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1章 スタートダッシュ
ログインから町の外へ
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視界が切り替わった。
たかとの通話を終え、俺はキメラスキルオンラインの世界に戻ってきた。
閉じていたまぶたをカッと開く。
知らない天井だ。
正確には、寝る前に一度見ただけの天井だ。
自室の天井でも、VRカプセルの内側でもない。
無事にログインできたみたいだな。
俺は、きちんとログインできたことを確認してから言った。
「おはよう」
「にゃ!」
「なぁー」
2人とも既におきていたらしい。
ちょっとタイミング的に遅かったかな?
もう少し早くログインしてきて、2人が目を覚ますと同時に行動開始できたら最適だったかもな。
まぁ、でもそんな効率厨というか、RTA奏者みたいなプレイングをしている訳じゃないし、これぐらいのタイムロスはかまわないか。
そんなことを考えながら言った。
「疲労値が出ないうちに、元気玉食べちゃうか」
「なぁ!」
「にゃ」
せっかくログアウトしてまで疲労値を回復したのに、ログインした後にのんびりしたせいで、疲労値が1とか2とかたまって、元気玉が装備できないってなったら馬鹿らしいもんな。
そう思いながら、俺は、ログアウト前に買っておいた元気玉をストレージから取り出した。
そして、その元気玉を2人に渡しながら言った。
「はい、じゃあ2人の分」
「にゃ」
「なぁー」
2人は渡した元気玉を受け取る。
じゃあ、後は食べるだけだな。
いつ食べるのか、2人がタイミングを計りかねていたので、言った。
「じゃあ、食べるよ、せーのっ」
そういうと同時に3人とも、元気玉を食べた。
俺は錠剤と同じようにかまずに飲み込んだ。
多分、噛んじゃダメなやつだよな。
そう思いながら、飲み込んだ。
さすがゲームというか、飲み込むときに苦しさもなければ、不快感も、飲み込めるのかという不安感もなかった。
現実も同じように薬が飲めたら、錠剤用のゼリーとか、流し込むようにお水とかが必要ないのにな。
そんなことを考えていると、ウィンドウが出現した。
Lv.2元気玉が飲み込まれました。
この装備を、アクセサリー枠に装備しますか? はい/いいえ
俺は迷わず、”はい”を選んだ。
すると、ウィンドウは消えていった。
装備できましたとかそういうウィンドウが来るのを数秒待ったが、来なかった。
来ないなら来ないでいいや。
ステータスから確認するから。
そう思いながら言った。
「どうだ? 装備できたかな?」
「にゃ?」
「なぁ?」
俺は、ステータスウィンドウを開き、装備欄を確認した。
まず俺の装備欄。
石の意思、水切りの石に続いて、アクセサリー枠に、Lv.2元気玉と表示されていた。
よし、ちゃんと装備されているみたいだな。
続いて、従魔の2人の装備を確認した。
2人の装備欄にも、きちんとLv.2元気玉が装備されていた。
ちゃんと装備できているな。
装備の制限とかそういうのを確認していなかったから、もしかしたらと思っていたけど、大丈夫だったみたいだ。
俺は、全員分の装備欄を確認し終えてから言った。
「装備できているみたいだな」
「にゃ」
「なぁ」
疲労値の表示が、『疲労値:0』から、『疲労値:0(Lv.2元気玉:0/100)』に変化していた。
うまく装備の効果も発揮されているみたいだな。
というか、こういう感じに変化するんだな。
疲労値本体が、変化すると言うよりは、元気玉という枠が新しく別に出来たという感じなのかな。
この疲労値は、どっちから溜まっていくのかな。
普通に考えたら、元気玉の方から溜まっていくよな。
まぁ、どっちから溜まっていったって、効果は同じなんだろうから、気にはしないんだけどな。
俺は疲労値を眺めながら言った。
「よしこれで、疲労値の許容量が倍になったな」
「なぁ」
「にゃ」
これで、疲労値問題は解決したな。
じゃあ次にやることと言ったら、ダンジョンの攻略だな。
前回のダンジョンの攻略から、買い物や、クエスト、この疲労値問題と、いろいろなものが重なった結果、だいたい8時間近くダンジョンに潜っていないことになる。
