最初のものがたり

ナッツん

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ハグとは

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体育倉庫での一件から勇磨は部活の時以外、
私の近くにいるようになった。

結局、気を遣わせてる。

心苦しかった。

でも、わたしがユーマーズ(ダサっ)とケンカするのも自由なら、俺がお前を守るのも自由だ、と聞かない。

勇磨の近くにいるようになって分かった事もある。

姉妹に挟まれてる勇磨は、結構優しい。

中2病モードと、スネスネモードの時は例外だけど。

姉妹に鍛えられてるのかジェントルマンだし。

彼女だったら大事にされてウットリするところだと思う。

女の子扱いしてくれて守ってくれて、まるで自分が繊細でか弱くて儚いお姫様の気分になれると思う。

ツバサくんとは真逆だな。

思わず吹き出した。

ツバサくんは鈍感で天然で、
女の子の気持ちなんて全く分からないし
気も使えない。

でも、正義感強いから、
守ってはくれるのかもしれないな。

そんな事を考えながらの帰り道で
ツバサくんに会ったから、びっくりした。

「なぁな!」

駆け寄ってくる。

妄想じゃない、本物だ。

今日は香澄ちゃんは一緒じゃないんだ。

「ツバサくん、どうしたの?」

私の問いに首を傾げる。

「別にどうもしないよ。
ちょっと、近くに用があったから、
なぁなに会いたいなって思ってさ」

ツバサくん。

ヤバイな、嬉しい。

「今日は工藤は一緒じゃないんだね」

そう言って私の後ろを確認する。
ちょっと笑った。

何、その仕草、かわいい。

「うん、勇磨は部活だよ」

ニコニコしながら私の腕を引っ張る。

「やった、良かった。工藤、怖いんだもん。すぐ怒るしさ。
なぁなとゆっくり話したくても、アイツいると話せないしさ」

何か話があるの?

そう聞くとツバサくんは首を振る。

「ううん、ないよ。」

なんだよ、もう、かわいい。

いつもの公園に寄る。

ベンチに座って学校の事、
部活の事、香澄ちゃんの事を聞いた。

ツバサくんが勇磨の事を聞くから、
ファンクラブとやり合った事、
勇磨が側にいて守ってくれる事を話した。

こうやって話してると、
本当に友達になれた気になる。

私さえ恋をしなければ、
友達関係は続いていくんだ。

だから気持ちにフタをして、
友達でいたいと願った。

でもツバサくんは天然だ。

私の僅かな望みでさえ、壊す。

「なぁな、久しぶりになぁなで、
スクワットしてもいい?」

そう言って私の背中に腕を回して、
お姫様抱っこをしようとする。

慌てて体を逸らして逃れた。

これはダメだよ。

こんな事をしたら私の気持ちがまた溢れる。

友達じゃいられなくなるから。

「えーダメなの?いいじゃん」

また手を伸ばす。

「ダメだって、香澄ちゃんにやってもらいなって」

ちょっとふてくされる。

かわいい。

油断したところでまた背中に腕を回し、
膝の後ろにも手を回され、
持ち上げられそうになった。

その寸前で横から別の手で、
体ごと持ち上げられた。

驚いて見上げると勇磨が私を抱えて、
ツバサくんを睨む。

うわぁ、降ろして。

足をバタバタして慌てる私を、
グッと持ち上げる。

「暴れんな、バカ、落とすぞ」

息を切らして私を見る勇磨は焦って見えた。

本気で落とされそうだ。

それは困る。

大人しく勇磨の首に腕を回してつかまった。

「工藤、今、帰り?」

ツバサくんの問いを無視する。

「ツバサ、お前、
ナナに何しようとしてたんだよ。
答えによっては殺す」

殺すって、大袈裟な。

ツバサくんはキョトンとして答えた。

「スクワット」

今度は勇磨がキョトンとする。

「なんだ、スクワットって」

ツバサくんがジェスチャーする。

「こうやって、
なぁなを抱えてスクワットして鍛える」

ツバサくんを睨みつけてた勇磨が、
堪えきれずに笑い出した。

「ツバサ、
ナナの体重じゃ負荷にならないだろ。」

ツバサくんも考え込んで納得した。

「俺が負荷になってやるよ」

そう言ってから勇磨は、
私をベンチに座らせ、
自分がツバサくんにお姫様抱っこされる。

な、なんなの?

