最初のものがたり

特別編 プロローグ（勇磨sideー現在）2

尊との再会と、アイツがバスケをまた始めたという事実が、俺を動揺させたのは間違いない。

そのせいで尊との事を思い出し、ついでにナナとの事まで振り返るハメになった。

女嫌いな俺が、結局、ナナから目が離せなくなり、友達ではいられなくなっている、ほんと、分からないもんだな。

だけど、だからこそ、尊にきちんと謝りたい。

そんな事を考えながら、校舎からの長い坂道を下っていた。

期末試験が終わり夏休みが近づいている。
もうすっかり真夏だ、暑い。

気温上昇と共に気持ちも上がってくる。

バスケ三昧の日々がやってくる。
大会に向けてレギュラー争いが始まる。

なんとしてもレギュラーになりたい。

その為に汐南高には負けられない。
そうだ、負けられない。

帰り道、公園で練習する事にした。

1分1秒も無駄にはできない。
夢中でゴールに向かってシュートを投げ続けていた。

小学生の頃、尊と練習した、あの日を思い出しながら。

「お、ナイッシュー」

変なイントネーションで声をかけられ、ナナだとすぐに分かった。

「イントネーションが気持ち悪い」

そう言う俺の事は無視して、ベンチに座って両手で顔を仰ぐ。
その仕草に不覚にもかわいいと思ってしまった。

平静を装いながら、俺も横に座った。

1分1秒を無駄にしたくないんじゃなかったのかよ。

「試合、近いんだっけ？」

まだ顔をパタパタしながら俺を見る。
それ、なんか意味あんのかよ。

「うん、汐南と。」

そう答えたけど、ナナのパタパタは止まらない。

へぇーそうなんだ。
がんばれー
と全く興味がないの、バレてんだよ。

ツバサの試合は最前線で見ていたくせに。

「応援しに来いよ、たまには」

首と手を振って拒否をする。

「無理無理無理‥。バスケの試合なんてオーバーツーリズム状態じゃん。無理だよ」
「それに、私が行くと、勇磨のファンクラブとケンカしちゃうよ、いいの？」

なんだよ、それ。

「ナナがアイツらをボコボコにしてんの、見たいけどな。まぁ、いいよ、どうせ興味ないんだろ」

そんなことないよぉと、
横でケラケラと笑う。
うそつけ、俺に興味なんてないだろ。

悔しいけど、今のところ、策がない。

俺の気持ちはとっくに伝えているけど、ナナは相変わらずツバサが好きなんだろう。

それも込みでナナが好きなんだ、だから、仕方ない。

でも

「じゃあさ、頑張れるように、ハグしてよ」

冗談8割、本気2割で言ってみた。
どうせ、殴られる。

でも、目の前でナナが悩んでいる。

うそだろ、これ、いけんのか？

自分でもダサすぎるのは分かっているけど、
心臓バクバクで返事を待った。

俺の動揺が伝わりOKがNOにならないように、ヘラヘラして待った。

ほんと、ヘタレだ。

「うん、まぁ、ハグならいいよ」

ああ、そうか。
ツバサとのハグを想定してるんだな。
挨拶程度のハグ。

今、いいって言ったよな。

ナナが両手を広げて俺を待っている。

ばーか、俺のハグはこうだって言っただろ。

思いっきり抱きしめた。
驚いたナナが身動きできないくらい強く。

髪に顔を埋めるとシャンプーの香りがした。
ああ、ナナの匂いだ。

「離してよ、バカ」
「おーい、離して」
「ねぇ、聞いてるの？」
「勇磨、もういいでしょ」
「いいかげんにしろっ」

最後に足を思い切り踏まれた。

いってぇー
大袈裟に騒いでナナを離した。

本当は痛くも痒くもないけど、これ以上はダメだと思ったからいいタイミングだ。

「暴力女」

そう言って2人で笑っていた時だ。

背後から声をかけられた。