最初のものがたり

特別編 プロローグ（勇磨sideーアオハル）7

ミアンは俺の妹だ。

アイツは俺に女が絡むと彼女のふりをして女達を牽制する。

別にブラコンな訳じゃない。

俺の機嫌が悪いと面倒なのと、単に楽しんでいるだけだ。

だから今日もおれの腕に絡み、甘えた声を出した。

「勇くん、この子だあれ？」

演技とはいえ、妹と絡むのは抵抗はある。
だけど、木下の様子を見たかった。

木下は黙って俺とミアンを見ていた。
その表情からは何も受け取れず、しばらくしてミアンがしかけた。

俺の事が好きなんだろうと煽ったんだ。

その質問に明らかに動揺した。
ミアンに対して、怖気付くような、遠慮がちな態度を見せた。

今までの俺に対する態度とは違う。

ミアンの女王的雰囲気と外見に圧倒され、俺への気持ちを隠せなくなっているんだと、そう思った。

絶対的彼女を目の当たりにしたから、今までの作戦も失敗だったと気がついたんだ。

所詮、コイツも他の女と変わらない。

俺の器だけ欲しい女と一緒だ。

バカにしやがって。

余計に腹が立っていた。
相手にしなければいいだけなのに。

「やっぱり俺を狙ってたんだな。
手の込んだ事、してんじゃねぇよ」

苛立ちが止まらない。
なんでだか分からないが無性に腹が立つ。
自分の感情に振り回されているのも納得がいかない。

俺に責め立てられ、泣いて喚くのかと思った次の瞬間、木下の顔つきが変わった。

それまでの俺を諭すような、どこか小馬鹿にし、上からの態度だったのが変わり、感情が抑えられないような必死に湧き上がる感情を抑えるような、そんな顔つきになった。

俺を好きだと言い出すかもしれない、そう身構えた時だ。

「あんたね、
彼女の前だから我慢してたんだけど、
本当、最悪！」

は？あんた？
お前、誰に向かって‥。

「よくあんなかわいい彼女ができたもんだよ。
彼女に言っても良かったの？
大嫌いですって。
中2病の勘違い男で超ウザイって。
コミュケーション能力ゼロのあなたに、やっとできた、貴重な彼女でしょ。
悪口伝えたら悪いって遠慮してやったの。
なんで分からないかなぁ。
そこはありがとうでしょ！
というか、安心したよ。
まぁ私には考えられないけど、工藤くんにも何かいい所が１つでもあるんでしょ。やっとできた彼女、大事にしなね」

は？

理解できずに混乱する俺の横でミアンが爆笑した。

なんなんだ、この女。

だけどこれはもうはっきりいって、１つの可能性しか残ってない。

コイツは俺をただの同級生として扱っている。

さらに俺の事が大嫌いなんだ。

うざくて関わりたくないと思っている。

そんな女に会った事がないから、そんな考えは1ミリも浮かばなかったけど、もう間違いない。

ミアンが言う通り、だっせーな俺。

でも俺にとっては都合がいいんじゃないか。
俺は女が嫌いだ。
木下は俺が嫌いだ。

関わりたくない。

お互いに関わりたくない。

うまくやり過ごす事ができる。

コイツの真意が分かったんだからこれからは上手くやれる。

もう振り回される事はない。
イライラする事もない。

明日からはまた平穏な日々が訪れる。