最初のものがたり

ナッツん

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ファンクラブ

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土曜のコスモワールドの事を考えてた。

ツバサくんと香澄ちゃんを見るのはツライ。

でも、ツバサくんに会えるのは嬉しい。

私って何だろう。

そんな事を考えてたから全く背後に気がつかなかった。

ガラガラと重い扉が突然閉まる音がして振り返ると、
見覚えのある女子が数人立ってた。

みんな私を冷たい目で見つめてる。

体育の授業の後、体育倉庫で片付けをしていた。

これは、なんだ?

なんで怒ってるのか。

危機感みたいな物は本能で感じるけど、身に覚えがない。

この人達は同じ学年だという事は、
知ってるけど名前が分からない。

あ、でもあの子、同じクラスだ。
えっと。

「南さん、だよね?」

私の声に彼女はクスッと笑う。

「へぇー私の事知ってるんだ。
木下さんは工藤くんの事しか興味ないのかと思ってたー。」

勇磨?なんで、勇磨

そう言う私に全員の敵意が一層高まった。

「名前で呼んでんじゃねーよ」

誰かが怒鳴る

「あんたさームカつくんだよ!
私達の工藤くんに言い寄ったりしてさー」

「隣の席で仕方なく話してくれてるだけなのに、勘違いすんじゃねーよ」

次から次へと罵声を浴びせられた。
それですぐに理解した。

この子達は勇磨の事、好きなんだ。

私と勇磨が友達でいるのが気に入らないんだ。

今までも何人かいた。

だけど、言いがかりも甚だしい。

「でも私に怒るの違くない?
勇磨が好きなら直接言えばいいんじゃない?」

そう言う私に更に怒りはMAXになる

「私達の工藤くんに色目使ってんじゃねーよ」

「工藤くんはみんなの物なんだから。
誰か1人が独占できる物じゃないの!」

「ユーマーズの許可なくして
工藤くんに近付くなんてありえない!」

衝撃が大きすぎて、しばらく呆然と彼女達を見てるしかできなかった。

私達の工藤くんって。

みんなの物って。

しかも、色目って。

この人達、勇磨を何だと思ってるのか。

というか、ユーマーズって。

勇磨がモテるのは知ってた。
本人も主張してたし。
これが噂のファンクラブか!

え?え?でも待って。

ファンクラブ名だよね、ユーマーズって。

ダサくね?

マズイ、ツボだ。

ユーマーズ。

「あの、ユーマーズって会員は何名様ほどいるの?」

ちょっと半笑いになってしまった私の表情でバカにしてるのがバレた。

「マジ許せない!」

そう言って私の髪を引っ張り左右に振った。

突然の事で足がもつれてよろけ、近くのハードルの山に倒れこんだ。

「痛っ」

肘とおでこが痛い。

それでも彼女達は止まらず、バレーボールをぶつけてくる。

目を開けられず、両腕で自分を庇うしかない。

激しくぶつけられ立てず痛さも増す。

でも、私の中で何かがキレた。

手を伸ばし転がるボールを投げ返した。
手当たり次第、投げ返す。

目が開けられないんだから、それしか出来ない!

そのうち、彼女達が悲鳴を上げ始めた。

当たってるんだ!

そう思って目を開けてみると、各々、どこかを押さえてたり、避けようと必死になってた。

なんだよ、ユーマーズ弱すぎ!

そんなんで、挑んでくるなよ!

「あんた達、勇磨の事、なんだと思ってるの!
勇磨は物じゃない!
勇磨はアイドルでもない!
ただの高校生だっつうの!
汗臭いし、ウザいし汚いし意地悪だしバカだし口悪いし、トイレも行くしオナラもするの!人間なの!」

