古塔の魔女は異世界人

宮瀬

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ちらりとハルを見ると、どうやら彼も彼で気になるものがあるらしく、何やら真剣な様子で商品を手に取っている。女性物が多いはずだが、何かあったのだろうか。

「ねえハル、どっちがいいと思いますか?」
結局決められなかったため、ハルに尋ねてみることにした。どちらのワンピースも中心についているリボンの色以外はほとんど同じデザインになっている。シンプルで、おそらくこの店の中では安い部類に入るはずだ。

「うーん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
「ええ?」

ハルは私の問いには答えず、なぜか店の中心にある大きな姿見の方へと促してくる。手にしていたワンピースは流れるように棚に戻されてしまった。手を引かれるようにして鏡の前に立たされるとすぐに、彼は明らかに先程のワンピースよりも高そうなものを手に戻ってきた。ちらりと見えた値札に目眩を覚える。

「は、ハル・・・!私そんなにお金持ってないんですけど・・・!」
「ああ、心配しなくていいよ。僕が全部買ってあげるから」
「え?!」

突然のことに目を白黒させている間にも、ハルは次から次へと洋服を私に合わせ選別していく。なぜハルに服を買ってもらうことになっているのだろうか。彼と私は間違いなく初対面であるし、こんなに高価なものを買ってもらうようなことは一切していないのに。そもそもなぜそんなに楽しそうにしているのか。ぐるぐると頭の中を巡る思考に振り回されていると、あらかた洋服の「選別」が終わったようで、おそらく購入予定と思われる服や小物が積み重なっていた。
「え・・・?あの、ハルに買ってもらうわけには・・・」
「大丈夫、僕案外お金もってるから」

そういう問題ではないと続けようとするが、彼はそんな私の様子を見て眉を下げる。まただ。また彼は悲しそうな顔をする。

「久しぶりなんだ。こうして何か贈り物をできるのは」
「え・・・?」
「だから、迷惑じゃなかったら受け取ってくれないかな。喜んでくれたらもっと嬉しいけど」

どういう意味だろう。思わず口を噤み彼を見返すが、何も分からなかった。結局ハルは大量の洋服を買ってくれ、私は申し訳ない気持ちになりつつも素直に喜ぶことにした。お礼を伝えると、彼は嬉しそうに笑った。





すっかり我が家と化した塔に着く頃には、辺りは薄暗くなっていた。1日中歩き通しだったため明日は筋肉痛になりそうだと辟易するが、ハルが運び込んできた買い物袋の山を見ると疲れも吹っ飛ぶような心地がした。

「それじゃあ、僕はそろそろ時間切れだから」
「あれ、もうそんな時間でしたっけ」

買い物に夢中で気づかなかったが、ハルを召喚してから結構な時間が経っていたようで、魔石の残り魔力量はあとわずかということらしかった。

「そっか。色々ありがとう、助かりました。またお願いします」
「いや、僕は・・・ううん、またね」

なんだか含みのあるような言い方が気になったが、丁度そこで魔力量がそこを尽きてしまったようで、ハルは少し名残惜しそうに微笑んだ後霧のように消えてしまったのだった。
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