カゴの中のツバサ

九十九光

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#10ー4

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その状態が何時間と続いたように感じられた。傾き始めた太陽が照らす公園内は、男子たちの「グッとっパーのそーろーい!」という掛け声だけが極端に響き渡っていた。
 そんな中、最初に口を開いたのはツバサだった。
「今からLINEで話してもいい?」
「LINEで? お母さんと?」
「ううん。お姉ちゃんと。」
「あたしと?」
「うん。」
 小さな声で言い終わると、ツバサはすぐに背負っていた鞄からスマートフォンを取り出し、文章を打ち込み始めた。すぐにカナコのスマートフォンから着信を告げる音楽が鳴り出し、ツバサが何を言いたいのかを伝えてきた。
『昨日、お姉ちゃんの夢見て精子出ちゃった』
 ツバサからのLINEにはそう書かれていた。
 カナコはそれに対して、すぐに返信をした。
『ツバサ君もりっぱな男の子なんだね おめでとう』
 その後も二人は、お互いの顔を合わせることなく、淡々とSNSを介して話し合った。
『怒らないの?』
『おこるようなことじゃないじゃん 男の子なら一度はやっちゃうことなんだしさ』
『でもお姉ちゃんでやっちゃったんだよ? 何も思わないの?』
『それはたしかに 最初はビックリしたけどさ ツバサ君もそういう年なわけだしさ』
『でもお姉ちゃんを見てエッチな気持ちになったから精子出ちゃったから』
 この誤用だらけの文面をツバサが送信したところで、カナコの返信がなくなった。それまでは緑の吹き出しの上に既読とついてから一分ほどのペースでやり取りが行われていたにも関わらす、三分経ってもカナコからの返信が来なくなった。
 ツバサにとてつもない不安が襲い掛かった。薄暗い夜道を目印も地図もなしに歩くような、たった一人しかない部屋の中で誰かに見られているような感覚に襲われるような、そんな恐怖とは比べ物にならない恐怖が、ツバサの不安定な心を押しつぶそうとしていた。ツバサには、耳に入ってくる子供の声も、脇の道路を通過する車の音も、自分で打ち込んで液晶画面に映し出された文字も、何もかもが自分に襲い掛かろうとしてる怖いもののように感じ取ってしまっていた。
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