キメラスキルオンラインが始まってから、まだ、32時間程度しか経っていないのに、そのうち8時間も連続してダンジョンにいないというのは、用事があってログインしていないとかでしか考えなられないよな。
そう思いながら言った。
「じゃあ、久しぶりのダンジョンに行くか!」
「なぁ!」
「にゃ! にゃ!」
2人ともかなり乗り気だな。
早く戦闘をしたくて仕方がないんだろうな。
俺もそうだから、その気持ちは痛いほど分かる。
町にずっといるのもそれはそれで楽しいけれど、あくまでこのゲームの醍醐味は、戦闘だよな。
ダンジョン攻略だよな。
そう思いながら、俺達は部屋を出た。
部屋を出ると同時に、仮眠室の料金400Gが引かれていった。
俺は、にゃーさんを抱え、なーさんを肩に止めて、ダンジョンに向かって歩き出した。
仮眠室から数歩出たところで、気がついたことがあった。
俺は一度立ち止まって言った。
「そういえば、にゃーさんの従魔登録証をつけてなかったな」
「にゃ?」
「な」
にゃーさんの従魔登録証をしていなかったのだ。
これをつけていないと、他の人からにゃーさんが攻撃されていても文句を言えなくなってしまう。
従魔を連れている身からしたら、一番大事な従魔登録証を、普通につけ忘れていた。
従魔登録の後いろいろあったから、普通に忘れいていたな。
俺は忘れていて申し訳ないと思いながら、にゃーさんに聞いた。
「首で良いか?」
「にゃ!」
首で良いらしい。
首が良いと言うよりは、どこでも良い、こだわりがないという感じかな。
まぁ、首で良いというなら、首につけるんだけどな。
こういうのは、個性を出すところじゃない。
利便性を取るところだ。
紛らわしいところにつけて、にゃーさんが攻撃されたら、本末転倒だもんな。
みんながつけているところと言うのは、それだけ利便性があると言うことだろう。
そう思いながら言った。
「じゃあ、首につけるぞ」
「にゃ」
俺は受付のお姉さんに渡された従魔登録証をにゃーさんの首につけた。
これは、一目できちんと従魔だと分かるな。
これをつけていれば、攻撃されることはないだろう。
まぁ、にゃーさんは町中にいるようなモンスターだから、そもそも攻撃される機会の方が少ないだろう。
それでも万が一があるからな。
こういうのは大切だよな。
そう思いながらにゃーさんに確認した。
「どうだ? 苦しくないか? 違和感はないか?」
「なぁ?」
「にゃ!」
にゃーさんは何事も問題ないという態度で鳴いた。
そうか、問題ないのか。
それは良かった。
これは、にゃーさんを守るものであって、にゃーさんを苦しめる用のものではないからな。
問題がないなら、安心だな。
俺はホッとしながら言った。
「そうか。それなら良い。にゃーさん、その従魔登録証、似合っているぞ」
「にゃ!」
「なぁー、な」
俺達は、再び、ダンジョンに向かって歩き出した。
順調な足取りで歩みを進めていく。
移動に時間がかかるという問題を解決してほしいなぁとなんとなく思う。
町からダンジョンの3層4層に向かうのは、数十分かかってしまう。
この時間はかなりもったいないよな。
ワープとか瞬間移動とかないかな。
そっちの方が戦闘に集中できるんだよな。
ただ、こういう移動の時間があるから戦略性が生まれるとも思う。
このまま、狩りを続けていくのか、それとも、時間を使ってでも一度町に戻って、装備などの強化を行うのか。
ワープ機能とかをつけてしまうと、その選択が出来なくなってしまうな。
それに、移動に時間がかかった方が、フィールドに親しみがわくな。
移動中に見た景色とか、移動中に体験したことで、今の最前線のフィールドではなくても、そのフィールドのことを忘れることがなくなる。
ワープをつけてしまうと、間のフィールドのことなんて、すぐに忘れてしまいそうだな。
後、ワープとかがあると、何というか、リアリティが減るよな。
ゲーム感が強くなるのは、良いところでも悪いところでもあると思う。
ただ、こんだけリアルな世界にしているのだから、その世界観を崩しかねないワープとかそういう移動手段は出てこないのかな。
何というか、一長一短だな。
俺がどっちが良いと決められることじゃないなぁ。
俺が余計なことを考えながら歩いていると、突然にゃーさんが、鳴いた。
「にゃ! にゃ!」
