カゴの中のツバサ

九十九光

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#5-5

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「ううん……。たぶん……、お姉ちゃんが思ってるほど……、傷ついてないと思う……。」
 二人ともお互いの顔から視線をそらして、一言一句を声に出す前に確認するように、ゆっくりと会話をしていた。
 だがそこから先がなかなかつながらない。ツバサの本心は、もともとあの画像は誰にどんな理由で送るつもりだったのかを知りたがっていた。そのうえで、カナコとは今まで通りの関係を続けたいと思っていた。そしてその両方は同時に叶えることはできないものだということは、小学生の頭でも充分に理解していた。
 二人の間に、どんよりと思い空気が循環する。それを知ってか知らずか、異様なほどの作り笑顔をした店員が、これもまた異様なほどトーンの高い声でハンバーグセットを持ってくる。
 時間だけが過ぎていく。こんなに心細いと感じたことも、こんなに赤の他人に頼りたいと感じたことも、ツバサは今まで経験したことがなかった。
 ツバサはカナコをこの場に誘ったことを後悔し始めた。自分が思っていた以上に、無力で、できることが少なすぎると痛感させられた。
 そしてこういう時に会話をつなげてくれるのは、やはりカナコだった。
「勉強、分からないこととかあったら言って。今この場で教えてあげるから。」
 ツバサは改めて、カナコが話し上手だと実感した。
 問題の根幹にいきなり触れずに、まったく関係ない話題から会話を続けることで、本当に話し合いたいことが後で言いやすくなる状況を作ろうとしている。ツバサにはカナコの台詞にそんな心遣いを感じ取った。
「……。おうし座の勉強を、今日学校でやったんだけど……。」
「あんまり分からなかった? じゃあ、教科書出して。」
 カナコは教科書の該当ページをツバサに見せながら、おうし座に関する話を始めた。
 おうし座は秋から冬にかけて最もよく見える星座で、アルデバランという星やプレアデス星団という星の集まりを中心に形成されている。そして教科書で最も伝えたい部分である、星座の形成のメカニズムについても、星一つ一つは地球からの距離は全然違うが人間の目ではその距離感がつかめず平面に見えてしまう、と、動画投稿サイトに上がっていた教育関係の動画をスマートフォンで見せながら解説した。
 ツバサは、カナコの話がスラスラと耳に入ってくるのを実感した。恐らく同じ話を、学校と塾で確実に二回は聞かされているはずだった。だがなぜか、カナコの声は頭の中に鮮明に
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