰かと眠るのなんて、いつぶりだろう。セイランとルピナスは向かいあったまま静かに眠りにつく。それを最後まで見守っていたミハネは、子どものような表情で眠る二人に微笑み、「おやすみなさい」と囁いた。
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