百々五十六の小問集合

百々 五十六

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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)

忘れたものを追いかけて

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黄金色に染まった空。

俺は寝過ごしたらしい。

あれ?学校って、私服で行っちゃダメだけど、卒業生ってどうすればいいのかな?

今更、中学校の制服を着る気になれないな。そもそもクリーニングに出しちゃって、今手元にないし。

とりあえず私服でいっか。卒業生だし。まぁ怒られてももう響く内申もないし、大丈夫でしょ。

素早く身支度を済ませ、学校に向かう。

学校に着く頃には、黄金色が紅に変わっていた。

一週間ぶりに校門をくぐり、校舎へと向かう。

思い出は何もフラッシュバックしてこない。

なんとなくの懐かしさと、学校に私服で来てしまったという背徳感だけが残る。

校庭では、後輩たちが一生懸命に部活をしていた。

僕は、部活に入っていなかったから全く懐かしくない。

青春している後輩を横目に、職員室に向かう。

5時間ぐらい遅れたけど、先生怒っているのかな?

そもそも、何も詳しい要件を伝えずに呼び出す先生が悪い。

そう開き直って職員室のドアをノックした。

コンコンコン

「失礼します。卒業生の神崎幸太郎です。國田先生に用があってきました。國田先生はいますか?」

久しぶりの職員室。職員室っていつ来てもちょっと緊張するよね。

緊張で少し裏返った声で、言ってしまった。

すると、見覚えのある先生が反応してくれた。

「おぉ、神崎か。私服で学校に来るとはいい度胸だな」

早速、私服なことにツッコまれた。

「まぁ、それはもう卒業生だからいいとして、國田先生か、今ちょっと校内の見回りに行っちゃってな。多分2,30分もすれば帰ってくると思う。」

職員室の中をキョロキョロと見渡しながら、先生が先程までとは打って変わって優しい声で言った。

先生は、未だ職員室の入り口で突っ立っている僕のところもまで来て、僕の背中をたたきながら言った。

「その間暇だろうし、校舎の中を見て回ったらどうだ。まだ一週間しか経って無いが、懐かしいだろ。それに國田先生も校内で見回りやってるし、いい感じに会えるかもな。じゃあ、早速行ってこい」

「そうしてみます。失礼しました」

そう言って職員室から出た。

先生の助言に従って校内をぶらぶら歩くことにした。

いつも通りの校舎。たかだか一週間では、この数十年の歴史がある校舎は、全く変わらないようだ。

とりあえず気ままに歩いた。

理科室や、音楽室、体育館、更には屋上まで。薫や癒月との思い出がいっぱい詰まっているところを巡っても、全く感傷に浸れなかった。何をしたかという記憶はなんとなくは思い出せる。体育で薫と一緒に卓球をした記憶も、昼に一緒に屋上で弁当を食べた記憶も、鮮明とまではいわなくても、なんとなく思い出される。しかし、その時感じた感情、それを思い出して過去にむけるあの頃は良かったなどの感情はまったくない。まるで、記憶と感情が切り離されているようだった。

最後に僕たちが使っていた教室に向かった。

するとそこに國田先生が居た。

先生は廊下の窓から、外を眺めていた。

いい雰囲気で黄昏れていたので、遠慮などせずに話しかけた。

「こんにちは先生。お久しぶりです。僕に渡し忘れたものってなんですか?」

先生は一瞬ビクッとすると、振り向きながら、陽気に答えた。

「おう、神崎じゃねえか。級に声をかけるなよ、びっくりしただろうが。なんかちょっとやつれたんじゃねえか?勉強あんま根詰めすぎんじゃねえぞ。そうだ、そうだお前に渡し忘れた手紙があんだよ。それとお前、教室に荷物何個か忘れていっただろ。まだ教室片付けてねえから教室まで取りに来い」

振り向きながらそんな事を言うもんだから、窓から差し込む夕日も相まって、めちゃくちゃ絵になる。

しかし、先生は、どこか無理をしているようだった。なんとなくから元気のように感じた。悲しみからくるものなのか、疲れからくるものなのか、僕にはどちらなのか分からんかった。

