カゴの中のツバサ

九十九光

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#11ー2

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そしてまっすぐツバサの席の前に行くと、中の教材類を引っ張り出すようなこともしないで、力任せに猫の死体を机の中に押し込んだ。同時に金属製の裏側の部分から血とは違う汚い液体がしたたり落ちる。すでに無関係の生徒が一人どこかへ逃げ出してしまっていた。
 そのあとすぐに、何も知らないツバサが教室に戻ってきた。
 教室内の生徒たちは、わざとらしく慌てたそぶりを見せて部屋中に散らばり、ツバサの反応に注目した。
 ツバサはまっすぐに自分の席に戻ると、机の中に手を突っ込み、次の授業の教材を形式だけ用意しようとする。当然彼の手に、先ほど押し込まれた猫の死体が触れる。悪臭にまみれた血と何かの液体が、彼の白い手の甲を伝って手首までやってきた。異変に気づいたツバサが体を屈め、遂に中に入っている猫の死体を直接見た。教室内にいる全員が、ツバサが中のものに驚き悲鳴を上げて飛び退く様を想像した。
 だがツバサは何の反応も示すことなく、机から猫を引きずり出した。逆に悲鳴を上げたのは、それを見ていたほかの生徒たちだった。猫は元の形を失って四角形の塊になり、遠目から見ただけでは何なのかさえ分からない状態になっていた。ツバサは嘔吐する周囲をよそに、原型がなくなったそれを無造作に教室内のゴミ箱に放り込んだ。
この事件は即座に学年全体に伝わることになり、ツバサに何かしら危害を加えようという生徒を学校から完全に排斥した。ただしその名残として、ツバサに対する陰口は残り続けることになった。
 横進ゼミナールには足を運ぶこともしなくなった。
 このころから、カナコはツバサの学校が終わると必ず校門の外側で笑顔を浮かべて出迎えるようになっていた。そんな彼女に笑顔で応えたツバサは、こっそり学校に持ち込んでいた革紐のネックレスを首にかけ、夜遅くまで名古屋市中を彼女とともに見て回る生活をするようになっていた。
 名城線金山駅の近くに新しいケーキ屋ができたと聞けば、私服姿の大学生に混じって店へと向かい、名古屋港前の広場にアマチュアのシンガーソングライターがやってくると聞けば、完全に日が落ちるまでそこで恋の歌に耳を傾ける。赤の他人は誰もそれを怪しまなかった。触らぬ神に祟りなしの精神の蔓延と、どう見ても仲睦まじい姉弟にしか見えない様子が、二人の時間を邪魔するものをこの世から消し去ってしまっていた。
 学校だの門限だのに縛られ、自分の時間が自由に持てない人であれば、誰もが羨ましがるであろう生活を、ツバサは小学五年生で満喫していた。
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