最初のものがたり(香澄side編)

ナッツん

文字の大きさ
1 / 25

1

しおりを挟む

「香澄、駅前のチェリーカフェ、今日行かない?」

「え、じゃあ、私も行く!」

「お、俺もヒマ」
「俺たちも行こうぜ。」

いつもこうだ。
物心ついた時から、私の周りにはいつも
人がいる。

みんな、私を囲んで楽しそうにしてる。

なんの努力をしなくても、ただ笑って
愛想を振りまいていれば、中心にいられた。

熱くもならず、冷たくもない。

本気の恋なんて、私には遠いと思ってた。

立川香澄16歳
これは私の初めての本気のストーリー。

「いいよ、私も行きたかったの」

にっこり笑ってみせる。

楽しい。

みんなに囲まれていつも楽しい。

高校生になってもそれは変わらない。

新しい友達もたくさんできた。

楽しい。

昼時のガヤガヤした、でも、ゆるい雰囲気が
漂う教室を見渡した。

みんな自由に過ごしている。

その中心にいる私たちの言動に
遠巻きに、でも、注目して、
時には参加する。

見えない上下関係はある。
みんな、私には逆らわない。
だけど私は天然を装う。
高圧的でもわがままでもリーダーでもない。

ただ、みんな私が好きだから、
私の意向を尊重してくれる、そんな感じだ。

本当はわがままで高圧的で
自分勝手だけど。

そんなの、笑ってたら分からない。

みんな、私に優しい。

ゆっくりと目線を動かし、クラスメートを
眺めた。

あれ、あの人…。

誰だっけ?

同じクラスにいた?

廊下側真ん中くらいの席に短髪の男子。

前の席の子と何か話してる。

入学してまだ間もないけど、クラスの子の名前は、全員覚えた。

たけど、あの人、誰?

あの席に、そうだ、誰か座ってた。

でも後ろ姿しか思い出せない。

隣りで笑うリサに聞いた。

「ね、あの人、同じクラスだっけ。
ほら、あそこの短髪の人」

途端にリサが笑う。

「あー、あれ、佐藤くんね。佐藤ツバサ。
あの人、野球部で、休み時間はいつも練習してるから。」

他の子も笑う。

「野球バカだよね。いつも教室にいないし、
香澄が認識しないのも仕方ないね。」

へぇ、野球バカかぁ。

私には関係ないな。

そもそも何かに夢中になんてならないし。

野球しか頭にないのか、変なの。

ふいに立ち上がり、佐藤くんの側へ行った。

野球バカに話しかけたら、
どうなるんだろう。

あっさり、デレるんだろうな、きっと。

単純に興味本位だった。

自慢の笑顔で話しかけてみた。

私も暇だ。

「あの、お話中ごめんなさい、佐藤くん、
ちょっといい?」

佐藤くんと話していた子は、イチコロだった。

空気を読んで席をはずした。

「何?立川さん」

やっぱりね、私の名前は知ってる。

おおげさに喜んでみせた。

「えー、佐藤くん、私の名前、覚えて
くれたの、嬉しい」

首をかしげてきょとんとする。

「俺、全員、覚えてるよ。山下さん、水木さん、今井くん、小林くん、佐野さん、武田くん・・・。」

そう言って、
クラスの子の名前を席順に並べていく。

は?

何?

この人?

呆気に取られる私の前で、
あどけない笑顔を見せた。

「結構、記憶力いいんだ。
俺、野球やってるからさ、相手の戦略とか
得意分野とか、弱点とか、覚えないとって
思ってたら身についた。」

その上、彼は

「あ、もう、練習行かないと。じゃあ。」

そう言ってグラウンドへ向かった。

1人その場に立ち尽くした私は、
今まで感じたことの無い感情に襲われた。

怒り。

何、あの人。

私を無視した。

私の肩を抱いて慰めるリサにも腹が立つ。

「あはは、香澄をフルなんて、あいつ、
本当に野球バカ!」

フラれた?

私が?

あぁ、でもそんな感じ。

許せない、なんなの?

感情が顔に出そうになる。

大きく深呼吸をしてリサに笑いかけた。

「佐藤くんって、
本当に野球が好きなんだね。
いいなぁ、私も夢中になれるもの、
見つけたいなぁ」

動揺を抑える。

「そうだね、女の子に全く興味持たなくて、
野球だけって、変わってるけどね。」

ケラケラ笑うリサの言葉に変に納得した。

そっか、女の子に興味ないのか。

なら仕方ないな。

それなら私の専門外だ。

もう、関わらないでおこう。

そう決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...