この状況は!

ツバサくんはヒーヒー言いながら、
勇磨を重石にスクワットする。

勇磨も真剣に回数を数えてる。

何、この面白さ。

SNSに投稿したい。

ついに根をあげて座り込むツバサくん。

「あーダメだ。もっと鍛えないとな。」

その姿を見てふと、気がついた。

ツバサくん、私の事、
本当に重石としか見てなかったんだな。

悲しいなぁ。

ツバサくんは帰り際に勇磨に手をあげる。

「じゃあな、工藤。また重石になってよ。」

後姿を見送りながら、
自分の存在意義を考える。

ツバサくんの中で私って何なんだろう。

「アイツ、ヤバイな。話が通じない」

私の頭に手を置きながら
ツバサくんの後姿を見送った。

ベンチに座って自分の髪を、
グチャグチャにしながら頭を抱える勇磨。

「どうしたの?」

私の問いに

「ああいう奴だから、
彼女が出来てもナナは、
ほっておけないんだな。
お前が泣けないのは、
関係は変わらないからで、
ナナは何かあればツバサを助けようと
気を張ってるから、
違う?」

違わない。

だけど、違うとこもある。

言わないけどね、だけど、本心は別にある。

「ナナはどうしたい?
今からでもツバサに告って奪いたいって、
言うなら俺は…」

そこまで言うと、
私の手を引いて横に座らせる。

真剣な瞳に見つめられて、
この状況が耐えられなくなった。

立ち上がって言った。

「ツバサくんの事は大好き。
変わらない。消えない。
だけど友達になれるように頑張る。
ツバサくんが香澄ちゃんを好きで、
幸せなら私には壊せない。
友達として見守りたい」

勇磨はちょっと納得いかないという顔をする。
何か言いかけて、でもやめた。

なんだよ、言いたい事あるなら、
ハッキリ言えばいいのに。

ちょっとふてくされる私の手を、
また引いて座らせた。

「分かった。
ツバサと友達でいられるように協力するよ。
でも、ツライ時は我慢しないで俺に言えよ。
俺はお前が性格悪いのも、
口が悪いのも知ってるし、
泣いてグチャグチャな顔になるのも、
知ってるからな。
カッコつける必要ないだろ。
どんなお前も嫌いにならないし、
受け止めるからさ」

ああ、前も言ってくれたね。

どんな私も嫌いにならないって。

ちょっと安心したんだ。

味方が出来たみたいで。

あぁハグしたい。

でも勇磨はきっと

「俺を狙ってる」って言うよね。

そんな私の様子に気がつく。

「なんだよ、なんか言いたいなら言えよ」

もう、すぐ怒る。

「嬉しかったからさ、
ハグしたいなぁって思ったんだけど、
中2病の人は危険かなって」

その言葉に照れるような表情をする勇磨。

何で?照れるところ?

分かんないなぁ。

「ほら、いいよ。ハグしようぜ」

両手を広げて待つ勇磨に、
自分でも驚くくらいドキドキした。

あ、れ、違和感。

そんな思いを振り切るように、
勇磨の腕の間に入り、
背中をトントンと叩いてハグし離れた。

首を傾げる勇磨。

「それだけ?」

今度は私が首を傾げる。

そんな私の肩を引き寄せて、
ぎゅっと抱きしめる。

「ハグってこれだろ」

え。

勇磨は私を包み髪に顔を埋める。

「いっちょ前に女の子のいい匂い」

いっちょ前って。

「勇磨、違うってハグは。
嬉しい時に背中トントンするやつだよ」

でも離してくれない。

「俺のハグはこれなの。」

じゃあハグしようって、
気軽に言えないじゃん。

離してよ、バカ勇磨!

