恋にあやとり

宮瀬

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「おねがい!遊!」

ぱん、と勢いよく顔の前で手を合わせた双子の弟は僕と全く同じ顔で、けれども僕と違って可愛らしくかれこれ30分は同じ事を繰り返していた。

「いやだよ亜耶、僕にそんなこと出来るわけないじゃないか」
「大丈夫だよ!バレっこないってば!ちょっと俺と遊が入れ替わったくらいで気づくヤツなんていないよ」

そういって亜耶は僕を見上げ片目を閉じてみせた。彼は度々今のように自分を可愛く見せる仕草をする。自分を良く見せる方法を知っている、と言えば聞こえはいいが要はぶりっ子なのだ。
元々の顔は同じはずなのにどうしてこうも違うのか。それは長年考えてきたことだったが、おそらく性格も影響している。亜耶は明るくて社交性がある。対して僕は人見知りで大人しい。それが幼い頃から僕達の周りの大人達の認識だった。
しかし、今回のお願いばかりは聞いてあげられない。彼は僕と亜耶が入れ替わってお互いの学校に行ってみようと言っているのだ。
そもそも、自分の学校でも友人もとい話せる人は片手で数える程度しかいないというのに亜耶の真似をしながらなど、僕には高難易度すぎるのである。

「フィル・ド・ロマンスのケーキ」

突然、亜耶が甘党な僕にとって魔法の言葉を放った。それは僕の大好物で、けれども頻繁に手が出せる値段ではなかった故に、祝いの席でのご馳走となっている代物だった。

「遊が引き受けてくれたら、好きなだけ買ってあげる」
「……」

此度の交渉において、初めて亜耶に軍配が傾いた。代わりに僕の周りには暗雲が立ち込めている。

「遊はただ俺と同じ格好で行ってくれるだけでいいから!無理に喋らなくても、そっちの方がバレなそうだし」

むしろ喋りだした途端にバレそうである、というのは口には出さないでおく。

「そ、そうなの…?」
「そうそう!だから安心して」

すっかり言い含められた遊を前に、亜弥はにっこりと笑みを浮かべた。
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