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eスポーツ部誕生

49 勧誘作戦2

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 真理亜の自室は、ぬいぐるみといったファンシーなものとは無縁な、およそ女子高生の部屋とは思えないサッパリとしたインテリアだった。
 部屋着に着替えているが、おしゃれには程遠い服装だ。基本的に上はTシャツかトレーナーで、下は制服以外ではスカートははかずジーンズばかりある。その美貌と抜群のプロポーションを生かせば、どんなファッションでも似合うはずだが、彼女は自らの容姿を嫌悪していた。そのため、化粧は一切せず、ファッションに無頓着と言うよりむしろ、あえてダサい恰好を好んだ。唯一の女性らしさと言えばセミロングのヘアスタイルだが、これは本人の好みではなく、母親からせめて髪型だけでも女性らしくしてほしいとお願いされて仕方なくしていたのだった。
 真理亜は自室のノートPCに手を伸ばしたまま、独り言をつぶやいた。

「あーぁ、まんまと光田にのせられちゃったかな。私もまだまだね。
 だいたい、私にはルールが難しいだろうなんて、私を見くびり過ぎよ。自分達が理解できて、私ができないわけないじゃないの。ま、リサーチ自体は嫌いじゃないから良しとするか。
 そう言えば、人狼ゲームのAIを作るときにゲーム用AIの歴史を調べたわね。コンピューターが開発されて間もなくチェスのプログラム開発が始まったんだったわ。当時はコンピューターの性能も低かったし、アルゴリズムのノウハウも少なかったから全然弱かったみたいだけど。90年代後半にIBMが作ったディープ・ブルーが初めてチェスチャンピオンに勝って、その後2000年代に入るとPCですらプロに勝てるまで進化しのよね。
 チェスに比べると将棋のAIはより複雑ね。盤のマス目が9×9でチェスより大きいし、何といっても取った駒の再利用ができることにより、アルゴリズムが格段に複雑になっている。それでも2010年代に入るとプロでもほとんど勝てないまでに進化している。
 意外なのが囲碁のAI。白黒のたった2種類しかないし、置いた後に石を動かすこともないからチェスや将棋より簡単に人間に勝てると思ったんだけど、実はこれが一番難しかったのよね。マス目が多いし、石を置ける場所の制約が少ないから、『場合の数』がとんでもなく多い。だからディープラーニングの技術が発展し、2016年にGoogleが作ったAlphaGoが開発されるまで囲碁チャンピオンを倒せなかった。AlphaGoの記事を読んだのが私がAIについて興味を持つきっかけになったんだった。
 ディープラーニングはプログラムでひたすらゲームを繰り返しやらせて、最適な手を学習させデータとする手法。もし仮にゲームの神様がいて、すべてのゲームの手を知っていたとすると、運要素がないゲームの場合、1手目で勝負がつくって事ね。
 とりあえず、ディープラーニングでLoLの最適な武器の組み合わせを調べるにしても、まずはルールについて調べないとね。」

 そう言うと、ノートPCに『LoL ルール』と入力し、検索をかけた。
 しばらく検索結果を読みルールを調べると真理亜は叫んだ。

「何なの、これ! 複雑すぎる。キャラクターだけでも150種類ぐらいあり、各キャラクターそれぞれにスキルが4種類づつあって、武器が100種類以上!
 これ全部データ化しなければならないじゃない。とても簡単にできるようなことじゃない。
 それに、悔しいけどルールもよくわからない。『ルーン』って一体何なのよ。だいたい専門用語が多すぎるわよ」

 真理亜は予想とは違い、あまりに複雑なルールに思わぬ苦戦を強いられていた。

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