8 / 166
#1-2
しおりを挟む
な不気味な雰囲気を演出している。女性がこのコースを歩くようになって今年で二年目だったが、こんなことは今まで一度もなかった。
女性はこの状況を気味悪がったが、コースを変えることはしなかった。歩くペースを日常生活のペースにして、川の流れに沿って普段のウォーキングコースを歩いていく。女性は周囲を懐中電灯で照らしながら、カラスが鳴く理由を探して回った。
だが、入り口近くや川と反対側の林のほうは、確認してみてもいつも通りだった。平素と大きく違うのは、やはりカラスの鳴き声だけだった。女性の中では引き返したいという思いが込み上げていたが、彼女は前進し続けた。勇敢だからというわけではなく、帰りたいと思ってもそれを実行するのも怖いという悪循環に陥っていたからだった。
やがて女性は、中山道のほぼ中間地点にたどり着いた。せせらぎ川はこのあたりで、ほかの場所より川幅が広く作られており、休憩地点になる屋根つきのベンチも用意されている。街灯は一つだけあるが、屋根つきベンチしか照らせておらず、せせらぎ川はうっすらと照らすだけだった。
女性はこの周辺を懐中電灯で照らして回った。ここがちょうど、カラスの鳴き声が最もうるさくなっていた地点だった。
林のほうは依然としておかしな点は見られなかった。鳴き声の主であるカラスの群れと、「この人間は何をしているんだ」とでも言いたげな野良猫くらいしか見当たらなかった。
続いて川のほうにライトを向ける。
衣服も貴金属も身につけていない女が一人、川のほうに頭を向けて仰向けに寝ていた。
偶然頭がライトの照らす範囲外で顔はよく見えなかったが、腹の上には一羽のカラスが絵画のモデルのように立っていた。ライトを照らす女性には、彼女の肌が日光か日焼けサロンで小麦色になるまで焼いたように見え、シワやたるみが少ない肌から年齢の若さもうかがえる。ライトを照らす女性は、酒の飲みすぎでこんなことになっているのだろうかと考えた。
だが女性はすぐに、それは大きな間違いだということを思い知らされた。
頭のほうにライトの光を向けると、女の首が胴体とつながっていなかったのだ。つながっているはずの頭は、倒れている女の横にある岩の上に、さらし首にされた罪人のそれのように、瞳と口が力なく開いている状態で飾られていた。川の水の中に浸けられている首の切断面のあたりには、そこから中の肉をついばんでいるカラスたちがいた。ここの利用者が小鳥と入れ替わっていた理由はそれだった。
女性はライトを上下に振り回しながら元来た道を無我夢中に走って引き返し、偶然通りかかった車を止めて警察に通報させた。
話はここから一時間ほど経過した午前七時三十分まで進む。
「レイプされた後で殺されたってので間違いないだろ、この事件」
現場に向かう覆面パトカーの集団の中の一台。現場の職員からの無線を受け、愛知県警
女性はこの状況を気味悪がったが、コースを変えることはしなかった。歩くペースを日常生活のペースにして、川の流れに沿って普段のウォーキングコースを歩いていく。女性は周囲を懐中電灯で照らしながら、カラスが鳴く理由を探して回った。
だが、入り口近くや川と反対側の林のほうは、確認してみてもいつも通りだった。平素と大きく違うのは、やはりカラスの鳴き声だけだった。女性の中では引き返したいという思いが込み上げていたが、彼女は前進し続けた。勇敢だからというわけではなく、帰りたいと思ってもそれを実行するのも怖いという悪循環に陥っていたからだった。
やがて女性は、中山道のほぼ中間地点にたどり着いた。せせらぎ川はこのあたりで、ほかの場所より川幅が広く作られており、休憩地点になる屋根つきのベンチも用意されている。街灯は一つだけあるが、屋根つきベンチしか照らせておらず、せせらぎ川はうっすらと照らすだけだった。
女性はこの周辺を懐中電灯で照らして回った。ここがちょうど、カラスの鳴き声が最もうるさくなっていた地点だった。
林のほうは依然としておかしな点は見られなかった。鳴き声の主であるカラスの群れと、「この人間は何をしているんだ」とでも言いたげな野良猫くらいしか見当たらなかった。
続いて川のほうにライトを向ける。
衣服も貴金属も身につけていない女が一人、川のほうに頭を向けて仰向けに寝ていた。
偶然頭がライトの照らす範囲外で顔はよく見えなかったが、腹の上には一羽のカラスが絵画のモデルのように立っていた。ライトを照らす女性には、彼女の肌が日光か日焼けサロンで小麦色になるまで焼いたように見え、シワやたるみが少ない肌から年齢の若さもうかがえる。ライトを照らす女性は、酒の飲みすぎでこんなことになっているのだろうかと考えた。
だが女性はすぐに、それは大きな間違いだということを思い知らされた。
頭のほうにライトの光を向けると、女の首が胴体とつながっていなかったのだ。つながっているはずの頭は、倒れている女の横にある岩の上に、さらし首にされた罪人のそれのように、瞳と口が力なく開いている状態で飾られていた。川の水の中に浸けられている首の切断面のあたりには、そこから中の肉をついばんでいるカラスたちがいた。ここの利用者が小鳥と入れ替わっていた理由はそれだった。
女性はライトを上下に振り回しながら元来た道を無我夢中に走って引き返し、偶然通りかかった車を止めて警察に通報させた。
話はここから一時間ほど経過した午前七時三十分まで進む。
「レイプされた後で殺されたってので間違いないだろ、この事件」
現場に向かう覆面パトカーの集団の中の一台。現場の職員からの無線を受け、愛知県警
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる