百々五十六の小問集合

百々 五十六

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桜のように散った私たち【読み切り版】【私Ver.】(未完)

別れの日に結ばれる二人

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学校につくと、もうすでに多くの人がクラスに居た。

みんな卒業式前で家に居ても落ち着かないから学校に早く着ちゃったのかな?それとも、元々この時間にはこんなに人が居たのかな?

しばらくクラスメイトと話をしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

いつもの登校時間より早い、薫たちの登場にクラスが少しざわついた。

元々、あまりクラスが好きではないのか、薫たちはいつもホームルームが始まる直前くらいに来ていた。

これから薫に告白すると思うと、妙なテンションになってしまい、いつもよりテンションに割増ぐらいで薫たちに声をかけに行ってしまった。

「おはよー、薫と幸太郎くん。今日はいつもより早いけどどうしたの?」

「幸太郎が早く行こうって言ってきたから、早く来たんだ」

二人を交互に見ると、何故か幸太郎くんから目をそらされてしまった。

まあ、いいや。それより、薫が髪型をがっちり決めてきていて、3割増しぐらいでかっこいい。

「おっ、今日、髪バッチリ決まってるじゃん。かっこいい」

「だろ、今日のは渾身の出来なんだ」

薫は、自慢するように髪を触りながら言う。

薫の無邪気な姿に思わず笑みがこぼれてしまう。

もっと話していたいと思うのだが、遠くからクラスメイトに呼ばれてしまった。

「ちょっと呼ばれたみたいだから行くね」

「おう、行ってらっしゃい」

薫に送り出されたと思うと気分が上がる。

何、私と薫の時間を邪魔してるの?と怒りを向けそうになった、先程私を呼んだクラスメイトに対して今は感謝の気持でいっぱいだ。

そのクラスメイトと話しているといつの間にか時間が過ぎてしまい、予鈴の音がなってしまった。

キーンコーンカーンコーン

もう少し、薫と話したかったのになぁ。

「席につけー。ホームルームを始めるぞ」

先生が入ってきて、ホームルームが始まった。

いつもはジャージ姿の先生が、上下スーツの正装に身を包んでいる。それが少しおかしくて、軽く吹き出すほど笑っている生徒がチラホラといる。

いつもより2割増しで長い、先生のお話を聞いて、ホームルームが終わる。

卒業式は、何度も泣きそうになる場面があったが、なんとか泣かずにすんだ。泣いてしまったら、これから泣いてメイクの崩れた顔で告白しなくちゃいけなくなるから、必死に我慢した。

卒業式の退場が終わり教室への帰路。みんなが気の抜けているこのときに、私の緊張はピークに来ていた。これから薫を呼び出さなければ。そう思うと、感傷に浸る暇なんてなかった。

教室に帰ると、先生から30分の休憩が言い渡された。

休憩が始まってすぐ、薫が勢いよく教室から出ていった。

多分あの顔は、トイレに駆け込んでいったと思う。

薫が戻ってきたら呼び出そうと思い、教室で待っていることにした。

薫が教室を出て行った直後、幸太郎が席を立ち、薫の席の方を見た後、辺りを見回し、一人で教室を出ていった。

薫が教室に帰ってくると、辺りを見回している。多分、幸太郎くんを探しているのかな。

キョロキョロしている薫と目が合うと、薫から近づいてきた。

「なぁ、癒月、幸太郎知らねえか?」

スマホでも落としてしまったのかという焦り具合で幸太郎くんの行方を聞く薫。

「幸太郎くんなら、薫が教室を飛び出してすぐぐらいに教室から出ていったよ」

「そうか、ありがとよ」

薫から感謝されちゃった。嬉しい。

離れていこうとする薫を呼び止める。

「薫、ちょっと待って」

どうかしたか?という顔で、振り返る薫。

一呼吸、間を取り、意を決して言う。

「大事な話があるから、校舎裏まで一緒に来てくれない?」

「お、おう」

曖昧な返事をする薫。

私は席を立つと、早る気持ちを抑えながらいつも通りのペースで歩いていく。廊下の周りには、卒業を実感し感傷に浸っている人たちが多くいた。その人達の話し声がそこら中で聞こえる。それに紛れて、後ろからは、普通の男子高校生よりも大きいけれど、決して荒々しくない足音が聞こえる。

