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翌朝、亜弥に変装した遊は校門の前で1人、必死に昨夜の特訓を思い出していた。見事交渉に打ち勝った亜弥は、目を爛々と輝かせ普段の数倍饒舌に“亜弥の仕草”を一晩の内に遊の頭に叩き込んだのだ。お陰で遊はすっかり寝不足だが、このツケは報酬を倍にして返してもらう事にする。
1つ、我儘そうに振る舞うこと。
2つ、分からないことを聞かれたら無視をすること
3つ、なるべく谷口の側にいること。
他にも細かな点はいくつか言われたが、大まかにまとめればこの3つであった。後は仕草や口調といった点だが、これは伊達に17年間兄弟であった訳ではない。昔はよくお互いに口調などを似せあって小さな悪戯をしたものであるし、これに関しては少しだけ自信があった。
しかしこの3つの要点については如何なものか。これだけ見ればただの嫌な奴である。ここにあざとさも加わったのであれば余計に悪化しそうな気もするが、これを抗議したところあっさり認められてしまった。
亜弥曰く「まあ女王様みたいな感じでやってくれたら間違いないから」と開き直って一蹴していた。
そして空も白ばんで来た頃、亜弥は最後にこう締め括った。
「いい?遊は基本的に喋らなくていいからね!あとは谷口に任せておけば大丈夫だから、もし疑われても見た目では絶対分からないし」
谷口とは亜弥の友人で今回の話の協力者であるらしい。口調からして、その谷口君とやらは普段から亜弥に振り回されているようで、まだ会ったこともない人物に軽く同情する。
「この際、谷口君に全て任せてしまっても良いかもしれないな。そもそも僕は極力話すなって言われてるし。」
そもそも、入れ替わって別人に成りすますなど無理難題であるのだから、失敗しても怒られないはずである。
「椎木」
そう結論付け、教室に入ろうとした時である。耳通りのいい声、もとい〝めちゃめちゃ好みの声〟が僕を呼び止めた。ちなみにであるが、僕は生粋の声フェチである。
こんなに好みの声に話しかけられるなんて中々ない。咄嗟に口元が緩みそうになるのを手で押さえる。ここでは僕は亜弥でいなければならないし、亜弥は名前を呼ばれたくらいで笑みを浮かべるような愛想のいい奴ではない。
「何?僕に何か…」
なるべく生意気そうに、振り向き様に返事を返そうと努めたが、最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。振り向いた先にいたのは、僕よりも明らかに背が高く、目鼻立ちの整った男だった。艶のある整えられた黒髪に銀縁眼鏡をかけた彼は真面目そうな雰囲気があるものの、冷ややかな目元と相まって何処か色気さえも感じられた。なかなか見ないほどの顔面偏差値の高さに思わず口を噤んでしまう。
「いい加減、君の部屋をなんとかしてくれないと困るんだけれど」
「へや・・・?」
初対面の相手からの突然の苦情に、思わず聞き返してしまう。目の前の彼は整った顔を面倒臭そうに歪めるとこちらを一瞥した。まるで軽蔑するような視線の冷たさに思わず体が硬直する。
「いい加減にしてくれないかな。きみと同じ部屋に帰らないといけない僕の気持ちも考えてくれ。」
同じ部屋。脳内でそれを3回ほど反芻した後、やっとのことで僕は重大な問題に気付いた。
もしかして、亜弥って僕と同じ寮生活じゃなかったか?
1つ、我儘そうに振る舞うこと。
2つ、分からないことを聞かれたら無視をすること
3つ、なるべく谷口の側にいること。
他にも細かな点はいくつか言われたが、大まかにまとめればこの3つであった。後は仕草や口調といった点だが、これは伊達に17年間兄弟であった訳ではない。昔はよくお互いに口調などを似せあって小さな悪戯をしたものであるし、これに関しては少しだけ自信があった。
しかしこの3つの要点については如何なものか。これだけ見ればただの嫌な奴である。ここにあざとさも加わったのであれば余計に悪化しそうな気もするが、これを抗議したところあっさり認められてしまった。
亜弥曰く「まあ女王様みたいな感じでやってくれたら間違いないから」と開き直って一蹴していた。
そして空も白ばんで来た頃、亜弥は最後にこう締め括った。
「いい?遊は基本的に喋らなくていいからね!あとは谷口に任せておけば大丈夫だから、もし疑われても見た目では絶対分からないし」
谷口とは亜弥の友人で今回の話の協力者であるらしい。口調からして、その谷口君とやらは普段から亜弥に振り回されているようで、まだ会ったこともない人物に軽く同情する。
「この際、谷口君に全て任せてしまっても良いかもしれないな。そもそも僕は極力話すなって言われてるし。」
そもそも、入れ替わって別人に成りすますなど無理難題であるのだから、失敗しても怒られないはずである。
「椎木」
そう結論付け、教室に入ろうとした時である。耳通りのいい声、もとい〝めちゃめちゃ好みの声〟が僕を呼び止めた。ちなみにであるが、僕は生粋の声フェチである。
こんなに好みの声に話しかけられるなんて中々ない。咄嗟に口元が緩みそうになるのを手で押さえる。ここでは僕は亜弥でいなければならないし、亜弥は名前を呼ばれたくらいで笑みを浮かべるような愛想のいい奴ではない。
「何?僕に何か…」
なるべく生意気そうに、振り向き様に返事を返そうと努めたが、最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。振り向いた先にいたのは、僕よりも明らかに背が高く、目鼻立ちの整った男だった。艶のある整えられた黒髪に銀縁眼鏡をかけた彼は真面目そうな雰囲気があるものの、冷ややかな目元と相まって何処か色気さえも感じられた。なかなか見ないほどの顔面偏差値の高さに思わず口を噤んでしまう。
「いい加減、君の部屋をなんとかしてくれないと困るんだけれど」
「へや・・・?」
初対面の相手からの突然の苦情に、思わず聞き返してしまう。目の前の彼は整った顔を面倒臭そうに歪めるとこちらを一瞥した。まるで軽蔑するような視線の冷たさに思わず体が硬直する。
「いい加減にしてくれないかな。きみと同じ部屋に帰らないといけない僕の気持ちも考えてくれ。」
同じ部屋。脳内でそれを3回ほど反芻した後、やっとのことで僕は重大な問題に気付いた。
もしかして、亜弥って僕と同じ寮生活じゃなかったか?
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