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初めての告白
しおりを挟む夢の中でもツバサくんの背中で揺られてた。
今朝は寝覚めがいい。
昨日の記憶が少しずつ戻ってきた。
ツバサくんが家までおんぶして、
連れて来てくれたんだ。
「なぁな、もう少しだよ」
そう言う声が聞こえた気がする。
昨日は朝からなんか色々と嫌な日だったけど
でも、なんか嬉しいって思う自分がいる。
何なんだろう、私って。
もうおしまいにしたのに。
でも、心も体も弱ってたから少しだけ甘えたい
携帯を見ると勇磨からの着信が、
何回もあった。
メールも何通か来てた。
途端に嫌悪感が押し寄せる。
どーせまた私を責めるんだ。
怒った顔、冷たい表情。
軽蔑の眼差し。
心をえぐる言葉。
もう勇磨はいい、そのままメールは見ないで削除した。
布団をかぶってそのまま目を閉じた。
このまま、優しいツバサくんの側で癒されたい。
夕方、ママに声をかけられ目を覚ました。
「ツバサくん、これから来るって。今、電話きたよ」
え?今?これから?
でも、頭ボサボサ!
あわてる私に爆笑するママ。
「せいぜい頑張りなさい」
意味ありげに笑って去っていくママを尻目に
慌てて鏡を覗く。
あー顔が、浮腫んでる。
でも、何より頭!これは爆発しすぎ。
素早く顔を洗って髪を整えた。
やりすぎもおかしい。
そー私は病人。
張り切ってると思われるのは恥ずかしい。
でも、お気に入りの可愛い部屋着には着替えた。
いいタイミングでツバサくんが来てくれた。
「座って」
テーブルにママから受け取ったお茶とお菓子を置いて座った。
ツバサくんはコンビニ袋から、パインアメをだしてテーブルに置いた。
「なぁな、これ好きでしょ。お見舞い」
うん、好き。真ん中抜けてるドーナツ型のこのアメ、
こどもの頃から大好きなんだ。
「ありがとう」
やっぱ、かわいいな、ツバサくん。
熱いお茶にびっくりしてる猫舌な所も、
甘いお菓子に感動してる所もみんな好きだなぁ。
「なぁな。少し元気になったみたいだね。
良かった。昨日はどうなるかと思ったよ」
そう言ってまたお菓子を口に入れる。
かわいいなぁ。
「うん、本当にごめんね、
ここまで運んでくれたんだってね。
後、この間はヒドイ事を言ってごめん」
口をモゴモゴさせたまま、ツバサくんが首を振る。
「ううん、いーの、いーの。
ウダウダしてる俺にわざと強く言ってくれたんでしょ。
なぁなは優しいね。それよりさ」
ツバサくんが何か言いかけた時、
ドアがノックされママが顔を出した。
「ごめんね、話し中に。
今ね、同級生の工藤くんって子が来てるんだけど、どうする?」
途端にこの状況に罪悪感を感じた。
お前、必死だな。
そう勇磨の声がこだまする。
名前を聞いただけで青ざめる私に
ツバサくんが気付いた。
「俺、話してくるよ。
おばさん、工藤くんとは俺も友達だから、
ちょっと話してきます」
うん。
なんだか今日はツバサくんが頼もしい。
急に立場が逆転したみたいだ。
「何、何?2人でナナを取り合う感じ?
ママは工藤くん推しなんだけど!」
は?
勇磨って年齢層広っ
勝手に騒ぐママを追い出したものの
心配になり窓から外を覗いた。
2人の姿が見えたけど声までは聞こえなかった。
しばらくして勇磨が帰って行った。
帰り際にこっちを見上げ目が合った。
慌ててカーテンを閉めて隠れた。
勇磨には会いたくない。
責められたくない。
もう、勇磨には何も言われたくない。
もう少しだけ、あと少しだけ、
ツバサくんといたいから。
ガチャっとドアが開いてツバサくんが戻って来た。
カーテンの陰で震えて目をつぶる私を見て、
何か察したのかそのまま抱きしめて、
背中をトントンしてくれた。
息が止まるかと思った。
優しく抱きしめてくれるツバサくんは、
今までのハグとは違って私を包んでくれた。
「ごめん、思い出させちゃった?