急にどうしたんだと、俺は体をビクッとさせた。
そのタイミングで、にゃーさんが、腕からするりと抜けて、足下を歩き出した。
もしかして抱えて歩くのがいやだったのかな。
そうだったとしたら申し訳ないな。
そう思いながら言った。
「どうした急に、歩きたくなったのか?」
「にゃー! にゃー」
「なぁ?」
にゃーさんは自分の足で歩きたいんだな。
それならそれを尊重しようかな。
なるべくストレスを与えたくないしな。
俺は2度ほど頷いた後に言った。
「まぁ、歩きたいなら歩いたら良いか」
「にゃ!」
まぁ、そのうち飽きて、抱っこしろと言ってくることだろう。
そのときにまた抱きかかえてあげれば良いのだ。
俺達は別に効率的にこのゲームを攻略してやろうとかそういうタイプのプレイヤーじゃない。
だから、にゃーさんをか抱きかかえた方が早いから、絶対そっちにするんだという気持ちはない。
自由にすればいいと思う。
そもそも、多分だけど、キメラスキルオンラインって、リセマラとか、効率厨とか、そういう感じのゲームな気がしないな。
まぁ、でもイベントをかなり本気で取り組んでいるような上位勢の人たちは、そっち系なのかもしれないな。
そういう人たちは、俺達とは別のゲームをプレイしているような感覚なんだろうな。
思考が脇道にそれながら言った。
「飽きたらすぐに知らせてくれ、抱えて歩くから」
「にゃー!」
俺は、にゃーさんの後ろをなーさんを肩に乗せた状態で歩いて行った。
門が見えてきた。
もう少しで町の外だな。
そういえばにゃーさんって町から出たこととかあるのかな。
そんなことを考えていると、急ににゃーさんが走り出した。
外に出れることに興奮しているのかな。
そう思いながら、少し遅れて追いかけていった。
追いつくと、門の前で、にゃーさんが門番に止められていた。
「ちょいちょい、そこは、町の外だよ。猫ちゃん町はこっちだよさ」
あの門番さん、見覚えがあるぞ。
あぁ、あの人あれだ。
ゲンさんだ。
前にお世話になった門番のゲンさんだ。
ゲンさんは、にゃーさんのことをただの猫だと思って止めているのかな。
門番としては正しい行動なんだろうけど、従魔登録証を確認してほしかったな。
そう思いながら、ゲンさんに声をかけた。
「あのぉ」
「おう、お前は昨日の、アロンか。どうした?」
ゲンさんが、視線をにゃーさんからこっちに移した。
どう言ったらいいんだろうな。
にゃーさんを解放してもらうには何を言ったらいいんだろうな。
少し考えた末に言った。
「いや、そのタウンキャットは、うちの従魔なんで、解放してもらえませんか? 首に、従魔登録証をしているでしょ」
「おぉ、アロンの従魔だったのか。アロン、タウンキャットを従魔にしたのか? すごい珍しいな」
ゲンさんは、驚きながらも、にゃーさんを解放してくれた。
にゃーさんはささっと俺の足下まで移動してきた。
俺は、それを確認してから返答した。
「そうですかね」
「あぁ、珍しいさ。普通、タウンキャットは、町から出さないものだぞ」
「そうなんですね」
「戦闘とか冒険をさせる種族じゃないからな」
まぁ、受付のお姉さんから聞いていたから、なんとなくそこら辺のことは知っている。
だけどここは空気を読んで、知らない風にした方が良いよな。
そう思い、感心したように言った。
「そうなんですね」
「アロンは、こいつに戦闘をさせるのか?」
「支援魔法をメインに頑張ってもらおうと思ってます」
「それなら、まぁ、どうにかなるのか。こいつを前衛に出すのはやめておけよ、タウンキャットはか弱いんだからな」
「そうなんですね」
「支援魔法か。正直、タウンキャットよりも支援魔法が達者な従魔はごまんといるけど、アロンとこいつがそういう選択をしたなら止めることはしない」
まぁ、戦闘用と言うか、成り行きで従魔にしただけなんだよな。
活用法というか、起用法を考えたときに、支援魔法が狩りになっただけで、別に、支援魔法担当を探していて、にゃーさんに行き着いた訳じゃないんだよな。
そう思いながら言った。
「ありがとうございます?」
「こいつの名前はなんて言うんだ?」
「このこはにゃーさんです」
「そっちの従魔の名前って何だったっけ?」
「こっちは、なーさんです」
ゲンさんは、あきれたような顔をした。
何か変なことを言ったかな?
