和製切り裂きジャック

九十九光

文字の大きさ
41 / 166

#7-1

しおりを挟む
#7(三人称)


 名古屋市千種区自由ヶ丘。平和公園の北にある町で、いちいち説明する必要もない典型邸な住宅地。
 二月二十六日の午後八時。この町のとあるアパートの一室で、この日休みだった男は会社の上司にスマートフォンで通話していた。彼は名古屋に拠点を置く、とある新聞社に所属する若手記者だった。
「だーかーらー。今さらそんなこと言われても困りますよー」
 男はボサボサ頭をかきながら、電話の向こうの上司にけだるそうに言った。それに対して上司は、苛立っている様子を見せながら話を続ける。
「一言謝罪の文章を載せりゃいいんだよ。和製切り裂きジャックなんて文言考えるから犯人が便乗したって、ネット上で大騒ぎになってるんだぞ」
「許可したのは先輩じゃないっすかー。それに便乗したのは犯人の勝手で、俺の責任じゃないっすよ」
「確かにそうだがな……。人が死んでるのにふざけすぎたって話なんだよ。一応考えた本人も何か誠意を見せないと、会社としても示しがつかないんだよ」
「まったく……。アンチが怖くて表現の自由が守れますかっての」
 男は電話越しにも見て取れる、自分の上司の謝罪の美徳に呆れていた。
 彼が新聞社に入社したのは、世論が望む情報や思想をくみ取ってその通りに流すだけのメディアに対して憤りに近いものを感じていたからだった。いっそこの世界に自分の手で一石を投じてやりたいと思ったからだった。
 自分が思ったことをその通りに書くことの何が悪いんだ。どこの新聞社のどのライターも、読者に媚を売るだけのエセライターでしかないのなら、自分が本当のライターになってやる。その夢が彼の原動力だった。
 和製切り裂きジャックという言葉を作ったのも、海外のライターが考えそうなキャッチフレーズを出したかったからに過ぎなかった。それに本物が乗っかったからといって、それを理由に自分が誤ることに疑問を抱くのは、彼としては当然の心理だった。
「そんなに俺の謝罪文が欲しかったら、そっちで適当に繕ってくださいよ。俺はそんなバカみたいな反省文は書きませんからね」
「おいおい。捏造なんかしたら、ばれた時余計まずいことに」
「ライター一人一人の表現の違いを気にする読者なんていませんよ。それじゃ、また」
 男は頭ごなしに電話を切り、無理矢理会話を中断した。
 その後、一日寝て過ごしていた彼は、しつこく鳴り続けるスマートフォンの着信音を無視して冷蔵庫をあさり始める。中には飲みかけの牛乳パックが一本入っているだけ。自炊
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...