古塔の魔女は異世界人

４

「は、春野くん・・・？」

夜、風呂から上がり寝る準備も万端な頃、私は街に出るにあたって荷物持ちが必要かもしれないと思い、例の魔石を使って人型使い魔の召喚呪文を試していた。そして、今私の前には春野君がいる。いや、正確には「春野悠里そっくりな使い魔」であるが。問題なのはその再現精度だ。整った顔立ちは勿論、少しウェーブがかった栗色の髪の質感、身長まで正確に再現している。着ている服が明らかに日本のものではない点と、どことなく本物よりも少し大人っぽい雰囲気があるが、本物であると言われても疑わないくらいには“そのまんま”である。まるで私が普段から彼を観察していたかのような出来に思わず戦慄する。しかも何度召喚し直しても「春野君」が現れる。これが片想いの末路ということなのだろうか。彼は髪の色と同じ淡い栗色の瞳を向け、私に微笑みかけてくる。深い青色のローブは銀の繊細な刺繍が施されており品が良く、両耳のピアスは揺れる度に光を反射して様々な色に変化している。明らかにこの世界仕様の春野悠里がそこにはいた。

「だめだ、見れば見るほど春野君で直視ができない・・・」

しかし、魔石の効果もそう長くは続かないはずなので、きっと3日もすれば魔法は解けて消えてしまうだろう。惜しい気もするが、ここは超えてはいけない一線だと己を律する。このままでは変態まっしぐらである。

「あくまで荷物持ちとして喚んだんだから。えっと、よろしくお願いします。」

恐る恐る話しかけると、「彼」はにっこりと微笑んだ。私は顔が赤くなるのを感じ、彼を見られなくなった。