地平線の頌賦~horizonal Ode~

ななち

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第二十七話

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 静かな室内だった。

 そこに閉じ込められて、どれほどの年月がたったのかも、彼女には分からなかった。

 ただ泣き崩れる日々。

―――これ以上、こうしていても仕方がないのに…―--

「いい加減、泣くのをおやめになったらいかがです?」

 部屋の外から、声がする。

「こんなことをしても、どうしようもない…。」
「どうしようもない?…どうしようもないわけではありませんよ。あなたが私を見てくだされば、全ては解決するのです。」
「やめて…!!」

 女性は耳を塞ぎ、激しく首を振った。カタカタと、小刻みに震える体を、どうしても止めることはできなかった。

 キィ……

 扉がゆっくりと、きしむ音をたてながらあけられる。

 コツ、コツと靴音を立てながら男が入ってきた。

「こないで…!!」

 小さな叫び声だった。
 それは一瞬だけ、男のの歩みを止める力しかもたない弱々しいものだった。

「こないで…?どうして?そんなに呼んでいるのに?」

 呼んでいる…?

 そう、呼んでいるのだ。声を限りに。

 だが、その相手は、この男ではない。

 目の前にある、青の髪に瞳ではない。呼んでいるのは、稲穂の髪に、草原の緑の瞳…。地平線から昇る、美しい陽の光に似た、輝く青年だ。

「私は、貴女のものです…。」

 男は、震える女性をぎゅっと抱きしめた。激しく首を振り、身体全身で拒絶するのを構わず、男は彼女を抱きしめる。

「愛しています…。」

 どれほどその言葉に憧れたか…。

 でも、言って欲しい声ではない。
 抱きしめてくれる腕も違う。

「やめて…触らないで…!!」

 力ない声を限りに叫んでも、振り払えない。

「私のものに、なってください。」
「やめて…」

 拒否の声は、次第に願いの声に近くなった。弱々しいその姿が、それ以上責めてくれるなと訴えている。

「……残酷な方だ、貴女は。」

 男はそっと女性の身体を放した。
 涙に濡れた顔も、なお美しいその女性。
 美しい金髪に青い瞳のその女性は……。

 この国で一番強い力と、美貌を持つ人外の存在。

「妖精王をおやめになってください。」
「嫌です…」

 弱々しく首を振り、妖精王は男の言葉を拒否した。

「では、私を貴女の術士に。貴女を愛せる、ただ一人の存在にしてください。」
「できません…」

 何度となく繰り返されるやりとり。
 納得するわけにはいかなかった。
 例えここに閉じ込められようとも。

 なぜなら…。
 待っているのはあの金色の髪と緑の瞳の青年。
 この男ではない。

「どんなに願っても、あの男はあなたの元に帰ってきません。あなたもご存知でしょう?」

 妖精王の身体を放し、男は溜め息混じりに呟いた。

「いいえ、帰ってきます!!必ず…!!」

 それまでどこまでも弱々しかった妖精王は、この男の言葉に対してだけは、強い口調で否定した。

―――この胸に感じる。あの人の強い力を。あの人は、まだ生きている。生きて、この国にいる。―――

 国の自然界の力を統べる力を持つ妖精王にはわかる。
 あの時と変わらない、強く優しいあの人の力を感じるのだから。

「…帰ってきませんよ。」
「いいえ!!あの人は、かならず私のところへ帰ってきます!!」

 ―――城から逃げるように去って行ったあの人。
 でも、最初に見せてくれたのは、優しい笑顔だった。
 を綺麗な人だと言ってくれた。
 そこには、好意があったはず。
 だから、彼は逃げたのではない。
 追い出されたのだ。
 でも、きっと彼は、私を助けるために戻ってきてくれる。この国の異変を感じれば、私に何か起きていることがわかるはず。
 あなたの妖精の異変を、必ず感じてくれるはず。―――

 この時には、全ては決していた。
 ……終わりに向けて始まっていた……。
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