カゴの中のツバサ

九十九光

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講師からは自習の指示が出ているが、大抵の子供はシャープペンシルを握ってはいない。不快そうな顔をしたり、隣の席の子供と小声で話をしたりしながら、白板の前で行われている、例の少年に対する担当講師の説教話に注目していた。
「そんな汚い格好で勉強する気があるのか、貴様!」
 土埃で汚れた紺色の制服を身に着けた少年に、塾の講師の男は気持ちの高ぶりで顔を赤くして怒鳴りつけていた。それとは対照的に、右の頬が不自然に赤くなっている少年は、儀式的に目線だけを男のほうに向けている。
「子供の仕事は遊ぶことじゃなくて勉強することだ! 頬の赤いのも服が汚れているのも、どこかでふざけてきた証拠だろ!」
 少年は目の前の男が言い放つ、半分私情が入り混じったこの話を聞き流していた。気持ち黒目が大きく見える両目は、我ここにあらずとでも言いたげな様子だった。
 この少年の名前はカミヤツバサ。漢字に直すと神谷飛翔となる。愛知県で最も学費が高い男子校の一つとして有名な私立小学校に通う彼は、これまでの展開でも分かる通り、いじめられっ子と呼ばれる人種だった。
 彼は、小学五年生の平均身長百三十八センチと比べれば明らかに小さい体をしており、遠目から見ると女の子に間違われるような顔を持っていた。近所の中年女性たちからは、「可愛らしい子ねぇ。」と言われることは多かったが、個性の尊重などまるで考えない年頃の男子だけのクラスでは、いじめの対象にしかならなかった。今日起きた出来事は、ツバサにとっては珍しくもなんともない日常だった。
 そしてツバサには、今目の前にいる塾講師の男を筆頭に、この問題を相談できる大人がいなかった。
 まず彼の母親は、ツバサの成績以外には一切の興味を示さない人物だった。
 彼女自身は、スーパーやコンビニなどのパートの掛け持ちという、年間九十万の学費を捻出できるような仕事とは程遠い仕事をしている人物である。しかし、自分自身のスペックにしたいのか、将来大企業に就職させて養ってもらうつもりなのか、彼女は金のある同級生に借金をし、無理矢理ツバサを今の学校に通わせていた。始発で仕事に向かい、終電で帰ってくるという生活をほぼ毎日のように続けており、日曜日の夜以外はまともにツバサと会話をする機会すら設けない。その時にツバサがテストで八十六点を取ってきたとなれば、彼の顔に痣ができるほど強く叩くような人物である。こんな人物に勉強以外の話をしようものなら、「そんなこと考えてる暇あったら机に向かいなさい!」と、理不尽な仕打ちを受ける
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