ボールを投げる手は止めずに続けた。

「それでも勇磨が好きなら、もっと勇磨をちゃんと見なよ!
勇磨はあんた達が思うほど王子様でもなくてアイドルでもなんでもないっ。
でも、すごくいいヤツなんだよ」

私の攻撃が止まった途端に彼女達はまた臨戦態勢になり私を囲む。

「語ってんじゃねー」

南さんがそう言い終わらないうちに、扉が音を立てて開いた。

一瞬のうちに静まり扉を見る。
瞬間、彼女達が黄色い悲鳴をあげる。

「キャー工藤くーん」
「かっこいい」
「きゃあ」

あまりの人の変わりように、
あきれるやら笑えるやら清々しいしやら。

余計な事を言うなよ、と私に睨みを効かせるのも忘れてない。

勇磨はゆっくり中に入りチラッと私を見て、それから彼女達を見る。

「何してるの?」

そう言って彼女達を見渡す。
勇磨の視線に彼女達は目配せする。

「えっと。バレーの、練習です」

「ね、木下さん?」

すごい眼力で私を射抜く。

「あ、う、、うん、そう、バレー。
この子達根性悪くて、あ、違った根性なくてさー」

キッと睨む南さん。
勇磨がちょっとあきれ顔で私を見た。

「ふーん。こんな所で練習は危ないからやめな。
俺はてっきり、大勢で1人をボコってるかと思ったんだけど、違うなら良かった。もし」

そこで一旦言葉を止めて私の肩を抱き寄せる。

ユーマーズは息を飲んで目線をそらす。

固まる私。

「もし、俺の大事な友達を傷つけるような事があったら俺は、お前らを絶対に許さない」

そう言ってみんなを睨んだ。

勇磨の威嚇に彼女達は固まり、でも頰を赤らめた。

「大丈夫です。木下さんとはお友達だから。
ね、木下さん?」

うーん。

「まーそうだね。いつでもバレーの特訓するから」

そう言う私にまたキッとにらんで彼女達は出て行った。

去り際に

「怒ってる工藤くん、かっこいいー」
「あの目、最高!」

って騒ぎながら。

イかれてる。

というか、凡人の頭じゃ太刀打ちできない!

なんなの、あいつら!

でも、それよりも!

それよりも、だ!

「勇磨、本当にファンクラブあるんだね。驚いたよぉ」

そう言う私のおでこの傷と肘の傷を確かめぎゅっと目を閉じる勇磨。

「ごめん」

一言、そうつぶやいて私を引き寄せた。

勇磨は強く、強く私を抱きしめた。

「悪いかよ、俺は、モテるって言ったじゃん」

ちょ、ちょ、ちょっと待って。

むやみに抱きしめないで。

ミアンちゃんやリノさんとは違うんだよ。

勇磨の腕から逃れようともがいたけど、無理だった。

「大人しくしろ、バカ。
ナナ、俺のせいで怖い思いさせたし、
傷つけた。
ごめん。あいつら、絶対許さない!」

勇磨の腕から力が抜けてやっと解放された。

また、ドキドキが止まらない状況を見透かされたくなくて、
慌ててホコリだらけのジャージをはたいて平静を装う。

「えー。違うって、バレーの練習だって言ってんじゃーん、全く、なんの事?」

全力でトボけてみせた。

「バカなの?あの言い訳で俺が納得するとでも?
なんでナナもあれに乗るかなぁ。本当、あきれるよ」

やっぱ、バレるよね。

おかしいもんね、あの状況。

「傷。血が出てる。」

勇磨が私の額に手をあてた。

慌てて勇磨と距離を置いて自分で額を押さえた。

さっきまで気にならなかったのに気にした途端、超、痛い!

「痛っ!もう、あんたのファンクラブ、潰してやる!」

勇磨は私に深く頭を下げて謝った。

「ごめん、本当にごめん、俺、何したらいい?」

真剣に見つめられただけで、ちょっとドキドキする自分にも驚いた。

おでこの傷にまた触れる。

「女の顔は命だって、ミアンが言ってた。
顔に傷作ると心に何倍もの傷ができるって。責任取る」

うん、まぁミアンちゃんはそうだと思う。

でも、責任取るって。

ちょっと笑えるんだけど。

いつの時代?

だけどおもしろくて、からかってみた。

「うん、責任取って勇磨のお嫁にして」

さぁ、どうする。
モテ男、どうする?

「そんなんでいいの?」

うそ。

バカなの。

うーやりにくいっ

「勇磨、もういい加減にして。
バレてるだろうから言うけど、
これは勇磨には関係ない事なの!
私とファンクラブの問題なの!
勇磨には関係ない。
デコの傷なんて、私の心には何の影響もない。」

勇磨が顔を上げた。

「は?俺のせいだろ!
俺がナナと話したり帰ったりしたから。
俺、やっぱり、ナナとは距離を置いて」

もー勇磨って!