工藤のファンにやられた事。
昨日、背中でずっとなぁな言ってたよ。
私ってウザくてキモくてブスらしい、
勇磨に色目使ってるらしいよ。
使ってねーしーって。あいつら、ぶっ殺すって。
なぁならしくない暴言吐くからさ、驚いた」
私らしくない、か。
ツバサくんの腕にグッと力が入る。
「だから、相当、怖かったんだなって。
で、工藤に連絡したら、
あいつがファンに色々聞いたらしくて、
ここに来るって言ったんだけど断った。」
私を下に座らせ、自分も横に座ってツバサくんが続けた。
「だって、なぁなが勇磨嫌いってずっと言ってたから」
あーそうか、言ってたかもしれない。
今も嫌いだし、会いたくない。
「だから、今も帰ってもらったよ、
なぁなの事は俺が面倒見るからって。」
ドキッとした。
ツバサくん、それ、本当?
ツバサくんが私を心配してくれて、
思いやって気にして守ってくれるなんて、
すごく嬉しい。
「大丈夫だよ。工藤がファン達には一喝したらしいし。
俺も学校まで送迎するし、俺、なぁなを守れて嬉しいんだ」
嬉しい。
このまま流されたい。
毎日毎日、ツバサくんに守られて過ごしたい。
ファンの子達に会うのが怖いって、
学校行くのも怖いって、
どこかで狙われてるかもとか言ったら、
ずっと守ってくれるのかな。
また、さっきみたいに抱き寄せて、
大丈夫だよって背中をトントンして欲しい。
嘘ついて怖がってツバサくんを縛れるなら。
でも、違う。
私、望んでない。
ツバサくんに守ってもらいたい訳じゃない。
私がツバサくんを守りたかった。
ツバサくんを笑顔にしたかった。
嘘で縛り付けて私の側にいてもらっても、
私の望みは叶わない。
「香澄ちゃんは?何て言ってるの」
自分で聞いて、すぐに後悔する。
でもそれでも。
ツバサくんはちょっとツラそうに笑った。
「もう、ダメかもしれない。
でもそれはなぁなとは関係ない。
この前なぁなに色々言われて考えたんだけど、
男女でも友情は俺はあると信じてる。
俺は男でも女でも友達は大切だし、
俺より弱い奴なら守りたい。
彼女ができたからって友達と距離を置くのはおかしいよ。
もしそれで香澄ちゃんが離れて行っても、
それは仕方ないんだと思うしかない」
ツバサくんって。本当にバカなんだな。
そんなの、通るわけがない!
だって友達じゃないんだから!
香澄ちゃんも感じてる、私の想い。
知らないのはツバサくんだけ。
でも、それがツバサくんだ。
私は色んな手を使って、
ツバサくんを縛りつけられるんだよ。
友達って言葉で。
ツバサくんは自分に厳しいから私を、
見捨てないと思う。
でもそれは友達なんかじゃない。
私は大きく息を吸い込んだ。
そしてツバサくんに向き合う。
「ツバサくん、私ね、中学の時からずっと、
ツバサくんの事、好きだったんだよ。」
驚いて私を見るツバサくん。
「気がつかなかった?そりゃそうだよね。
ツバサくんにはバレないように必死だったもん。
初めは弟のようでかわいくて、苦手なパンケーキも、
観覧車も怖い映画も好きだって、
嘘ついても一緒に行ってあげたかった。
好きになってからは苦手なのがバレるのが怖かったしね。
でもね、それはすごく楽しかった。
いつか、ツバサくんが私を女の子として見てくれるんじゃないかって。
いつか好きになってくれるんじゃないかって思って」
涙が出てきた。泣くはずじゃないのに。
「ごめん、なぁな、俺」
うん、大丈夫。
「分かってる。
ツバサくんはそんなつもり全然なかったよね。
だから、男女の友情はないって事。
私には目的があった。ツバサくんが好きだって。
香澄ちゃんの言う事は正しいよ。
男はね、
何を置いても好きな女は守らないと!
好きな女の言う事は信じないといけないの!
私の前でみっともない姿見せてるみたいに、
香澄ちゃんの前でもやっちゃいなよ!
好きなんでしょ。
野球バカなツバサくんが夢中になったんだもん、
もっと大事にしてよ、あきらめないで。
人を好きになるなんてめったにないんだよ、
友達作るより大変なんだよ、
分かったら早く香澄ちゃんとこ行って!」
黙って聞いていたツバサくんの目に
涙が光った。
「ごめん、なぁな、俺、本当、バカだな」
「うん、バカ」
それだけ言ってベットに潜り込んだ。
しばらくしてベットから出るとツバサくんは帰ったあとだった。
これでいい。
好きだって言えたんだし、これでいい。
サイテーな私とバイバイできる。
やっと、失恋できた。
罪悪感から今度こそ、解放された
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