そう思っていると、ゲンさんが首をかしげて言った。
「もしかして、アロンって、あまりネーミングセンスがないタイプか?」
「そうじゃないと思いますよ」
「いや、そうだろ。さすがに猫ににゃーさんはなぁ……」
「あの、そろそろ行きますね。これからダンジョンに行く予定なので」
「あぁ、引き留めてしまってすまないな」
「いえいえ」
「無事に帰ってこいよ」
「はい! 行ってきます」
俺は、にゃーさんを抱きかかえて、町から出た。
たかとの通話を終え、俺はキメラスキルオンラインの世界に戻ってきた。
閉じていたまぶたをカッと開く。
知らない天井だ。
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俺は、きちんとログインできたことを確認してから言った。
「おはよう」
「にゃ!」
「なぁー」
2人とも既におきていたらしい。
ちょっとタイミング的に遅かったかな?
もう少し早くログインしてきて、2人が目を覚ますと同時に行動開始できたら最適だったかもな。
まぁ、でもそんな効率厨というか、RTA奏者みたいなプレイングをしている訳じゃないし、これぐらいのタイムロスはかまわないか。
そんなことを考えながら言った。
「疲労値が出ないうちに、元気玉食べちゃうか」
「なぁ!」
「にゃ」
せっかくログアウトしてまで疲労値を回復したのに、ログインした後にのんびりしたせいで、疲労値が1とか2とかたまって、元気玉が装備できないってなったら馬鹿らしいもんな。
そう思いながら、俺は、ログアウト前に買っておいた元気玉をストレージから取り出した。
そして、その元気玉を2人に渡しながら言った。
「はい、じゃあ2人の分」
「にゃ」
「なぁー」
2人は渡した元気玉を受け取る。
じゃあ、後は食べるだけだな。
いつ食べるのか、2人がタイミングを計りかねていたので、言った。
「じゃあ、食べるよ、せーのっ」
そういうと同時に3人とも、元気玉を食べた。
俺は錠剤と同じようにかまずに飲み込んだ。
多分、噛んじゃダメなやつだよな。
そう思いながら、飲み込んだ。
さすがゲームというか、飲み込むときに苦しさもなければ、不快感も、飲み込めるのかという不安感もなかった。
現実も同じように薬が飲めたら、錠剤用のゼリーとか、流し込むようにお水とかが必要ないのにな。
そんなことを考えていると、ウィンドウが出現した。
Lv.2元気玉が飲み込まれました。
この装備を、アクセサリー枠に装備しますか? はい/いいえ
俺は迷わず、”はい”を選んだ。
すると、ウィンドウは消えていった。
装備できましたとかそういうウィンドウが来るのを数秒待ったが、来なかった。
来ないなら来ないでいいや。
ステータスから確認するから。
そう思いながら言った。
「どうだ? 装備できたかな?」
「にゃ?」
「なぁ?」
俺は、ステータスウィンドウを開き、装備欄を確認した。
まず俺の装備欄。
石の意思、水切りの石に続いて、アクセサリー枠に、Lv.2元気玉と表示されていた。
よし、ちゃんと装備されているみたいだな。
続いて、従魔の2人の装備を確認した。
2人の装備欄にも、きちんとLv.2元気玉が装備されていた。
ちゃんと装備できているな。
装備の制限とかそういうのを確認していなかったから、もしかしたらと思っていたけど、大丈夫だったみたいだ。
俺は、全員分の装備欄を確認し終えてから言った。
「装備できているみたいだな」
「にゃ」
「なぁ」
疲労値の表示が、『疲労値:0』から、『疲労値:0(Lv.2元気玉:0/100)』に変化していた。
うまく装備の効果も発揮されているみたいだな。
というか、こういう感じに変化するんだな。
疲労値本体が、変化すると言うよりは、元気玉という枠が新しく別に出来たという感じなのかな。
この疲労値は、どっちから溜まっていくのかな。
普通に考えたら、元気玉の方から溜まっていくよな。
まぁ、どっちから溜まっていったって、効果は同じなんだろうから、気にはしないんだけどな。
俺は疲労値を眺めながら言った。
「よしこれで、疲労値の許容量が倍になったな」
「なぁ」
「にゃ」
これで、疲労値問題は解決したな。
じゃあ次にやることと言ったら、ダンジョンの攻略だな。
前回のダンジョンの攻略から、買い物や、クエスト、この疲労値問題と、いろいろなものが重なった結果、だいたい8時間近くダンジョンに潜っていないことになる。
キメラスキルオンラインが始まってから、まだ、32時間程度しか経っていないのに、そのうち8時間も連続してダンジョンにいないというのは、用事があってログインしていないとかでしか考えなられないよな。
そう思いながら言った。