「それが、嫌なの!
あいつらのせいで何で距離を置く必要があるの」

私の言葉を黙って聞いていた。

「違うんだよ、勇磨。
私とファンクラブの問題なんだよ。
私が勇磨と友達になりたくて、一緒にいるの!
楽しくて話したり遊んだりしてるんだから、それをやめろって言われてムカついたからケンカしたの。
勇磨がどうとかじゃなくて、私が彼女達の言う事にムカついたんだよ、だからケンカも買ったの。
私の買ったケンカを勝手に自分の物にしないでよね。」

私の話を聞きながら、勇磨は大きなため息をついたり、
首を振ったり、最後は諦めたように笑った。

「やっぱり、すげぇな。こんな奴初めてだよ。
あいつらからは俺が必ず守るから。
だから1人で泣くなよ」

私の頭をくちゃくちゃっとする勇磨のお腹に一発入れてやった。

「守んなくていいし、やられたらやり返すし!
あんな奴らには負けない!
何が私達の工藤くんだよ!
キモっ。ユーマーズってダサ過ぎだろが!」

ムカムカが再発した私の横で勇磨 は苦笑いをする。

「そうだよなぁ。
俺は意地悪だしバカだし臭いしウザいんだったよな。
あぁ、オナラもするんだったな。
ひでぇーなナナ。
それに中2病も患ってるしな。」

え?聞いてた!

「聞いてたなら、もっと早く助けてよ」

「いや、ナナが勝ってたからさ。
俺が来た時には、あいつらが一方的にやられてた」

笑いが止まらない勇磨。

なんか、ムカつく。
もー保健室、行こう!

そう言って背を向けた私を引き寄せて、背中から抱きしめた。

耳元に勇磨の唇が当たる感じがする。

止まらないドキドキに体の神経が集中する。

もうっ!やめて!

こっちは免疫ないんだって!

「ありがとう。嬉しかった。俺を見ろって言ってくれて。
マジで嬉しかった。俺の中身を見てくれる女はナナだけだ」

やばいって、これは爆発する。

ファンじゃなくても、これはダメだ!

勇磨の腕を振りほどいて睨んだ。

「もうっこれだからモテ男はやだ!
勇磨にとっては何でもないかもしれないけど、
私は留学とかもしてないし、国際派じゃないし、こんな事を最近はパパともしてないしっ」

きょとんとして、私を見る勇磨

「何の話?」

だから、ぎゅっとしないっていう話。

簡単に触らないで!って話。

黙って聞いていたけど、
たまらないっていう風にまた爆笑する勇磨。

ひと通り笑った後に悪い目つきになる。

「そっかー免疫ないよなぁ。
パパともしてないしなー。
じゃあ慣れるしかないな。俺は国際派だから。
それに俺たち、結婚の約束したしね」

そう言ってまた抱きしめる。

「してない」

バタバタする私を抑え力を込めてからかう。

「ねぇナナちゃん、国際派はさ、
ハグだけでなく挨拶のキスもするんだよね。」

冗談だよね。

私の肩を抑え勇磨が真剣な表情をする。

うそ、だよね?

頰を傾けて近付く勇磨。
息が出来ず固まる私。

ど、どうしよう。

どうなるの。

あと数センチのところで勇磨が顔を背ける。

「バカ、抵抗しろよ」

え?

「え、じゃねーし。お前、おれにキスされて良かったの?」

良くない、良くない。

首振る私を見ながら片眉を上げる勇磨の顔が赤い。

「勇磨、顔、赤い」

横を向いて目線を逸らす勇磨。

「ナナ、デリカシーなさすぎ!」

あ、れ。

「あー勇磨、照れてるとか?
照れるくらいならしないでよね」

さらに赤くなって後ろを向く。

「別に慣れてねーし。簡単じゃねっつうの。」

うん?何?なんだって?

最後のよく聞こえなかった。

「もう行け!これ以上、ここにいたらヤバイ」

何がヤバイんだか。

でも急いで着替えないと、次の授業に間に合わない。

確かにヤバイ!

保健室にも寄らないとだし。

勇磨に片付けを頼んで保健室に走った。

走っても走っても勇磨の感触が消えない。

走ったからか心臓が痛いくらいドキドキしてる。

どうしちゃったんだろう、心臓。

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