「いや、先生ここもう教室ですよ」

とりあえず、僕はツッコミをすることにした。

「そうだったわ。うっかりしてた」

先生は、額に手を当て、芸人さんのような反応をした。

あまり突っ込まれたくないのか、それからすぐに先生は話題を変えた。

「一週間ぐらいじゃあんま変わんねえな」

そう言いながら先生は、教室に入っていった。

それに続いて僕も教室に入る。

教室は、独特の空気感だった。卒業式の空気をそのまま残したかのような、静かな熱気に包まれていた。

教室に入ると、黒板に書かれている大量のラクガキが目に入った。

悪意のあるものではなく、自分たちがここに居た証をどうにかして残そうと書かれた、感謝を綴る言葉達。

「教室も変わってないですね。変わったとしたら、僕の知らない寄せ書きが黒板に書いてあることぐらいですかね」

少し嫌味な口調で、先生の問いに答えた。

「これはな卒業式の後でみんなで書いたんだ。お前さんは先に帰っちまったから分からねえだろうが」

正論と嫌味のダブルパンチで返されてしまった。

僕は精一杯の強がりで、思ってもないことを返した。

「なんだか楽しそうですね。僕ももう少し教室に残ってればよかったかな?」

この嫌味合戦の不毛さに気がついたのか、先生がまた急に話題を変えた。

「帰ってく、お前さんの表情が、やけに沈んでたけど何かあったのか?」

先生は、少し心配しているかのような表情を見せた。

「よく見てましたね」

こんなに気が使えて、なんでこの國田先生はモテないのだろう?

世の中の女性たちは見る目がないんじゃないのかな?

見た目も悪くないし、性格だっていいし、こんだけ気遣いができるのに。

先生曰く、今まで一度も彼女ができたことがないとか。授業中に言うことじゃないよね。

自分の恋愛系をネタにできるのがすごいな。どんだけ強靭なメンタルしているんだろう。

僕だったら恥ずかしくてできない。

もしくは、自分からネタにするくらいにはもう割り切っているのかな?

「これでも、子供に関わることが専門の仕事でな。子供の表情とかには敏感なんだ」

ドヤっている先生かわいい。凄く子供っぽい。

「あいつは少しショックなことがありまして…」

心の中では、先生の可愛さに悶えているけれど、とりあえずシリアスムーブを盾にしてみる。

あまり今、突っ込まれたくないので。

せっかく先生と面白い話をしてテンションが上っているのに、あいつらの話なんかしたら、テンションだだ下がりになっちゃう。

「相談にのるぞ。生徒の相談には数えられないほど乗ってきたからな」

先生は聖母のような優しさで包む作戦に出た。まぁ、先生は、男なんだけど。言葉の綾、言葉の綾。

「いや、相談するようなことではないので」

とりあえず突き放してみた。

今も、この話題に触れそうになっているというだけで、僕のテンションは徐々に下がって行っている。

何としても、一刻も早くこの話題を切り上げねば。

いっぱい寝てきたはずなのに、テンションが深夜テンションみたいになってる。

これは大変危険だ。

これも全部、先生が面白いのが悪い。

「そうか、じゃあ無理に聞くことでもないし、この話は終わりだ」

先生も俺の触れるなオーラを感じ取ってくれたのか、きっぱりこの話題を切り上げることができた。

気遣いの男(笑)の國田先生は、僕に新しい話題を振ってくれた。

「それにしてもまさか、東雲と登場が付き合うとはなぁ。正反対みたいな二人だったけど、案外お似合いかもなぁ」

先生も知っているんだと素直に驚いた。

そして、なぜその話題を振ってくる。

僕が一番触れたくなかった話題なのに。

そういう、最後の最後でやらかしてしまうから、女性にモテないんだなぁ。

先生は、いつもいつも最後の最後で台無しにするんだよなぁ。授業中だって、良い授業なのに毎回のように時間配分を間違えて、中途半端なところで終わってばっかりだったなぁ。

「なんで先生が知っているんですか?」

とりあえず素直に質問した。

「ほれそこ。書いてあるだろ相合い傘が。それ、あいつらが照れながら書いて行ってたぞ」

先生は黒板の端の方を指しながら答えてくれた。

先生が指したところには、他のデカデカと描かれた絵や文字に隠れて、小さく相合い傘が描かれていた。その傘の中に書かれていた名前は、案の定、『東雲癒月』と『東条薫』だった。

ご丁寧にフルネームで書きやがって。こんちくしょう。

「うわぁ、本当だ」

純真な子のような反応を演じてみた。

「東雲は、お前しか寄せ付けなかった東条とよく付き合えたな」

思い出に浸っている先生。

おーい、先生。今あなたと話しているのは東雲ではなく神崎ですよー。

意識を現実に戻してください。

顔を斜め上からこっちに戻してくださーい。

そして少しは察してくださーい。

僕はこの話題が嫌でさっきの話題を変えようとしたんですよ。

そういう肝心なところで鈍感なところが女性にモテない原因なんじゃないですかー?