「じゃあ、久しぶりのダンジョンに行くか!」
「なぁ!」
「にゃ! にゃ!」
2人ともかなり乗り気だな。
早く戦闘をしたくて仕方がないんだろうな。
俺もそうだから、その気持ちは痛いほど分かる。
町にずっといるのもそれはそれで楽しいけれど、あくまでこのゲームの醍醐味は、戦闘だよな。
ダンジョン攻略だよな。
そう思いながら、俺達は部屋を出た。
部屋を出ると同時に、仮眠室の料金400Gが引かれていった。
俺は、にゃーさんを抱え、なーさんを肩に止めて、ダンジョンに向かって歩き出した。
仮眠室から数歩出たところで、気がついたことがあった。
俺は一度立ち止まって言った。
「そういえば、にゃーさんの従魔登録証をつけてなかったな」
「にゃ?」
「な」
にゃーさんの従魔登録証をしていなかったのだ。
これをつけていないと、他の人からにゃーさんが攻撃されていても文句を言えなくなってしまう。
従魔を連れている身からしたら、一番大事な従魔登録証を、普通につけ忘れていた。
従魔登録の後いろいろあったから、普通に忘れいていたな。
俺は忘れていて申し訳ないと思いながら、にゃーさんに聞いた。
「首で良いか?」
「にゃ!」
首で良いらしい。
首が良いと言うよりは、どこでも良い、こだわりがないという感じかな。
まぁ、首で良いというなら、首につけるんだけどな。
こういうのは、個性を出すところじゃない。
利便性を取るところだ。
紛らわしいところにつけて、にゃーさんが攻撃されたら、本末転倒だもんな。
みんながつけているところと言うのは、それだけ利便性があると言うことだろう。
そう思いながら言った。
「じゃあ、首につけるぞ」
「にゃ」
俺は受付のお姉さんに渡された従魔登録証をにゃーさんの首につけた。
これは、一目できちんと従魔だと分かるな。
これをつけていれば、攻撃されることはないだろう。
まぁ、にゃーさんは町中にいるようなモンスターだから、そもそも攻撃される機会の方が少ないだろう。
それでも万が一があるからな。
こういうのは大切だよな。
そう思いながらにゃーさんに確認した。
「どうだ? 苦しくないか? 違和感はないか?」
「なぁ?」
「にゃ!」
にゃーさんは何事も問題ないという態度で鳴いた。
そうか、問題ないのか。
それは良かった。
これは、にゃーさんを守るものであって、にゃーさんを苦しめる用のものではないからな。
問題がないなら、安心だな。
俺はホッとしながら言った。
「そうか。それなら良い。にゃーさん、その従魔登録証、似合っているぞ」
「にゃ!」
「なぁー、な」
俺達は、再び、ダンジョンに向かって歩き出した。
順調な足取りで歩みを進めていく。
移動に時間がかかるという問題を解決してほしいなぁとなんとなく思う。
町からダンジョンの3層4層に向かうのは、数十分かかってしまう。
この時間はかなりもったいないよな。
ワープとか瞬間移動とかないかな。
そっちの方が戦闘に集中できるんだよな。
ただ、こういう移動の時間があるから戦略性が生まれるとも思う。
このまま、狩りを続けていくのか、それとも、時間を使ってでも一度町に戻って、装備などの強化を行うのか。
ワープ機能とかをつけてしまうと、その選択が出来なくなってしまうな。
それに、移動に時間がかかった方が、フィールドに親しみがわくな。
移動中に見た景色とか、移動中に体験したことで、今の最前線のフィールドではなくても、そのフィールドのことを忘れることがなくなる。
ワープをつけてしまうと、間のフィールドのことなんて、すぐに忘れてしまいそうだな。
後、ワープとかがあると、何というか、リアリティが減るよな。
ゲーム感が強くなるのは、良いところでも悪いところでもあると思う。
ただ、こんだけリアルな世界にしているのだから、その世界観を崩しかねないワープとかそういう移動手段は出てこないのかな。
何というか、一長一短だな。
俺がどっちが良いと決められることじゃないなぁ。
俺が余計なことを考えながら歩いていると、突然にゃーさんが、鳴いた。
「にゃ! にゃ!」
急にどうしたんだと、俺は体をビクッとさせた。
そのタイミングで、にゃーさんが、腕からするりと抜けて、足下を歩き出した。
もしかして抱えて歩くのがいやだったのかな。
そうだったとしたら申し訳ないな。
そう思いながら言った。
「どうした急に、歩きたくなったのか?」
「にゃー! にゃー」
「なぁ?」
にゃーさんは自分の足で歩きたいんだな。
それならそれを尊重しようかな。
なるべくストレスを与えたくないしな。
俺は2度ほど頷いた後に言った。
「まぁ、歩きたいなら歩いたら良いか」
「にゃ!」
