百々五十六の小問集合

百々 五十六

文字の大きさ
95 / 650
毎日記念日小説(完)

いい意味で使われすぎ 6月2日は裏切りの日

しおりを挟む
春が終わり、空が不機嫌な季節の直前の良く晴れた日。
昼休み、友人と二人、屋上で昼飯を食っていた。
他愛もない話をしながら弁当をつつく。
ふと思ったことが何の脈絡もなく口から零れ落ちた。
「『いい意味で』って言葉最近増えたよな」
「確かにそうだね。『いい意味で』予想を裏切られたとか、『いい意味で』普通じゃないとかかな。ぱっと思いつくのは」
「『いい意味で』をつけなくてもいい意味の言葉に『いい意味で』をつけられたときにさ、それ以降その人が同じ言葉に『いい意味で』をつけなかったときに、これは遠まわしに文句を言われているのかなって思わない?」
「例えばどういうこと?」
彼は、時折弁当をつつきながら、会話をする。
私が説明しているときも、唐揚げを食べていた。
器用によくやるなぁ。
私はすでに食べ終えているので、会話に集中している。
「私が君と話してる時に『いい意味で才能にあふれてるね』って君に言われたとして、その後に君との会話の中で『才能にあふれているね』って君に言われたとしたら、その言葉は私をほめてるのではなくて、貶しているのではないかと思っちゃうってこと」
「あぁ、なんとなく分かった。言われてみればそうかもね。僕はあまり気にしたことがなかったなぁ」
彼は、おにぎりの包み紙を開きながら会話をしている。
下を向いている彼とは目が合わないが、あまり片手間に話をされているような気はしない。
「そうなのか。君はあまり気にしないのか。まぁ、感覚の問題だからな」
「今、思ったんだけど、『いい意味で』はどこまでの言葉をカバーできるのかな?」
「カバーって?」
「貶す言葉を褒める言葉に変えられるのかなってこと」
「あぁ、了解」
どうやら、会話の攻守が交代したようだ。
彼の出した話題について真剣に考える。
私が考えている間に、彼から話し始めた。
「まず、『期待を裏切られた』はいけるよね?『いい意味で期待を裏切られた』」
「よく聞く使用例だもんな。それに、実際に言われて悪い気はいないよな」
「じゃあ逆に、『人殺してそうな顔してるね』はガッツリアウトだよね?『いい意味で人殺してそうな顔してるね』は、ちゃんと悪口だね」
「それは、ガッツリアウトだな。人殺してそうな顔が良いことなんてないもんね。しいて言うなら犯人役をしているときとか?超限定的にはあり得そうだけど、まぁ貶しているな」
「じゃあこの二つの間ってことは決まったね」
「今度は私から。『サイコパス』ってどう?『いい意味でサイコパス』なんか、芸術系で評価されてそうじゃない?」
「おぉ、いいところだね。ギリギリ褒められてるのかな?絶妙だね。それ以上行くと確実にアウトな感じがするけど、『いい意味でサイコパス』はどっちだろう?この会話の中で突然言われたら嫌な感じはするけど、なんかいいアイデアが出たときとか、ちゃんと何かしらのきっかけがある時にいに言われたら、ワンチャン褒められているように感じるのかな?」
「じゃあこれは、さっきのとは逆で、たまに貶されているように感じるけど、基本褒められているように感じるってことでいいかな?」
「じゃあ、ぎりぎりのラインは『いい意味でサイコパス』で決定だね」
キーンコーンカーンコーン
「ちょうど、チャイムもなったし、終わるか。異議はないよ。」
弁当を畳み、屋上から二人並んで教室に戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...