最初のものがたり

ナッツん

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体育委員

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午後のHRで委員会決めをした。

なかなか決まらなかったのは体育委員だ。

体育祭や球技大会など行事が多すぎて、
部活をやりたい子やバイトをしてる子はやりたがらない。

私もできたら何もしたくないから、
窓の外を眺めて過ごした。

ツバサくんと行く駅前のパンケーキ屋さんの事を考えてワクワクしてた。

ツバサくんってスイーツを見つけるアンテナはかなり高感度なんだよな。

いつも流行りをキャッチして教えてくれる。

「おい、ね、おい、」

そう隣から呼ばれてるのに気が付いた。

陰気野郎だ!

「何?」

私もつっけんどんになる。

「早く挨拶しろよ。次は俺なんだよ」

は?

思わず大声を出してしまった。

黒板を見ると、
私と陰気野郎の名前が書いてある。

体育委員の欄だ。

「な、なんで、こうなったの?」

私の声に先生が言う。

「やだなぁ、木下さん。
誰もやりたがらないから今、
くじを回して引いてもらったじゃない」

え、うそ、私、引いたのか。
ボーっとしてた。

「じゃあ決定ね。体育委員は木下さんと工藤くんね。」

決定した途端、女子がこぞって
自分が体育委員をやると言い出した。

え?

なんで。

なら初めからやれよ!

「じゃあお願いしまーす」

と私が言うと先生が首を振った。

「不純な動機の人にはやらせません。
くじ通り木下さんと工藤くんね」

ちょっと待ってよ、
体育委員の不純な動機って何?

何か利点あるわけ?

やりたい人がいるならやってもらってよ。

納得いかない。

「やりたい人にやってもらえばいいのにね」

工藤くんにそう言ってみた。
初めて工藤くんは私を見た。

おっ、見た。

「そういうの、いいから。」

ただそれだけ言った。

どういう意味?

そういうのって何?

この人、本格的にコミュニケーションが難しい人なのかも。

ちょっと怖い。

なるべく近づかないようにしよう。

だけど、早速、放課後に体育委員の仕事ができた。

来週の体力測定の為の個人カード作りだ。

画用紙を厚紙に貼ったり切ったり、
表を書いたり、各競技の諸注意を
模造紙に書く仕事だった。

教室に残り作業をした。

まずは個人カードを40枚作りあげてから、
他の作業に入ろうと提案してみた。

バラバラで作業するより、
協力した方が早いと思ったから。

何しろ、私は今日、予定があるし。

だけど、この陰気野郎!

「は?効率的?
俺は木下さんと協力するつもりはない。
1人でやってくれ。」

なんで?

どうして?

「いや。だから、協力した方が早いでしょって話なの。
タラタラやりたいの?
早く帰りたいんじゃないの?」

イライラする。

「しつこいな。
そんな手に俺は乗らない。
いいか、たまたま隣の席で、
たまたま同じ委員だからって
俺に馴れ馴れしくするな。
うっとおしい」

馴れ馴れしい?

一緒に作業するのが?

どうしたんだろう、この人は。

そんな手とは、何?

だいたい、なんで偉そうな訳?

なんだっけ、こういうの。

俺様的な。

俺は他の人と違う的な。

「あー中2病か」

すごい目で私を睨む。

中2病の人、初めて見たな。

後でツバサくんに話そう。

「もう、俺に話しかけるな」

キィィー!

お前こそ話しかけんなよ。

陰気野郎!

心の中でけちょんけちょんにする。

結局バラバラで始めた作業は、
なかなか終わらず。

私はツバサくんとの約束を
大幅に遅れさせてもらった。

許さない、中2病野郎。

作業が終わり、片付けをし帰り仕度をした。
教室を出るときに、挨拶はした。

私もいちお、オトナ。

「じゃあね、お疲れ様。工藤くん」

まぁ想像通りだけどキレイにスルー。

人をこんなに見事に無視できるなんて本当、
見たことないくらい性格悪い。

ムカツク!

あーダメだ!

「ねぇ、どうしたらそんな性格悪くなるわけ?
挨拶されたら返す、これ常識でしょ。
っていうか、普通に話せないわけ?」

やっぱり我慢できずに工藤くんに言った。

人に面と向かって怒ったのって
初めてかもしれない。

彼は目だけ上げて私を見て、
クスっと笑った。

笑った?今。

何?

怖い。

「今度はそういう作戦か。
なるほどね。俺を怒らせる?
あんたさ、
今までの奴の中で1番面倒くせぇーよ。
興味ないフリならまだ分かる。
それでダメならケンカふっかける。
頭、おかしいんじゃねぇの」

何を言ってるの?

どうした?

何がどうなってるの?

理解不能で一瞬思考が停止したけど、
すぐに思い当たった。

やっぱり、中2病なんだ。

それか、ヤバイ人なのかも。

いきなりキレる人とか。

怖い人だったら逃げないとだし、
しばらく観察してみた。

でも陰気野郎は上を行ってた。

「どうした?今度は黙る作戦?
あ、それとも泣く作戦?
悪いけどそんなのにイチイチ俺は乗らない。」

そう言って教室のドアを
わざと大きな音を立てて開ける。

驚く私の横を通り出て行った。

でも、ハッキリした。

これは。

「中2病なんだな」

私のつぶやきが聞こえたのか、
振り返って睨んで行った。

工藤くんが出て行ってから、
しばらくは呆然とした。

中2病って、

相当ヤバイんだな。

あんまり関わるのはやめよう。

ふと時計を見て焦る。

ツバサくんに会いに行かないと!

私も慌てて教室を出て駅に向かった。

早くツバサくんに会いたい。

会って色々聞きたい。

中2病の陰気野郎についても話そう。

そう考えただけで陰気野郎さえも
使える奴に変わる。

私にとってツバサくんは神だ!
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