カゴの中のツバサ

九十九光

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#14ー4

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スチック製のカードに事前に文字が印刷されているタイプにつき、上から修正液で漢字を訂正するなんてことはできなかった。
 突然立ち上がった可南子の母親が、学生証と令状をひったくった。そしてその二つを交互に見比べ、字の違いを確認している。どうやら最初に確認したときは、父親ともども気が動転して誤字に気がつかなかったようだった。
「おかしいな……。確かにあの先生に確認した時は、この加奈子で間違いないって言われたんだけど……。」
 大橋は令状を母親から受け取ると、そこの名前と自分のメモ帳に記した名前を見比べ始めた。
「もし、字が違ってたら……。」
「そりゃ効力なくなりますよ! 一文字違っただけでも!」
 ソファに座りっぱなしの可南子の父親の疑問に、大橋さんは声を大きくして答えた。
 現場の警察関係者も一斉にざわつき出している。書類を印刷した責任者へ電話を入れる人もいれば、急いで横進ゼミナールに確認する人もいた。
 そこに可南子は、落ち着きがなくなり始めた大橋にさらなる質問をぶつけた。
「一応確認しますけど、横進とかで名前とか確認した時って、漢字のほうは聞かなかったんですか?」
「あ、ああ……。人命がかかわっているかもしれなかったから、塾でも小学校でも高校でも、急いで電話だけで名前と住所だけ確認を……。申し訳ありませんでした。漢字の確認はすっかり抜けて」
 大橋はここまで言って、急に黙り込んでしまった。まるで自分の発言で何かを察して、それを頭の中で整理している、といった感じに見えた。
「大橋刑事! 塾とASAのカゴカナコは、彼女の証言通りの駕籠可南子でした! A学院小の教師が見たカゴカナコは、令状通りの駕籠加奈子で間違いないと!」
 大橋より若いワイシャツの男の人が、血相を変えてリビングに入ってきた。それを聞いて少ししてから、大橋は可南子に少し早口になって確認事項をしてきた。
「君と同じくらいの年頃の子に、自分の出身校や住所、バイト先について話したことは?」
「えっと……。……! 大学の英語の授業で高校とか住んでる場所とかアルバイトとかについて、同じ大学の女子学生に話したことはあります! 去年の秋から今年の一月くらいの間に!」
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