最初のものがたり

ナッツん

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勇磨が頭から離れない。

ドキドキして不安でいっぱいになる。

忘れたい。

心から追い出したい。

でも頭から離れない。

その一心で早朝からランニングをした。
無になって走った。

ダンスをまた始めると言ったらママは大喜びしてくれた。

張り切って勝手にダンスの練習着や、
シューズなど買い揃えてきた。

ママは昔から私のダンスを応援してくれてたけれど、ダンスそのものが好きなんだと思う。

いつもは絶対に着ないストリート系の派手なジャージや、Tシャツまで用意されてた。

カタチから入るか。

思いっきり派手な服で新しい自分になる。

1時間走ってからストレッチと柔軟をした。
だいぶ体が硬くなったし、体力もない。

早く何曲も踊る体力をつけないと。

私の新たな目標は、
メンバーについて行けるようになる事。

そしていつかセンターで踊りたい。

その目標を胸に、
毎朝のランニングと基礎練習してから、
いつものモールでダンスをした。

「ちび、ものすごく体が動くようになったな」

タツキに褒められた。
タツキは私を小学生の頃のまま、
子ども扱いでいつも練習帰りにジュースやお菓子をくれる。

体重落としてるって言ってるのに。

ミッキーはそんな私達を見て

「あんたら兄弟みたいだな。」

と爆笑してる。
アヤノは私のストレッチを手伝ってくれる。
トモは1番ダンスに熱い。

「ちび、ダンスの技術と才能は天才的だけど、表現力がイマイチなんだよな。」

「お前のダンスは響かない」

と、毎回、ダメ出しがキツイ。

でもダンスを本当に愛してる。

だから良いものを作りたいって。

その想いが分かるから私も熱くなりトモを信頼した。

表現力には映画がいいとか、キレイな物を見ろとか、コンサートや音楽をジャンル問わず聞けとか、アドバイスをくれた。

それに、練習の後、それらを見に付き合ってくれた。

みんなの協力で私は少しずつ、
思った通りに体を動かせるようになっていった。

しなやかさも表現力も初めの頃とは
雲泥の差だと、みんな褒めてくれた。

ダンスが楽しい。

今、私、ものすごく生きてるって充実してる。

もっと、もっと上手くなりたい。

夏休みも後半になったが、私の生活は相変わらず、早朝ランニングから始まりダンスで終わった。

ふと、勇磨の事がよぎった。

新たな目標に夢中になり忘れてた。

あんなに忘れたかった勇磨。

本当に忘れられたんだ。

でもいつも心のどこかに引っかかってたような気がする。

思い出した途端、頭が勇磨でいっぱいになる。

勇磨にダンスの事、新しい目標の事を伝えたい。

会いたい!

会って早く私の夢中になってる事、教えたい。

そうこうしてるうちに夏休みの登校日がやってきた。

久しぶりの教室。
久しぶりのクラスメート。
みんな日焼けしてなんだか華やいでる。

「よぉ、ナナ」

そう声をかけられドキッとした。

勇磨だ。

「雰囲気変わったな。痩せた?
それになんか日焼けしてね?」

そう言って私を観察する。

なんだろう。異様にドキドキする。

それに嬉しい。

勇磨こそ、なんかたくましくなってる。

「勇磨、大会はどうだったの?」

満面の笑みとガッツポーズで答える。

「優勝!」

やったじゃーん!と
勇磨をペシペシ叩いて褒めちぎって
いつもの私に戻った。

ユーマーズが騒いでる。

あーこの感じ懐かしい!

「あのさ、俺、ナナに聞きたいことがあってさ」

そう勇磨が切り出す。

何?

