Night Sky

九十九光

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you're never coming backー5

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「次は熱いじゃ済まさん」

 次の瞬間、ライターの炎が消え、穂花が息苦しくなる。

 遊大は察した。ローランが穂花の周辺の酸素の時間経過を進ませて、酸化反応で酸素を消したのだと。野球場は鉄製品の宝庫。屋根で雨風からそれらを守れるドームとなれば、急速な錆への対策は充分にとられていないのも当然。

「隊長! ローランから離れて! 酸素を消されてる!」

 そのアドバイスで落下した穂花は外野方面へと走っていった。そこにリッチャルデット、リナルド、フロリマールなどの近接主体の勇士が襲いかかる。

「守ってくれる人がいなくなったな」

 ローランが遊大と相対する。

 遊大は考えた。この危機的状況をどうするか。年の差でフィジカル勝負は不可能なのは先日の件で知っている。何より向こうが自分を殺す気なら、触れただけで相手を老化で死なせてミイラにできるため接近はどの道できない。

 そこで遊大は思いついた。向こうが空気に干渉できるなら、こちらも空気に干渉すればいいと。

 外へとつながるあらゆる場所へと、急速に風が吹く。遊大はそれに乗って一気に出口へと向かった。

 酸素を時間逆行させ、光合成前の状態に戻したのだ。結果、酸素は自身を排出した外の植物のほうへと急速に向かっていく。それで起こった風が遊大を運ぶと言うわけだ。

 唐突な突風に地上の人間や飛行精度の低いジラールは、風に煽られて戦闘どころではない。

「俺には通じねえな」

 遊大の後方、ローランが酸素の時間促進を早める。周囲の酸素が2つの現象に巻き込まれた結果、ドーム内は竜巻のように風が吹き荒れた。

 その竜巻の中を風に任せて飛ぶ遊大とローラン。両者ともバランスを取るのがやっとで、それ以上の攻撃はできなかった。

 地上の穂花は、この竜巻のせいでライターをつけられないでいた。そもそもついたらついたで、水素のほうが多いこの空間では、水素爆発が起きる可能性が出ていた。

 そこに体勢を低くしているリッチャルデットが膝蹴りを彼女の顔に叩き込む。穂花は外野の壁に打ちつけられた。
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