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「え・・・」
意識が浮上しそっと目を開ける。確かに先ほどまで校舎の廊下に立っていたはずなのに、なぜか私はスウェード調の質の良さそうなソファに横になっていた。
「どこだ、ここ・・・」
辺りを見回すが人の気配はない。どうやらここは何処かの部屋の一室のようだ。日当たりのいい広々とした空間は重厚感のあるインテリアで統一されている。天井はドーム状になっていて、煌びやかなシャンデリアが吊り下がっていた。今は陽の光が部屋全体を暖かく包み込んでいるが、夜になればこのシャンデリアが活躍するのだろう。しかし、起き上がって辺りを観察してみても、此処がいったいどこなのか検討もつかない。貴族が住んでいるような内装に、とてもじゃないが不釣り合いな高校の制服をきた私が浮き彫りになっている。せめてあの場にいた春野君やその友人達の誰かがこの場にいたら良かったのに。きっとこの場を仕切って明るく振る舞ってくれるに違いない。
「あれ、なんだこれ」
ふと、ソファの前のテーブルに何かが揃えて置かれているのを見つけた。それは高級そうな木箱と一冊の本だった。木箱にはご丁寧に“小梨深琴様”と私の名前が金の文字で彫られている。箱を開けるとまず羊皮紙が目に止まった。私宛に書かれたそれは差出人が書かれていなかったが、どうやら今の状況を説明しているもののようだ。
要するに、私は異世界に落ちてきてしまったらしい。そしてそれはあの場にいた加賀屋君たちも同様で、本当なら全員が同じ場所に転移するはずだったが、座標が狂ってバラバラになってしまったということだった。走り書きのように書かれた手紙というには些かお粗末なそれは、謝罪の言葉と共に当面の生活の保障をするという旨が記されていた。
「異世界転移って本当にあるんだ・・・」
現実は小説より奇なりとはまさにこのことである。そして、呑気にこんなことを考えている私は間違いなくお気楽であった。しかし、今ほど自分のマイペースさに感謝したことはない。きっとネガティブな性格だったらこの訳の分からない状況には耐えられないだろう。
木箱の中には他に黒地のシンプルなローブと金貨3枚、何処かの鍵が入っていた。ローブはいかにも魔法使いが着ていそうな丈の長いフード付きのもので、羽織るだけでも全身がすっぽりと包まれるほど大きい。金貨はおそらくこの世界の通貨であるものの、如何せん物価が分からないのでどの程度の価値があるものなのかが分からなかった。
「何処の鍵だろう?」
銀色のそれは所々にきめ細やかな石が埋め込まれていて、光に反射してキラキラと輝いて見えた。とても高価な物であることが窺える。ふと、木箱の底に手紙が入っていることに気づく。先程のメモ書きとは異なり丁寧に蝋で封がされている。そこにはこう書かれていた。
曰く、私だけが他の転移者よりも辺境の地に飛ばされてしまったこと。
曰く、この鍵は“最果ての塔”と呼ばれるこの建物のものであること。
曰く、一人離れた場所に落ちてしまったことへの詫びとしてこの塔の所有権を譲るということ。
「えっと、つまりめちゃめちゃラッキーなのでは?」
意識が浮上しそっと目を開ける。確かに先ほどまで校舎の廊下に立っていたはずなのに、なぜか私はスウェード調の質の良さそうなソファに横になっていた。
「どこだ、ここ・・・」
辺りを見回すが人の気配はない。どうやらここは何処かの部屋の一室のようだ。日当たりのいい広々とした空間は重厚感のあるインテリアで統一されている。天井はドーム状になっていて、煌びやかなシャンデリアが吊り下がっていた。今は陽の光が部屋全体を暖かく包み込んでいるが、夜になればこのシャンデリアが活躍するのだろう。しかし、起き上がって辺りを観察してみても、此処がいったいどこなのか検討もつかない。貴族が住んでいるような内装に、とてもじゃないが不釣り合いな高校の制服をきた私が浮き彫りになっている。せめてあの場にいた春野君やその友人達の誰かがこの場にいたら良かったのに。きっとこの場を仕切って明るく振る舞ってくれるに違いない。
「あれ、なんだこれ」
ふと、ソファの前のテーブルに何かが揃えて置かれているのを見つけた。それは高級そうな木箱と一冊の本だった。木箱にはご丁寧に“小梨深琴様”と私の名前が金の文字で彫られている。箱を開けるとまず羊皮紙が目に止まった。私宛に書かれたそれは差出人が書かれていなかったが、どうやら今の状況を説明しているもののようだ。
要するに、私は異世界に落ちてきてしまったらしい。そしてそれはあの場にいた加賀屋君たちも同様で、本当なら全員が同じ場所に転移するはずだったが、座標が狂ってバラバラになってしまったということだった。走り書きのように書かれた手紙というには些かお粗末なそれは、謝罪の言葉と共に当面の生活の保障をするという旨が記されていた。
「異世界転移って本当にあるんだ・・・」
現実は小説より奇なりとはまさにこのことである。そして、呑気にこんなことを考えている私は間違いなくお気楽であった。しかし、今ほど自分のマイペースさに感謝したことはない。きっとネガティブな性格だったらこの訳の分からない状況には耐えられないだろう。
木箱の中には他に黒地のシンプルなローブと金貨3枚、何処かの鍵が入っていた。ローブはいかにも魔法使いが着ていそうな丈の長いフード付きのもので、羽織るだけでも全身がすっぽりと包まれるほど大きい。金貨はおそらくこの世界の通貨であるものの、如何せん物価が分からないのでどの程度の価値があるものなのかが分からなかった。
「何処の鍵だろう?」
銀色のそれは所々にきめ細やかな石が埋め込まれていて、光に反射してキラキラと輝いて見えた。とても高価な物であることが窺える。ふと、木箱の底に手紙が入っていることに気づく。先程のメモ書きとは異なり丁寧に蝋で封がされている。そこにはこう書かれていた。
曰く、私だけが他の転移者よりも辺境の地に飛ばされてしまったこと。
曰く、この鍵は“最果ての塔”と呼ばれるこの建物のものであること。
曰く、一人離れた場所に落ちてしまったことへの詫びとしてこの塔の所有権を譲るということ。
「えっと、つまりめちゃめちゃラッキーなのでは?」
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