最初のものがたり

ナッツん

文字の大きさ
上 下
46 / 64

夏休みの学校

しおりを挟む
朝から筋肉痛で節々が痛む。

ストレッチとかしないとな。

あとやっぱり体が重い。

もう少し絞らないと理想的な踊りはできない。

ブランクを埋める為にも、夏休みは集中して基礎トレーニングや、ストレッチをしようと思ったら、ものすごく楽しくてワクワクした。

今日はチカとランチ。

ダンスの事、話そう。

久しぶりに制服に袖を通して学校へ向かった。

夏休みの学校は運動部の熱気と夏の暑さで
気温が更に上がって感じる。

テニスコートに行くと
チカの迫力あるサーブが入った所だった。

チカ、すごい。

中学の時もテニス部だったけど、
硬式になり迫力も速さも全然違う。

真剣にボールを追いかけ、左右前後に動く。

息も切らさず常に走ってるその体力は圧巻だ。

「チカー!がんばれ」

私の声に視線で応えてまた集中する

練習試合が終わりチカが走ってきた。

「ナナミ!あと、少しで終わるからさ。
ちょっと待っててね。体育館にでも行ってくれば?」

すぐに勇磨の事を言ってると気がついた。

確かに!

もう勇磨と2週間くらい会ってないや。

ずっと、会って話したいなぁって思ってた。

なんでかな、急に緊張してきた。

ドキドキしながら体育館に向かった。

女子の歓声でそこに勇磨がいるのが分かる。

この猛暑の体育館にいるファンクラブ、ご苦労様だわ。

ファンクラブに見つかると面倒なので、陰からそっとのぞく。

真剣な眼差しでゴールを見据えてドリブルする勇磨。

見つけた途端にまたドキドキする。

あと少しでゴールという所で、
先輩にボールを取られ悔しそうに膝をつく。

たった2週間なのに、
ちょっとたくましくなったように見える。

汗で前髪が立ち上がりおでこを見せる姿も、
ちょっといつもと違ってドキっとした。

勇磨って、やっぱり、かっこいいんだな。

そりゃファンクラブがいるはずだ。

私も頑張らないと。

勇磨みたいに目標に向かって全力で。

私の今の目標はダンスでみんなに追いつく事。

しなやかな動きができるように基礎をつくる事だ。

なんかチカと勇磨の頑張りに背中を押された。

よし、頑張るか。

そう心に決めて体育館を後にした。

着替えたチカと、駅前のパスタ屋さんでランチをした。

チカは中井くんの話を夢中でする。

同じテニス部だからいつも一緒にいて羨ましい。

「ナナミは工藤くんとどうなってんの?」

そう聞かれたけど、どうもなってない。

「別に何も。チカが言うような事は何もないよ」

私をじーっと見つめ

「そうかな。ナナミは工藤くんの事、
好きなんだと思ってたけど」

え、勇磨を?

「じゃあ工藤くんに彼女ができても何とも思わない?」

それは、考えもしなかった。

勇磨に彼女?

それはちょっと嫌かも。

ううん、すごく嫌だ。

でも勇磨といるとペースを乱されて、
どんどん流され情緒不安定になる。

ドキドキが止まらない。

こんな感情、今まで感じた事なかった。

一緒にいたいのに怖い。

会えないと寂しいのにホッとする。

好きっていうのとは違うような。

それに、私のタイプとは違うし。

「ナナミのタイプってどんなの?」

うんと、可愛くて守ってあげたくなる感じで、

でも正義感強くて真面目でふざけたりもしなくて、

信念あって。安心できる人。

「それってツバサだよね。」

そう言われて反論できない。

「でも、本当にそれって恋愛なの?」

改めてそう言われるとよく分からない。

でも、ハラハラドキドキは怖い。

「でもまぁ私も中井くんは全くタイプじゃなかったしね。
でも気がついたら中井くん以外考えられないというかー」

結局、のろけか。

私もいつか恋、したいな。

だけど今は恋よりもダンスだ。

チカにダンスの事を話した。

アヤノやトモ、タツキ、ミッキーの事も。

タツキとミッキーの事はチカも知ってた。

「なんか派手な人達だよね。ダンスか、うん、そんな感じ。
怖そうだって思ってたけど、
ナナミの知り合いならいい人なんだね。」

確かに、タツキとミッキーは髪も金髪に近いし、ピアスもしててちょっと派手。

私も初めは溜まってる彼らを見て、
不良集団かと思ったくらいだし。

「トモってさー。3組の友永くんの事かな。
ちょっとイケメンでさ。
チャラチャラしてるんだけどモテるんだよ。」

え?トモって姓なのか。名前かと思ってた。

そしてチカと同じクラスなんだ。

「そっか、友永くんね、新キャラ出現か。」

1人でニタニタするチカ。

でもチカはダンスする私を知らないから、
ちょっと意外だったらしい。

「ナナミさ、運動神経ないのに大丈夫なの?ケガしないでよ」

うん、まぁそうだよね。

でもこの夏で私、変わるよ!