私を少し離してから顔を見る。

「気軽にハグしようなんて、
他の男に言うなよ。
お前は女なんだ。
女は男に気軽に触らせないんだ。
自覚しろよ、バカナナ。
ツバサにも言うなよ、いいな。」

そう言ってまた力を込める。

納得いかないんだけど!

「ねぇ、勇磨も男じゃん!
なら勇磨もだめだよね?
離してよ」

私の言葉は無視された。
もう観念するしかない。

「分かった、分かったよ。
勇磨以外には言わないから、
だから離して。恥ずかしい」

私を離して空を見上げる勇磨。

「分かったならいい」

なんでそんな偉そうなんだ。

これも中2病の症状かな。

「お前、
今また俺を心の中でディスってるだろ。
バレバレなんだよ」

スルドイ!

「だって、なんで勇磨以外ダメなのかなって」

この言葉を皮切りに結局、またケンカした。

「なんだよ、
お前は他の男にハグされたいのか?」

「違うって、そんな事言ってない」

「言ってるだろ。
ああ、ツバサとしたいのか。
というかツバサとしてるだろ」

「うん」

「は?ふざけんな。もう、やめろ。」

「何でそんな事、
言われないといけないの?」

「俺が嫌なの。」

「出た!中2病」

「何でも中2病で片付けるな。
俺はお前が心配なんだよ」

「心配?何が?」

「お前はさ、
自分が女って自覚が足りないんだよ。
男は好きな女じゃなくても触れたら、
その気になれるんだよ。
考えた事ないだろ。
ナナもツバサもその辺は小学生並みだ。
いいな、軽々しく男に触れさせるな、
約束しろ」

最後の勇磨の言葉で私は納得した。

確かに、友達でも男女だ。

ちゃんと線を引かないと、
いけないのかもしれない。

ツバサくんに私が触れるのも、
私が触れられるのも、
他の人から見たら誤解はされる。

そういうのは避けないと、
香澄ちゃんにも悪い。

でもそれは勇磨だって同じでしょ

「分かった。ごめん、勇磨。
ありがとう。
これからは気をつける。
勇磨にもしないようにするから安心して」

私の頭に手を置いて、
髪をくしゃくしゃにする。

やめろっ。

「俺はいいの。モテ男だから。
簡単に女にその気にはならない。
プロだからな。
それにナナも誰かにぎゅっとされて、
癒されたい時もあるだろ」

うん。まぁ。

でも、やっぱり男の子にぎゅっとされるのはダメなんじゃないかな。

いくらモテ男でプロでも。

プロってなんだ?

なんか解せない。

「難しく考えるな。
俺以外の男に触らせない。
手もダメだからな。約束だ」

また真剣な瞳。

「うん、約束する」

結局、無理くり納得するさせられた。

その夜、ベットに寝転んで考えた。

勇磨って私を妹みたいに思ってるのかも。

私がツバサくんを弟みたいに思ってた時と、なんか扱いが似てる。

ツバサくんが心配で気になって、
守ってあげたくて叱りたくて褒めたくて。

ツバサくんがあの頃、女の子にフラれて泣いてたら、私も抱きしめてあげたかもしれない。

ケンカはしなかったけど、でもあの時の私と今の勇磨は似てる。

そっか、勇磨が近いのはそういう事なんだな。

やたらとスキンシップするのも理解できる。

確かに「俺にだけ」って言うのはあってるかもしれない。

妹とは何の気兼ねもなくハグするだろうし。

ミアンちゃんにするのと同じようにしてくれてるんだ。

最近の勇磨の行動の理由が分かってスッキリした。

だとしたら、勇兄!

付き合ってもらいますよ、遠慮なく。

土曜のコスモワールド、助けてもらおう。


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