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どうやら心配は杞憂だったようで、彼は少し声量を落として私に話しかけてきた。私がそれに答えると彼は途端に顔を明るくし、さらに一歩近づいてくる。ここではユーリと呼んでと柔らかく微笑まれ、緊張で頭がおかしくなってしまいそうだ。なんとか私もここではミコトと名乗っていることを伝える。
「驚いた、ミコトもこの世界に来てたんだね。一人で?」
「う、うん。ユーリ君は?騎士になったの?」
「僕は友人達と一緒に。騎士とというより魔法使いの方が近いけどね、剣も使うよ。」
見ると確かに彼は魔法使いが切るようなローブの下に細身の剣を帯刀していた。
今は王都に家を借りて友人達とルームシェアをしていると続ける彼に、順調そうだと安堵する。身長が低い私に合わせて少し屈みながら視線を合わせてくる彼に一層顔が赤くなる。私の髪の色を不思議そうに見つめる彼に、経緯を説明すると途端に心配そうに眉を下げた。
「よかったら、僕たちのところに引っ越してくる?一人じゃ大変じゃない?」
「え?!いや、大丈夫。ありがとう」
突然の申し出に慌てつつ必死に断る。あの華々しい集団の中に飛び込む勇気はないし、そもそもルームシェアとは言え片想いの相手と生活を共にできる気がしない。今こうして話しているだけでも恥ずかしくて死んでしまいそうなのに。
私が断った後も、彼は心配そうにこちらを見つめてくる。こんなに優しくしてもらえるなら、異世界に飛ばされるのも悪いばかりではないなと邪な考えが浮かんでしまう。
「・・・僕が時々様子を見にこようか?」
「え?!いや、それこそ申し訳ないよ・・・!大丈夫、案外一人でも生活できてるので・・・!」
「でも・・・」
彼が何やら言葉を続けようとした時、丁度上の階から降りてきたアンドリューさんが私たちに声をかけた。ユーリは咄嗟に口を噤み、視線をそらす。
「魔女殿、すまないがこの本を数日貸していただけないだろうか。」
「もちろん、大丈夫ですよ」
ユーリ君との会話が途切れてしまったことを少し残念に思いながら、それが表情に出ないように必死に口角を上にあげた。少々顔が強張ってしまったが、気づかれなかったようだ。アンドリューさんは丁寧に礼をすると、春野君に声をかけ先に外へ出ていった。
「ごめん、もう行かなきゃ。僕に手伝えることがあったらいつでも呼んで、王都の騎士団の人に聞けば、居場所を教えてくれると思うから。」
「あ、ありがとう」
息も絶え絶えにそう言うと、彼は涼しげな目元を緩めながら「じゃあミコト、また来るね」とアンドリューさんと共に去っていった。嵐のような出来事だったと、熱くなった頬を両手で抑える。なんだか有耶無耶になってしまったが、おそらく社交辞令だろう。きっと、彼は優しいから頼めば本当に来てくれるだろうけれど。彼が微笑みかけてくれたことを思い出してしまい、つい期待に膨らむ想像に、私はぶんぶんと頭を振って脳裏から追い出した。
「驚いた、ミコトもこの世界に来てたんだね。一人で?」
「う、うん。ユーリ君は?騎士になったの?」
「僕は友人達と一緒に。騎士とというより魔法使いの方が近いけどね、剣も使うよ。」
見ると確かに彼は魔法使いが切るようなローブの下に細身の剣を帯刀していた。
今は王都に家を借りて友人達とルームシェアをしていると続ける彼に、順調そうだと安堵する。身長が低い私に合わせて少し屈みながら視線を合わせてくる彼に一層顔が赤くなる。私の髪の色を不思議そうに見つめる彼に、経緯を説明すると途端に心配そうに眉を下げた。
「よかったら、僕たちのところに引っ越してくる?一人じゃ大変じゃない?」
「え?!いや、大丈夫。ありがとう」
突然の申し出に慌てつつ必死に断る。あの華々しい集団の中に飛び込む勇気はないし、そもそもルームシェアとは言え片想いの相手と生活を共にできる気がしない。今こうして話しているだけでも恥ずかしくて死んでしまいそうなのに。
私が断った後も、彼は心配そうにこちらを見つめてくる。こんなに優しくしてもらえるなら、異世界に飛ばされるのも悪いばかりではないなと邪な考えが浮かんでしまう。
「・・・僕が時々様子を見にこようか?」
「え?!いや、それこそ申し訳ないよ・・・!大丈夫、案外一人でも生活できてるので・・・!」
「でも・・・」
彼が何やら言葉を続けようとした時、丁度上の階から降りてきたアンドリューさんが私たちに声をかけた。ユーリは咄嗟に口を噤み、視線をそらす。
「魔女殿、すまないがこの本を数日貸していただけないだろうか。」
「もちろん、大丈夫ですよ」
ユーリ君との会話が途切れてしまったことを少し残念に思いながら、それが表情に出ないように必死に口角を上にあげた。少々顔が強張ってしまったが、気づかれなかったようだ。アンドリューさんは丁寧に礼をすると、春野君に声をかけ先に外へ出ていった。
「ごめん、もう行かなきゃ。僕に手伝えることがあったらいつでも呼んで、王都の騎士団の人に聞けば、居場所を教えてくれると思うから。」
「あ、ありがとう」
息も絶え絶えにそう言うと、彼は涼しげな目元を緩めながら「じゃあミコト、また来るね」とアンドリューさんと共に去っていった。嵐のような出来事だったと、熱くなった頬を両手で抑える。なんだか有耶無耶になってしまったが、おそらく社交辞令だろう。きっと、彼は優しいから頼めば本当に来てくれるだろうけれど。彼が微笑みかけてくれたことを思い出してしまい、つい期待に膨らむ想像に、私はぶんぶんと頭を振って脳裏から追い出した。
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