今、すっごく充実してるんだよ!

そのうち、見に来てよ、と伝えてチカと別れた。

その帰り道、公園の前で勇磨に会った。

「ナナ、遅かったな」

久しぶりに聞く勇磨の声に体が熱くなる。

急いで勇磨に駆け寄った。

「どうしたの、勇磨。待ってた?」

部活のユニフォーム姿で、タオルを首にかけてる勇磨。

「そっちこそ、どうしたんだよ。
今日、学校に来てたんだろ。
誰かが言ってた。体育館に来てたって。俺に会いに来たの?」

そう直球で言われると照れる。

さっきのチカとの話もあるから余計に意識してしまう。

「いや、あの、たまたまチカとランチする約束してて」

勇磨はちょっとむくれる。

「なーんだ。嬉しかったのに」

その言葉にまたドキドキが止まらなくなる。

どうしたんだろう、私。

また怖くなってくる。

「でもなんで体育館にいたの?
やっぱり俺を見に来たんでしょ」

上目遣いに私を覗きこむ勇磨。

思わず後ずさりして目線を逸らした。

「うん、まぁ。元気かなと思って。」

白状した。
勇磨はとびきりの笑顔で喜ぶ。

「ナナ、会いたかった。
だけど、俺、来週の大会のメンバーになりたくて自分を戒めてたからさ、我慢してたんだけど。
ナナの名前、聞いたらダメだった。
会いたくて来ちゃったよ。」

そう言って私に近づいて髪に触れ、ヘアピンを触る。

「まだ、付けてるんだ、これ」

勇磨。

ダメ、心臓が爆発する。

「俺、頑張るからさ、だから、パワーをもらってもいい?」

そう言って頬を傾けて私にキスをしようとした。

ギリギリで我に返り避け、下を向いた。

勇磨はちょっと間をおいて、
そのまま私のおでこにキスをした。

おでこが熱くなる。

胸が熱くなる。

勇磨といると心臓がドキドキして落ち着かない。

「ナナ、俺さ」

そう言って私の肩に手を置く。

落ち着かなくて怖い。

ドキドキが止まらない。

私が私じゃなくなる。

余裕がなくて怖い。

どうしちゃったんだろう、私。

前はこんな風にならなかった。

「俺、毎日、ナナに会いたくてなって、
たまらなくなって。ツライ。」

最後は甘えるような目つきになる。

思わず勇磨を抱きしめたくなって、
そんな自分に驚いてグッと堪えた。

「ナナは?ナナは俺に会いたいって思った?」

そう聞かれ、またドキドキが押し寄せる。

「そ、う、だね。
チカも勇磨も忙しいそうで。
元気かなって話したいな、
とは思ってた。」

ちょっと不満そうな勇磨。

「今井チカとセットか。それじゃあ
友達に会えない寂しさって感じじゃん。
俺のとは違う。」

ちょっと笑った。
勇磨、スネキャラになったんだ。

「笑うな」

いや、笑うとこだよね。

「でも今井チカとは会ってるんだろ。
来週の花火大会も一緒に行くって言ってたじゃん。」

その言葉で思い出した!

あーそうだ、チカにドタキャンされたんだ。

花火大会は彼と行きたいって!

まぁ、いいけどね、私もダンスで忙しいし、
でもチカめ!

私のムクレ顔に気がつく。

「なんだよ、その顔は。
花火、浴衣着ていくの?
ミアンもリノもすげぇ気合い入ってるよ。
アイツらに狙われた男が気の毒だ」

そんな、言い方。

でも、ミアンちゃんとリノさん、
2人揃ったら後光がハンパないな。

「ミアンちゃんから写メ来たよ。
ピンクの浴衣、すごく似合ってた。
あとリノさんもね、会えたらいいねって。」

またスネて感じ悪い勇磨。

「なんで、アイツらと連絡してんだよ。
俺にはしないのに」

ブツブツ文句を言う。

ちょっとおもしろい。

子どもみたい。

「勇磨も行けばいいじゃん。
花火、見てきなよぉ」

その言葉に余計にふくれる。

「俺は練習あるし」

だよね。

なら諦めて集中しなさい。

「ひでぇーな。自分だけ楽しんで来るのか。
ナナ、浴衣禁止。あと髪とか服とかボロボロで行け。」

は?

