揺れと生きる

立華あみ

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第二十二章 乾き

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最初は、違和感だった。はっきりとした欠落じゃない。何かが足りないという感覚だけが薄くある。
生活は、驚くほど整っている。悠は、変わらない。朝は起きて、仕事へ行き帰ってくる。声も、態度も、距離も。何も、崩れない。それが、一番、不思議だった。

「今日、早いな」
「色々片付いてきた」

それだけの会話。穏やかで、摩擦がない。安定している。昔なら、望んだはずの形。
でも、胸の奥で小さく乾いた音がする。
夜、ベッドに横になる。悠は、隣にいる。触れない。でも、離れてもいない。
守られている距離。それが、今の二人の形。
目を閉じると、別の沈黙が思い浮かぶ。秋頼の家の静けさ。解決されないままの沈黙。揺れを問題にしない空気。それが、恋しくなる。

「恋しい」

そう、はっきり言葉にしてしまうと、胸が軋む。
失ったわけじゃない。でも、そこにはもう、行けない。
その事実が、乾きを増幅させる。
悠が寝返りを打つ。微かな布の音。現実の音。それが、確かにここにある。でも、生きている実感はない。

——揺らしたい。
——確かめたい。
——まだ、影響を与えられるのか。

その思考に、ぞっとする。安定が、不安に変わり始めている。

「……絢聖」

悠が、呼ぶ。

「最近、静かだな」

心配でも、詰問でもない。ただの事実。

「そう?」

とぼけた返事。
悠は、それ以上踏み込まない。踏み込まないことが、もう、優しさじゃないと感じてしまう。その自覚が、悠への気持ちを表してしまっている。

昼間、一人でいるとき、スマートフォンを何度も手に取る。
連絡先を開いて、閉じる。送らない。でも、消さない。それが、答え。
安定は、僕を守ってくれる。でも、満たしてはくれない。むしろ、不安が押し寄せる。
その事実を、もう、否定できない。
夜、シャワーを浴びながら、鏡を見る。映っているのは、落ち着いた顔。
疲れていない。不安定でもない。でも、欲している。その目だけが、嘘を吐いていない。

——このまま何も起きなければ、壊れない。
——でも、削られながら生きる。

その二択が、はっきりと見えてしまう。
ベッドに戻る。悠は、すでに眠っている。安心しきった寝顔。信じ切っている人の顔。愛おしさを感じるのに、胸が痛む。

——この人は、揺らさない。揺らされない。
——だから、壊れない。

歪んだ、安心感。

天井を見つめながら、僕は思う。
乾きは、不幸じゃない。生きている証拠だ。そう、自分に言い聞かせる。
そして、気づいてしまう。この乾きは、また、誰かを巻き込む。それでも、止められない。乾きは、兆しじゃない。すでに、次を呼んでいた。

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