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理由になっていた。そこに誰かが示し合わせたように、二人がペアになって発表を行う課題が何度か舞い込んできた。こうした話し合いと共同作業の繰り返しが、好代の中での大輔のイメージを、知的で頼りになる人として固めていくことになっていた。
「……。なあ、大輔。就活、どうしてる?」
中区にいる好代が、名東区にいる大輔にそんな質問をした。
「どうって……。解禁前の合同説明会はいくつか予約取ってるけど……。こら、マル。夜なんだから吠えないの」
その質問に対して一社の大輔は、自分の愛犬をなだめるような言葉を交えながら答えた。
「……。もうすぐ春休みだけど……、空いてる時間とかあったりする?」
好代は机の端に置いた小さな茶封筒に視線を向けたまま、しどろもどろに話を続けた。
「解禁したら忙しくなるかもだけど……。マル、やめろって」
「あ……! そうなんだ……! うん……」
「どうしたの、好代さん? マル!」
電話の向こうからは、小型犬が鳴く高い声が響いてきていた。それを聞く好代は、大輔が心の底で臨んでいた答えを言ってくれたことで、表情が晴れやかになっていた。
春休みが始まって就職活動が本格的になってしまうと、二人でどこかに出かける時間を見つけるのは難しくなってしまう。好代はそうなる前に、このお金を使って二人でどこかへ出かけたいと考えていた。東京や大阪の流行りのスポットにけるような大金ではないにせよ、二人で県内のどこかに日帰りで行く分には充分な金額ではあった。
せっかくだから、大輔が好きな電車が有名な所にしようか。行ったことあるかもしれないけど、路面電車が走ってる豊橋なんかはどうかな。
電話の向こうで愛犬のしつけに四苦八苦している様子の大輔をよそに、好代はそんな楽しい空想で頭がいっぱいになっていた。
そして彼女は、人生で一番高ぶっている乙女心を、電話の向こうにいる大輔にぶつけにかかった。
「あのさ……! 就活が忙しくなる前にさ……! 二人でどこかに」
「待って、好代さん」
突然大輔が好代の台詞を遮った。
「……。どうした?」
好代の中の乙女心が、手が離された風船の中の空気のように一気に抜けた。彼女は大輔の口調に、今まではなかった別の感情が入り混じっているのを感じ取っていた。
「……。死体があるんだ」
「……。猫の死体? マルちゃんが吠えてたのって、それが理由」
「人間の女の人の死体だよ!」
一社の住宅地の中にいる大輔は今、小さな公園の道路沿いにある椿の植え込みの上で寝
「……。なあ、大輔。就活、どうしてる?」
中区にいる好代が、名東区にいる大輔にそんな質問をした。
「どうって……。解禁前の合同説明会はいくつか予約取ってるけど……。こら、マル。夜なんだから吠えないの」
その質問に対して一社の大輔は、自分の愛犬をなだめるような言葉を交えながら答えた。
「……。もうすぐ春休みだけど……、空いてる時間とかあったりする?」
好代は机の端に置いた小さな茶封筒に視線を向けたまま、しどろもどろに話を続けた。
「解禁したら忙しくなるかもだけど……。マル、やめろって」
「あ……! そうなんだ……! うん……」
「どうしたの、好代さん? マル!」
電話の向こうからは、小型犬が鳴く高い声が響いてきていた。それを聞く好代は、大輔が心の底で臨んでいた答えを言ってくれたことで、表情が晴れやかになっていた。
春休みが始まって就職活動が本格的になってしまうと、二人でどこかに出かける時間を見つけるのは難しくなってしまう。好代はそうなる前に、このお金を使って二人でどこかへ出かけたいと考えていた。東京や大阪の流行りのスポットにけるような大金ではないにせよ、二人で県内のどこかに日帰りで行く分には充分な金額ではあった。
せっかくだから、大輔が好きな電車が有名な所にしようか。行ったことあるかもしれないけど、路面電車が走ってる豊橋なんかはどうかな。
電話の向こうで愛犬のしつけに四苦八苦している様子の大輔をよそに、好代はそんな楽しい空想で頭がいっぱいになっていた。
そして彼女は、人生で一番高ぶっている乙女心を、電話の向こうにいる大輔にぶつけにかかった。
「あのさ……! 就活が忙しくなる前にさ……! 二人でどこかに」
「待って、好代さん」
突然大輔が好代の台詞を遮った。
「……。どうした?」
好代の中の乙女心が、手が離された風船の中の空気のように一気に抜けた。彼女は大輔の口調に、今まではなかった別の感情が入り混じっているのを感じ取っていた。
「……。死体があるんだ」
「……。猫の死体? マルちゃんが吠えてたのって、それが理由」
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