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しおりを挟む遊歩道をそのまま少し散歩した。
本当はもう少し、ぎゅっとしてたい。
でも、勇磨が手をつないでくれた。
今日は手袋もない!
勇磨の手、すき。
すき。
結局、勇磨しかなくて、
いいって、事なんだ。
何もない私でも。
ツバサくんも言ってたもんな。
頼られると嬉しいって。
余裕があるのは好きじゃないって事だって。
あれも、本当かな。
私がファンクラブにいたとしても
好きになってくれたって。
流れじゃなくて、
私自身を見て好きになってくれたって。
「ナナ、またツバサの事、考えてるだろ」
急に立ち止まった勇磨に凄まれた。
「なんで、分かるの?」
ため息をつく。
「あーだから嫌だったんだよ。
ナナはなんでツバサに持っていかれるの?
あのボンヤリしたとこか?
よく食べるとこ?
弟みたいでかわいいって言ってたよな。
かわいいって何だよ。
俺といるのにな。」
ああ、なんか、なんだろう。
単純に嬉しい。
勇磨って。
「さっき、ツバサと何、話してたの?
俺が来るまで、アイツと何、話した?
アイツに甘えたくなっただろ。
どうにかなってもいいとか。」
う、わ、スルドイ。
でもそれ、言わない。
ケンカになるやつだ。
「やっぱり、トモに頼めば良かったかな。
いや、ダメだ、アイツは信用できない。
タツキさん?いや、未知数だし。」
っていうか、なんで頼む必要あんの?
練習終わったら帰るつもりだったし。
まぁ合宿に乗り込んで、
騒ぐつもりだったのは秘密だけど。
「ナナ、俺がトモに、なんて言われたか分かる?」
え?何?
「ちびがヤバイぞ。って。
このまま帰してもいいんだけど、
なんかヤケになってるから、
その辺の男、見境なく捕まえて遊びまくるかもよって。
俺が相手してもいいけど、どうする?って。」
ちょ、ちょっとぉー。
そんな訳、ない。
「でも、俺のせいだって、分かってたから。
本当は今日の合宿も、行って欲しくなかっただろ。
でも何回聞いても、チャンスだから行けって言うからさ。
昨日も合宿は行かないって、言うつもりだったんだけど、俺、怒らしちゃったから。
あの状況で言ったら、ナナちゃん、また荒れるんじゃないかなって。」
ナナは、怖いから。
そう言ってケラケラ笑う。
「男漁りさせない為には、見張りが必要だろ」
なんて、言い方!
男漁りなんて、しないし!
ツバサくんに見張りなんてさせないでよ!
「だけど、俺が行くからって、そう言ったら、ナナ、合宿に残れとか、言うだろ。
逃げるかもしれないし。
俺ん中ではツバサが適任だったんだけど、
なんで、手、ギュッとしてたの?」
最後は、少し切なそうな目をする。
その表情、好き。
だって、私しか知らないから。
私の事、好きで好きで仕方ないって顔だから。
ふっ。
自然と顔の筋肉が緩んで笑っちゃう。
「手は分かんない。
冷たいって言われたから、温めてたんじゃない?」
ドキドキが止まらないから、
わざと素っ気なく言った。
は?
なんだ、それ!
と騒ぎ立てる勇磨。
ああ、これだ。
これじゃあ、手を繋いで歩いた事は言えないね。
でも。
私、こういうの、欲しかった。
こういう、ウザイくらい私を求めて欲しかった。
一緒だ。
勇磨の事もウザイくらい求めていいんだな。
そういう事だ。
そのままツバサくんと話した事を勇磨に話した。
途中から、どんどん顔が崩壊してく勇磨。
だけど
「ナナがファンクラブに?
うーん、どうかな。ちょっと笑えるな」
「会長とか!それでも好きになる?」
想像してゲラゲラ笑ってから、でも言い切った。
「なるな、絶対。
出会い方はきっかけに過ぎない。
しかし、ナナがファンクラブかぁ。
ウザイくらいナナに付きまとわれて、降参するんだろうな、俺」
なんだ、それ。
でも、確かに、おもしろい。
「勇磨、本当に合宿、良かったの?
これから戻っても」
そのままキスされた。
ちょ、ちょっと!
慌てて周りを見渡した!
もうっ、誰かに見られたら。
「大丈夫だよ、誰もいないよ。
しかし、ナナは学習しないな。
何回、余計な事を言って、口を塞がれてんの?バカなんだな」
バカじゃないし。
「いーの。
ナナを泣かせてまで、行く価値のある合宿じゃないし。
別に行く必要ないって言ったのにさ。
ナナは聞かないしね。」
そう、だけど。
私、何に意地張ってたんだろ。
本当、ごめん。
私の頭にポンっと手を置く。
「俺はナナといたいの。
今、ほっとくと男漁りするだろ」
またケラケラと笑う。
「ナナは空っぽじゃないよ。
人の意見とか空気に流されないで、自分で見たものだけ信じてさ、そこに惹かれた。
人の中身を見ようとするのは、意外と難しいんだよ。
俺は、空っぽの子に惹かれないよ。
むしろ俺以外の部分が多いんだよ!
ツバサもいるし、ダンスもそうだし。
他にも男がウロウロ。」
ウロウロって!
私、モテないし、それ、あなたに
言われたくないんですけど!
勇磨が爆笑する。
でも、勇磨のその一言で、また霧が晴れた。
もう、すっきり快晴だ!
そっか、そうだよね。
私、勇磨に恋する前も、それなりにやってた。
ツバサくんが好きだった時も、ダンスに夢中な時も。
空っぽじゃない。
だけど、勇磨がいると、もっと自分らしくいられる。
確かに、今は最強だな。
「少し、座るか」
そのまま手を引かれ、ベンチに座った。
腕を回して肩を引き寄せ、
またぎゅっと抱きしめてくれた。
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