カゴの中のツバサ

九十九光

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#2-2

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て、嫌いなはずのお母さんにも大っぴらな反抗期見せない、こんなにも礼儀正しくて優しい子を、みんな揃って悪い子みたいに言うんだから。」
「いや……。そんなこと……。」
「肩の力抜きなよ、ツバサ君。ご飯も普通に食べていいからさ。」
 料理に手を付けずに自分に相槌を打っているツバサに、カナコは自分の話を中断して柔らかい声で言った。それにツバサが返事をし、テーブル隅の入れ物からナイフとフォークを取り出すのを見ると、彼女は自分の話を再開した。
「あたしもツバサ君の気持ち、よく分かるよ。あたしもね、パパが会社の社長で、ママもその秘書やってるから、将来は自分たちの会社を継がせたいらしくて、すごい期待してきてね。でもそんな風に思われても、こっちが困るだけじゃん。」
「そういう……、ものなんでしょうか……。」
「そうだよ。ツバサ君だって、ホントは勉強なんかよりずっとやりたいこと、あるでしょ?人間なんて、なるべく早くそういう自分がやりたいこと見つけて、そこに本当の自分を見つければいいんだよ。」
「は、はあ……。」
「あたしも、親のわがままで今のお嬢様学校入れられたけど、ホントはもっと普通の高校行きたかったんだもん。あんまり勉強頑張らなくてもよくて、流行りのドラマとかアニメのカッコいい男の子とかの話題ができる、もっと普通の高校に。」
「そう……、なんですか。」
「うん。進学校なんて、親の言いつけや自分磨きなんかを理由に、無理に背伸びしていくような場所じゃないよ。ちょっと雰囲気悪いところでも、そこが一番居心地いいんなら、そこが自分のいるべきところなんだよ。」
 カナコは少し口調を強めながら、正しい人生の過ごし方のモットーのようなものを、まるで数十年生きてきた人間のように語っていく。ツバサはそれを、少し圧倒されながらも、相槌を打ちながら聞いていた。
 親が決めた生き方に逆らう生き方。周囲の人間の評価を気にも留めない生き方。カナコはそういう生き方の楽しさと気楽さを、健康食品を売りつけたいセールスマンのように強く訴えてきた。だがその力強さには、母親や教師たちが自分を叱りつける時に内包されている、こちらの発言を許さない強制力はなかった。自分の意見を言いたければ、いつでも話を中断させていいという、ルーズな一面が見えていた。
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