ちょっと言いにくそうな勇磨。

「いや、あのさ、先輩がナナを見たっていうんだけど。
でも人違いだと思うんだよな。」

なんか歯切れが悪い。

「何?どこで見たの?」

「夜さ、南区の繁華街で、
派手な男達とナナが一緒にいたって。
あのさ、3組の友永ってあいつとか
金髪の3年とかもいたって」

あ、それ私だ。

でもそう言う前に勇磨が続ける。

「ナナがそんな男とつるんで遊んでるわけないって、信じてるけどさ。
ごめん、変な事聞いた」

いや、それ、私だから。

繁華街で男とつるむって言葉にすると強烈だけど、ダンスの帰りに送ってもらっただけだし。

南区のトモの家は剣道の道場やってるから、
最近はそこで集まって踊ってる。

それに格好は派手だけど、中身は紳士だし。

そんな男呼ばわりしないでほしい。

でも、そう説明する前に勇磨は、
バスケ部の友達に呼ばれて行っちゃった。

ちゃんと説明しないと。

勇磨に誤解されるのも嫌だし、
仲間を悪く言われるのもキツイ。

全校集会が終わりHRも終わり、
また残りの夏休みが始まる。

久しぶりの学校に懐かしさを感じながら、
また休みへの期待も膨らんで各々解散していく。

私もまた練習だ。

でもその前に勇磨に話さないと。

声をかける前に、先に勇磨に呼び止められた。

「ナナ、俺、大会終わってもまだ試合が沢山あってさ。
この後、合宿もあるんだ。また会えなくなる。
だから今日はもう少し一緒にいたい。ダメ?」

真面目な顔をして聞く勇磨。

私のヘアピンに触れる。

また心臓が痛くなる程ドキドキする。

これから練習なんだよ、私。

「私、今日はダメなんだ。でも少しなら。
私も勇磨に話したい事があって。」

途端に期待した眼差しで私を見る

「何?大事な話?早く言って」

あれ、どうしよう。勘違いしてる。

告白の返事だと思ってるよね、きっと。

しかも期待してる。

どうしょう。

困る私に今度は勇磨の表情が曇った。

「あ、俺、はしゃぎ過ぎたな。ごめん。話って何?」

逆に落ちてる勇磨に何も言えなくなった。

違うよ。

さっきの繁華街の話だよ。

だけど

「ナナ、俺の事、嫌い?」

そう切り出された。

「嫌いじゃない」

そういう私に更に続ける。

「まだツバサが好きなの?」

それも違う。

でもだからって勇磨が好きかと聞かれたら、
まだよく分からないし、勇磨といるとドキドキして落ち着かなくて怖い。

情緒不安定になる。

それは好きとは違うんだと思う。

ツバサくんの事はもう考えてないとそれだけ伝えた。

「俺は真剣にナナが好きなんだ」

真っ直ぐに向けられる目。

ドキドキが止まらない。

また逃げたくなる。

どーしょう、勇磨が怖い。

その時、教室のドアが音を立てて開いた。

「ナナちゃーん!今日は、プラネタリウムデートだぞー、あ、あれ?」

振り返るとトモがいた。

私と勇磨を交互に見る。

「お取り込み中だった?ごめん。終わるまで待ってるね」

そう言って私のカバンを持った。

ちょ、ちょっと、この状況、まずいのでは?

プラネタリウムデートって。

もっと言い方あるでしょ。

私の表現の勉強なんだし。

私、まだ繁華街疑惑についても話してない。

勇磨はチラッと私を見てトモを睨む。

「お前、ナナになんの用?」

明らかに敵意むき出しでトモに突っかかる。

トモは鼻で笑って応戦する。

「あー、えっと君は、そうそう、アイドルくんだ。
言葉通りだよ。デートの誘い」

トモ!やめて。

勇磨の怒りのボルテージが上がる。

「てめぇケンカ売ってんの。ナナは俺と話してるんだ。
お前は引っ込んでろ」

今にも飛びかかりそうな勇磨

トモはため息をついて引き下がった。

「アイドルくん、子どもだな。まぁ、いいけど。
ちび、校門で待ってるね。早く来いよ。あと、男は選べよ」

バカ!

勇磨を煽らないで。

トモが立ち去った後、しばらく沈黙が流れた。

最悪だ。

「どういう事?」

勇磨の声が怒ってる。

下を向いて目線を外した。

「アイツ、友永だよね?先輩が見たのはやっぱりナナなの?」

「デートって言ってたよね。俺を見ろ!ちゃんと説明しろ」

上目遣いで睨みをきかせる勇磨。

指先が冷えて震えた。

でも悪い事なんてしてない。

ちゃんと説明しようとした。

「今、言おうと思ったよ。話があるって言ったじゃん。
でも勇磨が勝手に勘違いするから、言えなくなったの。」

勇磨の迫力は増す一方だ。

「俺が悪いって言うの?」

違うよ、怒らないでよ、話せない。

「そんな事言ってないじゃん。誤解なんだよ。
派手だけど、みんな悪い人じゃないし、
トモだって優しいし大事な私の仲間なんだよ」

怒らないでよ。

信じて欲しいのに。

応援して欲しいのに。

やっと、好きな事見つけたのに。

勇磨は話を聞いてくれない。

「トモってなんだよ。
ナナ、俺が部活で必死に頑張ってる間に男遊びかよ。
ナナがそんな女だなんて思わなかった。
もう、いいよ。見損なった。」

その一言で私もキレた。

は?なんでそんな事言われないといけないの。

なんでなの?

気付いたら勇磨に怒鳴りちらしてた。

「俺が部活で頑張ってる間に男遊びって、
俺が働いる間に不倫したみたいな言い方しないでよね。
例えそうであっても勇磨に責められる筋合いないんですけど。
何が私を信じるだよ、私を好き?笑わせないで。
私の話を1つも聞かずに勝手に誤解して、
私の大切な人をもバカにして。
私は間違った事も人に恥じる事もしてない。」

勇磨がひるんだのが分かった。

でももう私の怒りは止められなかった。
勇磨も引けないんだと思う。

「でもアイツのところに行くんだろ。俺の誘いは断るのに。
プラネタリウムデートってナナ、アイツが好きなの?」

最後は悲痛な叫びに近かった。

「なんでも好きか嫌いかで決めないで。」

それだけ行って教室を飛び出した。

勇磨なんて大っ嫌い。

嘘つき。

私を信じるって言ったのに。

どんな私も嫌いにならないって。

やっぱりチカの言う事は間違ってたよ。

勇磨に恋はしてない。

こんなに辛くて心がかき乱されるのは恋じゃない。

むしろ大嫌い。

でも、私にはダンスがある。

そのまま走ってトモの所に行った。

トモはわたしの頭をそっと撫でて慰めてくれた。

「辛い事も嫌な事も全ての経験が表現につながる。
そう思え。さ、デートしよ」

全てが表現につながる、か。

トモらしいや。

だけど、デートって言いかたね。

「だってデートだろ。
ちょっとはときめいてもらわないと愛の曲は踊れない」

そうなのかな。

でも実際に愛の表現は苦手だ。

未知の世界。

だから、
私は私の目標の為に前進しないと。

勇磨だっていつかは分かってくれるかもしれない。

チクッとする。

私、やっぱり勇磨に分かってもらいたいんだ。
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