よかった。ちゃんと付いてきてくれている。

校舎から出る頃には、薫の足音以外の音はだんだんと無くなっていった。

私と薫の足音だけが聞こえる。

校舎裏の少し奥、落ち着いた雰囲気のところで振り返った。

薫は、私が振り返るのに合わせて足を止めた。

振り返ると、2歩先ぐらいに薫が居た。

静寂のなか薫と見つめ合う。

薫の目に引き込まれて、話し始めるのを忘れてしまう。

一度目線を外し、深呼吸をする。

心臓が今まで感じたことのないような速度で動いている。脈が上がり、呼吸が浅くなる。

もう一度深呼吸をして、余計な緊張をはぎ落としていく。

緊張の波がピタッと収まり、程よい緊張になったタイミングで、話し始める。

「突然呼び出しちゃってごめんね。」

「急だったから、びっくりしたわ。で、どうしたん?」

絞り出すように言葉を紡いでいく。

薫は、私の緊張をほぐすためか、いつもより少し大袈裟なリアクションをしてくれた。

これから告白すると思うと不安が込み上げてくる。

失敗したら、これからの薫との関係どうなっちゃうんだろう?

やっぱり恋愛に興味がないのなかぁ。

ネガティブな方に思考が引っ張られだした。

浮かんだ不安を一つ一つ受け入れる。

もう一度だけ深呼吸をして、また話しを再開する。

「実は、薫にどうしても伝えたいことがあって…」

「おう…」

表情を引き締める。

3年間溜めに溜めたこの気持ちを伝えるんだ。

伝えられる嬉しさも、拒絶されるかもという恐怖も不安も、全部をこの一瞬だけは、抑え込む。

一度心を空にして、薫への愛情だけで満たす。

刹那ほどの間をおいて、満たされた愛情と少しの欲望を薫にぶつける。

「私、薫のことが好き。大好きなの。だから…お付き合いしてくれない?」

永遠にも思える沈黙。

心に不安という重圧が加わり続け、押しつぶされそうになる。

薫の表情が、驚いたというものから、真剣に考えているものへと変わっていく。

薫はたっぷりと間を取って、返事をくれた。

「わかった。俺で良かったらよろしくお願いします」

薫にしては、堅苦しすぎる返事。

それくらい真剣に考えてくれたってことだよね?

「じゃあ、これからよろしくね」

好意を伝えられた喜びと、付き合うことのできる喜び、何より薫が私のことを真剣に考えてくれた喜びが、心を占領する。

思わず笑顔になってしまう。

私の笑顔を見てか、薫も少し硬い笑顔だけれど私に笑いかけてくれた。薫のその表情を見て、緊張の糸が切れたのか、足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちてしまった。

ただ幸せでいっぱいなのに、目から一筋の涙がこぼれた。

一度緩んでしまった涙腺は、感情のすべてを出し尽くすまで治ることはなかった。

私が幸せで泣き崩れているときに、薫はなにも言わず、ただ胸を貸してくれた。その優しさとかっこよさでより薫のことが好きになった。

あぁ、こんなに幸せな日があっていいのかな。


それから二人一緒に教室まで帰った。

教室に変える前にトイレで軽くメイクを直し、泣き跡を隠してた。

教室に入るとちょうど先生が入って生きて席につくように言った。

先生が人数確認をすると、幸太郎がまだ戻ってきていないことに気がついた。

それから数分しても戻ってこないので、クラスメイトで幸太郎の捜索が始まった。

しばらくして、ある女子が、幸太郎が校舎裏にボーっと座っているのを見つけたらしい。

幸太郎は、教室に入るとクラスのみんなへ謝罪をした。

ただ、その謝罪も心ここにあらずで、謝罪をされているこっちが、幸太郎のことが心配になる様子だった。

そして予定より遅れること10分、ようやく中学校生活最後のホームルームが始まった。

先生からのサプライズで、先生が作ってきた3年間をまとめた動画をみんなで視聴し泣きながら笑いあった。

そのお返しとして、みんなで企画していた先生へのサプライズを行った。

みんなで書いた寄せ書きと、花束を先生に渡した。

先生は、感動して泣いてくれた。

その後、涙を拭いながら最後の先生の話を聞いた。

相変わらず長い、先生の話だった。

でもなぜか泣けてきて、最後はハンカチを片手に聞いていた。

ホームルームが終わり、放課後となると、幸太郎が一人そそくさと帰っていった。

クラスはまだ、思い出を語り合うムード。

その中で一人でいる薫に声をかけた。

「ねえ、薫。この後、予定って空いてる?放課後デートしない?」

「開いてるぞ。じゃあ、どっか行くか」

薫が立ち上がる。そうするといつものように道が開く。その空いた道を進む薫。その横にいるのは、今日は幸太郎くんではなく私だった。

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