揺れと生きる

立華あみ

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第二十一章 消失の予感

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最初に変わったのは、連絡の頻度。次に、メッセージは、少しずつ短くなった。

「今日は冷える」
「無理はするな」

それだけ。返事をしても、返ってこないことが増える。既読が、付かない。
それを、気にしないふりをする。会えば、いつも通りだ。
声も、距離も、変わらない。

「……元気か」
「はい」

それだけの会話。いつも通りを保とうとする
不自然さ。
それが、はっきり分かる。
秋頼は、自分から来なくなった。誘わない。呼ばない。必要としない側に立とうとしている。
それが、透けて見える。
これは、距離を取っているわけじゃない。消えようとしている。それが、一番、怖い。

ある夜、絢聖が秋頼の家を訪ねた。連絡は、していない。
インターホンを押す前、一瞬、迷う。
「来てほしくない」と言われるかもしれない。
でも、押した。押してしまった。扉が開く。秋頼は、驚かない。だが、少しだけ表情が固まる。

「……どうした」

責める声ではない。だが、歓迎でもない。

「……顔、見たくて」

正直な理由。秋頼は、一瞬だけ目を伏せる。

「……入れ」

短い言葉。拒めなかった。それが、一番正しい表現だった。
部屋は、少し片付いていた。必要以上に。痕跡を減らしている。その事実が、胸に刺さる。
「最近、忙しいんですか」

探るような問い。

「……いや」

即答。

「ただ」

続けて、止める。言い訳を用意していない。それが、本気の消失を感じさせた。
沈黙が落ちる。耐えられない沈黙ではない。
だが、以前と違う。預けられる沈黙ではなくなっている。

「……いなくならないで」

それだけ。命令でも、依存でもない。事実の要請。秋頼は、すぐに答えない。長い沈黙。
そして、低い声で言う。

「……私は、ここに居続けると、君を壊す」

それは、確信だった。

「僕は最初から壊れています」

それは、責任の押し付けじゃない。自己認識。秋頼は、長く目を閉じる。答えを出そうとしている。

「……だからこそだ」

目を開ける。

「私は、消える」

その言葉は、決意だった。逃避じゃない。残るより消える方が誠実だと信じている。

「……勝手ですね」

絢聖は、小さく言う。事実の指摘。

「……そうだな」

それだけ。否定しないことが、最後の不誠実。
その夜、二人は何もしなかった。触れない。
近づかない。
ただ、同じ空間にいただけ。最後に触れなかったという事実が、次を予感させる。
帰り際、玄関で秋頼は言う。

「……悠には」

言いかけて、止める。

「……いや」

言わない。言えば、現実になる。それを、避けた。
扉が閉まる。鍵の音が、いつもより大きく響く。
消失は、ある日突然起きるのではない。
こうして、始まる。その夜、絢聖は独りで揺れていた。悠の隣で。
秋頼の不在を確かに感じながら。誰も、まだ失っていない。だからこそ、失い始めている。
それを、自覚してしまった夜だった。
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