脳内で好き勝手叫んでいた声が届いたのか、先生が僕の方に向き直り言った。

「すまん、すまん。そんな暗い顔すんなって、他の奴らの思い出でつまらなかったよな」

それもあるけど、そっちじゃなーい。

肝心なこととなると、漫画の主人公ぐらい鈍感になりますね、先生。

いつもの長い先生のお話の雰囲気になった先生は、一人で勝手に語りだした。

「最後にお前に一つだけ話をしよう。辛いことは乗り越えられるっていうのは、乗り越えたことのないやつの言葉だ。本当に辛いことに、ぶち当たったら、逃げていいんだぞ。立ち向かわなくていい、逃げていいんだ。死ぬなとはいわない。逃げた先に幸せはないなんてことは、ない。ただ、幸せは死後にはない。それだけは覚えておけよ。」

言い終えると恥ずかしくなったのか、顔をそらして教室の外を眺めだす先生。

「余計な話をしちまったな。お前さんが、今にも死にたそうな顔をしてるから、お節介が焼きたくなっただけだ」

気恥ずかしそうに、こっちを見ずに先生は言った。

あぁ先生も、癒月みたいなこと言うんだぁ。

陽キャは所詮陽キャか。

どいつもこいつも似たようなこと言いやがって。

もしかして流行ってんの?その言葉。

「それじゃあ失礼します」

急激に興味を失った僕は、教室から去ろうとした。

この時僕は、なんでわざわざ学校に来たのかを忘れていた。

「そこにまとめといたお前の荷物、忘れていくなよ」

先生が軽く言った一言につられて、自分の席を見る。

そこには、山のようになった中学校においておいた僕の荷物があった。

そういえばそうだった。僕はここに物を貰いに来たんだった。

一度で持ち帰れるのか不安な量の荷物にうんざりする。

えぇ、これを持ち帰らなきゃいけないの?

捨てて良くない?

学校のゴミの量が増えるって?

そんなの知るかよ。

誤差だろ。僕の荷物ぐらいなら誤差の範囲だろ。

え?全員がそうしたら、ゴミの量がすごいことになる?

もうみんな持ち帰っただろ。捨てるとしてもこっから増えることにはならないだろ。

え、なに?前例を作ったら来年からそうするやつが出かねない?

そんなの國田先生が言わなきゃいいだけだろ。

え?國田先生にそんな器用なことができるように思うか?だって?

そりゃあ、できないだろ。

わかったよ。わかった。

持ち帰ればいいんだろ。持ち帰れば。

しゃーない、持ち帰るか。

てか、渡したいものとか、思わせぶりなこと言っといて、ごみ処理とか、期待と現実の落差が酷いんですけど。

先生から手紙とか渡されるのかと思ってたんですけど。

結局僕は、両手に一杯の荷物を持って教室を出た。

なんとか一回ですべて持つことができた。代わりに、視界の半分が塞がって両手の自由がないけど。

先生は、いまだに教室に残って、感傷に浸っていた。

いつまでやってんだよ。仕事しろ、仕事。

見回りっていう理由なはずなのに一つの教室にずっといるってどうなの?

税金もらってるんだからサボるなよ。




昇降口までたどり着いた頃、校庭から話し声が聞こえてきた。

「ねえ、聞いた?東雲先輩と東条先輩付き合ったらしいよ」

どうやら、後輩の女子たちらしい。

よく器用に運動しながら、話ができるね。

僕なら息切れでまともに話せないだろうな。

ていうか、また薫たちの話かよ。

聞き飽きたよその話題。

あいつら、どんだけ知名度と影響力あるんだよ。特に癒月。

「東雲先輩ってあの東雲先輩?」

東雲って確か、この学校に一人しかいないだろ。

癒月以外に東雲がいたら逆にびっくりだよ。

後輩たちの会話に勝手に脳内でツッコミを入れておく。

こうすることで、この話題の話を聞いているというストレスを、その場で発散することができるのだ。

もしかして僕って天才?もしかしなくても天才か。

「そうだよ」

後輩女子2人、両方やけにテンション高いなぁ。

やっぱり女子って恋バナが好きなのかなぁ。

「そうなの?!東雲先輩に彼氏かぁ。確かに東条先輩かっこいいし、案外お似合いかも」

多分この後輩たちも、体育祭後にめちゃくちゃ活躍した薫に、かっこよかったとか言って群がってきた女子たちの中の一人なのだろう。

「東条先輩、体育祭の後とかわりと人気になってたよね。まぁ、怖くて、一週間もすれば誰も近寄っていかなかったけど」

ほらやっぱり。

まぁ、薫を怖いと思う時点で、薫とはうまくやっていけないからね。

面白いって思わないと。

「東雲先輩の彼氏となると、あのくらいのレベルじゃないと、正直釣り合わないよねー」

釣り合うってなんだ。釣り合うって。

そんなの本人たちの自由じゃないのか?

「確かに。モブみたいな低身長野郎とかだと流石にないわwww」

イマジナリー彼氏で笑うな。

可哀想だろイマジナリーくんが。

それと、全国の低身長に謝れ。笑ってすみませんでしたって。

謝るんなら全国を代表して僕がその謝罪を受け入れてやるよ。

「流石に東雲先輩って、そんなセンスしてないでしょ」

そういうと、段々と二人の後輩女子たちの声は遠のいていった。

僕は慣れないツッコミで、疲労困憊だった。

これ、ストレスはたまらないけど、めっちゃ疲れがたまるわ。

疲れた体で両手いっぱいの荷物を運ぶのはめちゃくちゃ大変だった。

家に帰ってきた僕は、心も体も限界まで疲れていた。


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