いらない物語(続・最初のものがたり)

ナッツん

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きれいになんて、終われない!

もう、いいや!
煽ったこと、後悔すんなよ、バカ勇磨!

思いが爆発した。

「うるさい、うるさい!バカ勇磨!
勇磨が誰を好きかなんて関係ないよ。
私の気持ちは変わらないの、ずっと。
だって、私、勇磨しかないんだもん。
勇磨がいなくなったら、空っぽなんだよ。
だけど、そんなの、ウザイじゃん。
自分なんてなくて、勇磨しかなくて。
好きなのはやめられないんだもん。
もう、言いたくなかったのに、こんなの、猟奇的じゃん。
ずっとこっそり好きでいるなんて。
だけど、好きでいるのは自由でしょ。
ダメって言わないでよ、諦めるなんてできない。
言わせたのはそっちなんだからね!」

あーあ、言っちゃった。

こんな所で、泣いて怒った。

周りのカップルも家族連れもチラチラ見てる。

またウザがられる。

どんどん嫌われる。

でも、どうせウザイならぶつけてやる!

もう逃げない!

フラれても目線は外さないからね。
さあ、かかってこい!

2人の間に沈黙が流れた。

しばらくして、
険しかった勇磨の表情が緩んだ。

それでも、噛みつく勢いの私に、突然、吹き出した。

え?

なぜ、今、笑う?

「すげぇ顔!」

そのまま笑って私の頭に手を乗せた。

「やっと、聞けた。簡単に俺を諦めんな。
いいの、ナナは俺しかなくて。
俺が全てでいーの。俺の事ばっか考えてて。
俺だってお前しかない。
一緒だよ。俺はナナだけ。
だから、ナナの様子がおかしいって
トモから連絡もらって、すぐに来た。
ツバサに頼んで繋いでてもらった。
俺だって嫌だったよ、ツバサと2人にすんの。
ナナ、すぐ癒しの世界に逃げようとするし。
でも1人にしたくなかった。
だから俺からツバサに頼んだ。」

え。

それ、どういう。

混乱した。

「最近、様子がおかしいのも知ってたし、
昨日は怒らせちゃったし、気になってた。
だいたい理由は予想ついてた。
だけど、ナナ、言わないしさ。
先生と練習できて良かったねー、
とか言ってたじゃん。
ちょっと期待してたのに。
だから、少しほっといたのもあるんだけど、
でも、もっと早くこうしときゃ良かったな。」

そう言って抱きしめてくれた。

周囲が少しどよめいた。

え、どういう事?
ちょっと、待って。
どういう、事、なんだ?
まだ混乱したままで、
私、息もできない。

でも、抱きしめてくれた。

勇磨しかなくてもいいって、言ってくれた。

勇磨も同じだって。

聞き間違いでも夢でも妄想でもない。

私も勇磨の背中をぎゅっと掴んだ。

やだ、もう1秒も離れたくないよ。

そのまま、暫く勇磨にしがみついた。

近くのカップルが拍手してくれた。

心も体もふわふわと心地いい。

息ができる。

私、勝手に、決めつけてたんだ。

あ、そうか。
だから、ツバサくん、断言したのか。

安心してちょっと笑った。

「うん?」

私の顔を覗き込む。

「ツバサくんが、言ってた事、今、合致したから」

また片眉を上げて睨む。

「なんだよ、俺しかないって言ってたくせに、もう他の男の事考えてんのか。」

睨んで頭突きされた。

「俺さ、ナナの気持ち、結構分かるんだ。
ナナがトモと2人で出掛けてる時、そんな気持ちだったから。
だからさ、ちょっと嬉しかった。
ナナがあの時の俺みたいに、俺で頭いっぱいにしてくれてんのかなーとか思って。
だけど、ごめん。
俺なりに先生とは線を引いてたつもりだったんだけど、はっきりと突き放せば良かった。」

もう一度、ぎゅっと抱きしめてくれた。
勇磨の体温が伝わってくる。

あたたかい。

「勇磨は悪くない、私が悪い。
つまんないやきもち。ごめんね。
勇磨の目標の為に先生が必要なら、私、我慢しないとって思ってたのに。
嫌なことばっか言って。
押さえられなくて。
勇磨にウザがられて、嫌われちゃうって分かってるのに」

また頭突きされた。

「痛っ」

もう、それ、やめてよ、バカ!

「今、両手塞がってるから。」

そのままニッコリ笑って私を見つめる。

「俺はナナにウザイくらい、夢中になって欲しいの。
俺でいっぱいになって離れなくて、俺の事しか見えなくて、他のやつなんて見向きもしない、そーいうの、欲しい」

言って赤くなる勇磨。

え、なんで、それで赤くなるの?

今までだって、もっと恥ずいこと、言ってたじゃん!

私の視線に耐えられなくなった勇磨は、
私を離してから、背中を向けて空を仰いだ。

やだ、離れたくないって!

そのまま我慢できず、勇磨の背中をぎゅっと抱きしめた。

こんな簡単な事だったんだ。
はじめから全部言えば良かった。

勝手に想像して決めつけてたのは私だ。

勇磨の事は勇磨にしか分からないんだから。
ちゃんと言葉にしないとダメだね。

「勇磨、好き。勇磨は?
言って欲しい」

振り返って、また照れた顔をする。
でも、ちょっとムクれる。

「ナナ、俺を煽るな!」

そう言ってもう1度、空を見上げてから短く息を吐いて、私を見た。

「好き」

曲がって絡まった心がキレイにほつれていくのが自分でも分かった。



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