まぁ、そのうち飽きて、抱っこしろと言ってくることだろう。
そのときにまた抱きかかえてあげれば良いのだ。
俺達は別に効率的にこのゲームを攻略してやろうとかそういうタイプのプレイヤーじゃない。
だから、にゃーさんをか抱きかかえた方が早いから、絶対そっちにするんだという気持ちはない。
自由にすればいいと思う。
そもそも、多分だけど、キメラスキルオンラインって、リセマラとか、効率厨とか、そういう感じのゲームな気がしないな。
まぁ、でもイベントをかなり本気で取り組んでいるような上位勢の人たちは、そっち系なのかもしれないな。
そういう人たちは、俺達とは別のゲームをプレイしているような感覚なんだろうな。
思考が脇道にそれながら言った。
「飽きたらすぐに知らせてくれ、抱えて歩くから」
「にゃー!」
俺は、にゃーさんの後ろをなーさんを肩に乗せた状態で歩いて行った。
門が見えてきた。
もう少しで町の外だな。
そういえばにゃーさんって町から出たこととかあるのかな。
そんなことを考えていると、急ににゃーさんが走り出した。
外に出れることに興奮しているのかな。
そう思いながら、少し遅れて追いかけていった。
追いつくと、門の前で、にゃーさんが門番に止められていた。
「ちょいちょい、そこは、町の外だよ。猫ちゃん町はこっちだよさ」
あの門番さん、見覚えがあるぞ。
あぁ、あの人あれだ。
ゲンさんだ。
前にお世話になった門番のゲンさんだ。
ゲンさんは、にゃーさんのことをただの猫だと思って止めているのかな。
門番としては正しい行動なんだろうけど、従魔登録証を確認してほしかったな。
そう思いながら、ゲンさんに声をかけた。
「あのぉ」
「おう、お前は昨日の、アロンか。どうした?」
ゲンさんが、視線をにゃーさんからこっちに移した。
どう言ったらいいんだろうな。
にゃーさんを解放してもらうには何を言ったらいいんだろうな。
少し考えた末に言った。
「いや、そのタウンキャットは、うちの従魔なんで、解放してもらえませんか? 首に、従魔登録証をしているでしょ」
「おぉ、アロンの従魔だったのか。アロン、タウンキャットを従魔にしたのか? すごい珍しいな」
ゲンさんは、驚きながらも、にゃーさんを解放してくれた。
にゃーさんはささっと俺の足下まで移動してきた。
俺は、それを確認してから返答した。
「そうですかね」
「あぁ、珍しいさ。普通、タウンキャットは、町から出さないものだぞ」
「そうなんですね」
「戦闘とか冒険をさせる種族じゃないからな」
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だけどここは空気を読んで、知らない風にした方が良いよな。
そう思い、感心したように言った。
「そうなんですね」
「アロンは、こいつに戦闘をさせるのか?」
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「それなら、まぁ、どうにかなるのか。こいつを前衛に出すのはやめておけよ、タウンキャットはか弱いんだからな」
「そうなんですね」
「支援魔法か。正直、タウンキャットよりも支援魔法が達者な従魔はごまんといるけど、アロンとこいつがそういう選択をしたなら止めることはしない」
まぁ、戦闘用と言うか、成り行きで従魔にしただけなんだよな。
活用法というか、起用法を考えたときに、支援魔法が狩りになっただけで、別に、支援魔法担当を探していて、にゃーさんに行き着いた訳じゃないんだよな。
そう思いながら言った。
「ありがとうございます?」
「こいつの名前はなんて言うんだ?」
「このこはにゃーさんです」
「そっちの従魔の名前って何だったっけ?」
「こっちは、なーさんです」
ゲンさんは、あきれたような顔をした。
何か変なことを言ったかな?
そう思っていると、ゲンさんが首をかしげて言った。
「もしかして、アロンって、あまりネーミングセンスがないタイプか?」
「そうじゃないと思いますよ」
「いや、そうだろ。さすがに猫ににゃーさんはなぁ……」
「あの、そろそろ行きますね。これからダンジョンに行く予定なので」
「あぁ、引き留めてしまってすまないな」
「いえいえ」
「無事に帰ってこいよ」
「はい! 行ってきます」
俺は、にゃーさんを抱きかかえて、町から出た。
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~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
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