最初のものがたり

ナッツん

文字の大きさ
16 / 87

野球

しおりを挟む
朝はやっぱり眠い。

長い坂道の途中で空を見上げて立ち止まった。
葉桜から日差しがもれる。

キラキラしてキレイだな。

校庭からカキーンと
野球部のバッティング練習の音が聞こえた。

いいな、この音。

ツバサくんの打つ音をよく聞いていた。
勝手に利きバッティングをしてた。
当たるわけないのにね。

その音に惹かれるままに
校庭へ向かう。

石段に座って野球部の練習を見てた。
彼らを見てるようでツバサくんを見てた。

元気かな。
最近、メールもないな。
どうしたんだろう。

私も球技大会や勇磨の事で
いっぱいいっぱいで忘れてた。

こんなに連絡ないの、はじめてかもしれない。

そういえば最後に電話があった時、
ピッチャーになれないかもって落ち込んでた。

「あれ、ナナミ、おはよう」

制服の上からジャージを羽織った
さなちゃんが走ってきた。
さなちゃんは同じクラスで私の前の席。

「さなちゃん、野球部のマネージャーだったの?」

そう聞くとにっこり笑った。

「うん、中学の時から付き合ってる彼氏が野球部だからね。」

へぇー。

「どれどれ?」

さなちゃんが指をさしたのは、
ピッチャー練習をしてる男の子だ。

「かっこいいじゃん。いいな」

さなちゃんがのろける。

「いーだろ!マネージャーっていいよ。
好きな人のお世話できてさ。しかも側で応援できる。」

そういえばツバサくんも言ってたな。
マネージャーがジャージとか洗ってくれるって。

私が洗ってあげたいな。

「今度ね、試合あるんだよ。1年生試合なんだ。
うちの彼、先発で投げるから気合入ってんの。
ナナミも暇なら応援に来てよ。好きなんでしょ、野球」

え、別に好きではないけど。

「そうなの?好きなのかと思った。
まぁでもうちの学校でやるしね。
通りかかったら見に来て。来週の火曜だよ。
北高のピッチャー結構強敵でさ、危ないんだよね。」

え!

今、さなちゃん、北高って言った?

「うん、北高と試合だよ」

北高の野球部、来るの?ここに。

「そうだけど、なんで?」

来るんだ、ツバサくんが。

「あのさ、ちなみになんだけど、
その北高の強敵なピッチャーって
名前はなんて言うの?」

ドキドキした。

「佐藤くんだよ。佐藤ツバサくん。
イケメンなんだよね。彼には内緒だけど。
あれ、ナナミ、どうした?」

ドキドキが止まらなくなり顔がにやける。

ツバサくん、ピッチャーできたんだね。

しかも相手チームに強敵って言わせるほどの実力があるなんて。

やったね。

「必ず見に行く。変更とかあったら教えて。
絶対見に行くから」

今夜、ツバサくんに連絡しよう。

やった!

会える。

ツバサくんの投げる姿また見れる。

あーやばい。
嬉しすぎる。

教室に入ろうとして隣のクラスのチカを見つけた。

チカ、チカ!と呼ぶ。

「おはよ、ナナミ。なんか楽しそうじゃん」

チカちゃん鋭い!

「あのね、来週ね、うちの学校で、
北高と野球部の試合あるんだって!」

話の真意はすぐに伝わりチカも飛び跳ねて喜ぶ。

「やったね、ナナミ!見に行くんでしょ」

うん、行くに決まってる。

高校野球かぁ。

青春だぁ。

そう言ってはしゃいだ。
そんな私の後ろから声がした。

「バスケも青春だ」

そう言ってバスケットボールを私に手渡す。
勇磨だ。

「重っ」

思わず声をあげる私に

「なんだよ、腕力あるくせにな」

嫌味たっぷり言って
教室に入る勇磨を追いかけた。

「はい、ボール」

勇磨に返す。

ボールを人差し指に乗せて回しながら、
自分のロッカーにしまった。
カッコイイ!と黄色い歓声。
私は目が皿になる。

「なんだよ、朝からブスだな。」

ブスで結構!

「前から思ってたんだけど、バスケってさ、
無駄が多いよね。
今の指でくるくるも、ドリブルの時のくるくるも、
シュートの時のなんか滞空時間長めなのも。」

話の途中から勇磨の表情は固まりあきれ顔になる。

「ナナってやっぱりバカなんだな。
それがバスケなの。フェイント、分かるか?」

フェイントって。

「分かるわけないか。
それなのによく野球に興味持ったな。
あれだってかなり複雑だぞ」

へぇそうなのか。

「別に野球に興味なんてないよ。
ただカキーンって音が好きなんだよ」

話にならないというように首を振って、
教科書を机の上に出す。

ふん、バカ勇磨。

私は不純な動機で野球が好きなんだよ、悪いか!

心がふわふわ落ち着かないまま、
1日を過ごした。

放課後、またバッティングの音がしてハッとする。

そのままグラウンドに体が向く。
青空に映える白いボール。

キレイだな。

ツバサくんも、今頃、練習してるのかな。

頑張ってね、ツバサくん。

来週の試合、絶対に勝ってね。

あ、でも私は北高は応援できないのかな。
いっか、私はツバサくん個人を応援するんだから。

良くないのか?
いーや、いーや、なんでも。

目線を移すとテニスコートではチカが華麗にラケットを振っている。

カッコイイなぁ。

勇磨達、バスケ部も今は体育館が使えないのか、花壇脇で走り込みやストレッチをしてる。

確かに、野球だけじゃなくてテニスもバスケも青春だな。

いいなぁ、青春。

私も青春したいなぁ。

ちょっと羨ましくて悔しい気持ちとともに帰宅した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

五年越しの再会と、揺れる恋心

柴田はつみ
恋愛
春山千尋24歳は五年前に広瀬洋介27歳に振られたと思い込み洋介から離れた。 千尋は今大手の商事会社に副社長の秘書として働いている。 ある日振られたと思い込んでいる千尋の前に洋介が社長として現れた。 だが千尋には今中田和也26歳と付き合っている。 千尋の気持ちは?

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

処理中です...