「何それ。私だって、
ミアンちゃん達みたいにかわいくしたいし。」

ボロボロって。

「元が違うんだから無理だろ。
ナナはナナの力量で、背伸びすんなって」

勇磨、私を怒らせたいの?

思いっきり睨んでやった。

「元が違うのは認めるけど、
浴衣だって似合うって言われたんだから。
かわいいって言われたんだからね!」

今度は勇磨が私を睨む。

「誰に言われたんだよ」

あ、それは。

言ってもいいのかな、また怒るんじゃ。

「ツバサに?」

先に勇磨に言われ困った。

しかも。

「かわいい」、は盛った。

困って困って勇磨を見てうなずいた。
私の頭を軽く叩くように触れ、
そのまま手を置いて髪をぐちゃっと掴む。

「ばーか。それ、お世辞だ」

違うよ、ツバサくんはお世辞なんて言わないもん。

だから、すごく。

「すごく、何?」

勇磨の目が悲しそうだ。

私ってバカだな。

ツバサくんの話、勇磨が気にするの分かってたのに。

「何?」

すごく嬉しくて、すごく心に残って、
すごくすごく、好きになったんだよ。

だけど、そんな事は言えない。

「すごく、驚いた」

ナイス、私。

いいの、思いついた。

自分ではかなり満足だったけど、
勇磨は微妙な顔をした。

「嘘ついたバツ」

そう言って私に近付き、ぎゅっと抱きしめた。

「ちょっと、勇磨!離してよ。嘘なんて」

でも勇磨は離してくれないどころか、強く力を込めた。

顔を私の髪に埋めるから、
首元に勇磨の呼吸を感じる。

「ごめんね、ナナちゃん。
ヤキモチ妬いちゃっただけだから、
許してね。
ナナがツバサにかわいいって
言わせる浴衣姿で祭りに行くの、
嫌だなって。
他の男がナナに声かけたら、
とか考えるの情けないよな」

勇磨。

その心配はないよ。

私、モテないって、何度も言ってるのに。

それに。

「勇磨、私、チカに断られたんだ。
チカ、中井くんと2人で行くって。
だから、私は行かないと思うよ。
今更、誰か誘うの、面倒だし」

その言葉にちょっと体を離して私を見た。

「今井チカに振られたの?だっせ」

うるさい。

「ミアンが言ってたな。
女の友情なんて、
男の前ではガタガタに崩れるって。
そうか、そうか、振られたか」

なんだよ、超、楽しそうじゃん。

ムカツク!

勇磨の腕から逃れ体を離すと、
また引き寄せられた。

「ごめん、うそうそ。安心したの。
そっか。花火大会、行けないのか。
可哀想だな。じゃあ、俺と行く?」

抱きしめられたまま勇磨を見上げたから、至近距離に驚く。

「勇磨は大会に集中して」

また甘えモード

「えーナナと花火見たい。」

お子さまか!

「勇くんは、いい子で、
部活ね。頑張りなさい」

勇磨はスネた顔したけど、
すぐにニヤッと笑う。

「分かった、ママ、いい子でいるね。」

そのまま私にちゅっと軽くキスをした。

また、キスした!

驚いて渾身の力を入れ勇磨を突き放した。

「痛ってぇな。何すんだよ」

何すんだよ。は、こっちのセリフ。

「ママにちゅって、するだろ。
子どもはさ。いい子にしてるご褒美に」

え、するの?

しないよね?

あれ、するのか。

どうだっけ?

そんな事で悩む私の姿に勇磨が爆笑する。

「キスされた事はいいんだな。
俺、ちょっと期待しちゃうよ。
してもいいなら、もう1回したいんだけど」

そう言って近づく勇磨を両手で拒否した。

ゲラゲラ笑う。

「やっぱダメか。でもさ、今日、来て良かった。
ムカツク事もあったけど、収穫あったしね。
俺、もう、行くね。ナナちゃん、浮気しないでね。」

そう言って笑いながらかけて行った。

後に残された私は変なドキドキに襲われ不安になる。

勇磨といると落ち着かない。

ドキドキして怖くなる。

自分がよく分からなくなる。

ペースが崩されて焦る。

だけど会えると嬉しい。

キスされたのに、嫌じゃなかった。

どうかしてるな、私。

こんなに怖くて焦るの初めてだ。

夏休みで良かった。

私、どうしちゃったのかな。

勇磨は友達なのに。

なんでこんな風に思うんだろう。
しおりを挟む

処理中です...