和製切り裂きジャック

九十九光

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#8-1

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#8(一人称)


 三月二日。愛知県のみならず全国で新卒採用の面接活動が解禁された翌日。
 今年の愛知県の人気企業は、残業ゼロ、夜勤の無理強いをしないと宣伝する会社だった。理由はもちろん和製切り裂きジャック。夜間に犯行を行うこのシリアルキラーの影響で、夜遅くまで働いて日の変わり目当たりの時間に出歩きたくないと考える学生が増加したのだ。わかりやすい一例として、とある社会福祉法人の話がある。ここは去年まで介護職を目指す学生の多くから滑り止め扱いされるほど人気のなかった法人なのだが、今年は事前に、夜勤シフトの要望を聞く、残業を強制させないなどの触れ込みを全面に出した結果、今年の就職博覧会のブースで説明を立ち聞きする学生が三十人も出る結果を生み出していた(介護職で残業なしなんてこの時代で実現できないと思うのだが)。
 そんなこの日の午前十一時。私は就職活動も四件目の和製切り裂きジャック事件もそっちのけで、中区の繁華街、栄の百貨店の中にあるチェーン店の古本屋でコミック本を立ち読みしていた。
 事件への興味関心がなくなったと勘違いされないために説明すると、この時の私は新聞やネットの記事から和製切り裂きジャックに関する情報を集めてスクラップブックを作る活動を細々としていた。冷静に考えればわかることなのだが、メディアの記事が被害者の関係者から聞いた話から作られている以上、関係者から話を聞くのはそもそも意味がなかったのだ。しかも和製切り裂きジャックは誰彼構わず無差別に殺しをしている。被害者やその関係者になんの接点もない以上、被害者やその近辺から何かを得るのは難しいと考えるべきだ。だから私は、メディアの出す情報の収集にのみターゲットを絞り、誰かに見せる予定があるわけではないが、スクラップブックの作成にシフトしたのである。
 話をこの時の店の様子に戻そう。
 並ぶのが嫌いな人ならファミレスでランチにしている時間なだけあって、古本屋の中の客の数は若干少なくなっている(それでもジュース入りの二リットルのペットボトルを持って、あと何時間居座る気だという人もいるのだが)。お昼が少しくらい遅い時間になってもかまわないという人にとっては、良識ある人が出て行って空いている今の時間が穴場なのかもしれない。私も開店直後の午前十時からずっとここにいるし、お昼を食べに行こうと考えている時間が午後一時を予定している。
 そうこうしているうちに、読んでいたファンタジーな戦争ものの漫画(メインクラスのキャラクターもわき腹を槍一本で突き刺されただけで少し時間をかけて絶命するくらいには、リアルな描写がなされたグロい漫画である)が読み終わった。そこそこ気に入った作品ではあったが五、六巻をケチった私は、読み終えた漫画を元の場所に戻して次の本を探しに通路を徘徊し始める。
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