揺れと生きる

立華あみ

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第二十三章 揺らす

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言葉は、いつも、選べてしまう。沈黙よりも、安全で、簡単で、決定的。
一度、口にすれば、何かが必ず動く。それを、僕は体感で知っている。

朝、悠は紅茶を淹れていた。珍しく、コーヒーではなく紅茶。この安寧に、僕が乾きを感じていることに気付いてる。穏やかな変化を起こしている。
湯気が立ち上がる。匂いが、部屋に広がる。優しい朝。この時間が、嫌いじゃない。むしろ、好き。
だからこそ、胸の奥で違和感が大きくなる。穏やかで、大切な時間。でも足りない。

「今日は遅くなる?」

僕が聞く。何気ない調子で。

「分からない」

悠はカップを置きながら答える。それ以上、付け足さない。付け足さないという選択。それが、今の二人の呼吸。
一瞬だけ迷った。言わない。今日は、やめておく。
そう決めかける。でも、乾きは、待ってくれない。

「……最近さ」

声に出してしまう。悠がこちらを見る。真っ直ぐな目。逃げない。

「なに?」

短い返事。言葉を探す。重すぎず、でも、確かに揺れる。致命傷にならない、本音の一歩手前。そこを、狙う。

「……前みたいに、触れなくなったね」

言ってから、胸が締まる。事実の提示。それが、一番、相手を動かす。そして、傷つける。そうしないと、悠を動かせない…そこまで、辿り着いてしまっている。
悠は、すぐには答えない。カップを持つ手が、わずかに震える。揺れた、確かに。

「……必要なら」

悠は、言いかけて止める。

「違う」

自分で否定する。あまりにも、悠は誠実だ。

「俺は」

悠は、言葉を選ぶ。

「壊したくない、前みたいに触れたら、戻れなくなる」

僕は、頷く。だから、次の言葉を探す。理解したふりで言葉を続ける。

「……秋頼さんは」

一瞬、間を置く。皮肉なことに、間の使い方は悠との関わりで、学んでしまっている。空気が張りつめる。

「……そういうの、怖がらない」

それだけ。比較じゃない。否定でもない。違いの指摘。それが、一番、響く。
悠の視線が、一瞬、鋭くなる。でも、怒らない。
怒れない。それをしたら、選ばなければならなくなるから。

「……父さんは」

悠は、低く言う。

「そういう立場じゃない」

正論。

「うん、分かってる。でも…悠が、怖がらず触れてくれたの嬉しかった」
「悪趣味だ…あれは暴力に近い」
 「うん」

揺れた…彼の恐怖の核心に触れた。沈黙が落ちる。重い。でも、壊れない。
悠は、息を吐く。安全な場所にいられなくなる可能性に怯えてる。

「……絢聖」

名前を呼ぶ。少し、強く。

「俺は、ここにいる。現実として」

前にも聞いた言葉。でも、今は違う。ここに
留まる意志。それを、確認してしまった。悠は中々、同じ場所に立ってくれない。
でも…揺らせた。確かに。僕の心に、触れて、少しだけ動いた。

 「……ありがとう」
 「あぁ」

悠は、それ以上言わない。現実を回すために。
そのことが、僕をさらに乾かす。だから、試したくなる。覚悟を…気持ちを知りたい。それが、悠は容易じゃない。
確実に自分の中で、何かが再起動している。揺れは、言葉一つで戻ってくる。それを、もう、僕は手放せない。

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